第9話 魔物の巣窟 ~アグリサイド~

俺はシルフィーネ村へ着くと村長のところへ向かった。

途中ゾルダが姿を現したところは、ビックリしたけど。

周りの人たちも特に気にする素振りもないので、大丈夫かな。

村の中で暴れなければいいが……


村の長の屋敷へとたどり着くと、ドアをノックした。


「コンコン」


「アウレストリア王国の国王からの指令で来たアグリというものです」


ドアを開けると、美しい女の人が出てきた。

村の長というから、てっきりおじいさんが出てくるのかと思っていた。


「お待ちしておりました」

「国王様からは勇者様が来られるとの連絡をいただいています」

「私がこのシルフィーネ村の長、アウラと申します」


丁寧な挨拶を受けて、中の応接間に通された。

聞けば、アウラはシルフ族という種族らしい。

人よりは長生きらしく、132歳とのことだ。


応接間の椅子に座り、状況の確認をする。


「国王からは魔物が増えてきているからという話でしたが……」

「今の状況はどうなっていますか?」


「はい」

「ここ最近いつもと違う魔物が増えてきて、往来も難しい状況でしたが……」


アウラは険しい顔をして話を進める。


「数日前から王都セントハム方面の森に出ていた魔物が突然姿を消したとの報告がありました」


ん?……

俺たちが来た方向の話だな。


「突然姿を消した……」


「はい」

「腕がたつ者を向かわせ、森の確認をしましたが、やはり魔物がいなくなっていたとのことでした」


もしかして……と考えていたら、ゾルダが割って入ってきた。


「魔物とはこれの事か」


ゾルダはどこからともなく、ウォーウルフキングの頭を取り出した。


「……ヒィッ……」


アウラがひきつった顔をして、目をそらす。

しかし確認もしないといけないのか、意を決したように指の隙間から見ている。


「は……はい」

「この魔物でございます」


アウラが確認できたのを見てか、ゾルダがウォーウルフキングの頭をしまった。


「そうか」

「なら、こやつが倒したぞ」


「なっ…なんと」

「さすが勇者様でございます」


キラキラした目でこちらを見られても……

9割方はゾルダがやったんだけど……


「それじゃ、これで問題は解決したのでしょうか?」


アウラに訊ねてみる。


「たぶんですが、3割ほどといったところでしょうか」

「さきほどの森と反対の山の麓にかなり奥に広がっている洞窟があるのです」

「そこからかなりの魔物が湧き出てくるとの報告があります」


「だとすると、ウォーウルフキングはそのうちの一部だということ?」


「はい」

「そうなります」


あちゃー……

あれを倒すのにも苦労したのに、あとその倍以上いるのか。

げんなりする。


その話を聞いてか、ゾルダは目を輝かせている。


「おぉぉぉー」

「もっと戦えるのか」

「すぐにでも行こうぞ」


いや、急ぎすぎだろ。

もうちょっと話を確認しようよ。


「どの程度の魔物がどのくらいいるかとかはわかりますか?」


「詳細はわかりません」

「ただ湧き出るように魔物がでてくるとのことなので、そこには上位の魔物がいるのではないかと思われます」


ウォーウルフキングより上か……

今の俺で太刀打ちできるのか。

視線を落とし考え込む。


「おぬし、何を考えておるのじゃ」


「いや、今の俺の力でなんとかなるのかと思って」


「なんとかなる?」

「そんなこと考えていても強くはならんぞ」

「相手の状況がわからんし、一気に突っ込むことはせんが、まずは洞窟周りの魔物の殲滅からじゃろ」


ゾルダの言うことももっともだ。

まずは少しずつでも相手の戦力を削る。

そして俺自身が強くなっていくことが大事だ。


「アウラさん、わかりました」

「すぐに解決できるかはわかりませんが、やれるだけやってみます」


「ありがとうございます、勇者様」


アウラが俺の手を握り、嬉しそうにお礼を言う。

少し照れながら、なんとかしないとなと考えていた。


そしてしばらくしてからアウラの家を出て、手配してくれた宿に向かう。

他にも便宜を図ってくれているみたいで、食料や物資なども宿に届けてくれた。

そこまでしてくれているし、なんとかしないといけないな。


夕飯を食べた後に宿の部屋に戻り、考える。

さて、どうしたものかな。


「ゾルダ、さっきああ言っていたが、何か考えがあるのか?」


「いや、言葉通りじゃ」

「深い意味はない」


「何にも策がないの?」


「おお、そうとも」

「はっはっはっはっは」


偉そうに言うことか。

それに、さっきお酒も飲んだせいか、ゾルダのテンションが高い。


「久々の酒、うまかったのぅ」

「何百年ぶりじゃろ」


呑気だなぁ……

こっちは明日以降のことで頭がいっぱいなのに。


「そう悩むなおぬし」

「悩んでも解決はせん」

「そういうときは動くのみじゃ」


俺の肩に手を回して絡んでくるゾルダ。

鬱陶しい。

絡み酒は昔から嫌いだ。


でもあれこれ悩んでもだいたいうまくいかない。

思い切って動いてみないと道が開けないのも確かだ。

まずは明日、魔物の巣窟となっている洞窟に近い場所を見て回ろう。

そう思いながら、ベッドに横になるのだった。


翌日ーーー


俺たちはシルフィーネ村を拠点にまだ魔物が殲滅されていない地域へと出向くことになった。

俺のレベルアップもしないといけないし、巣窟にいる上位魔物の正体も突き止めなければならない。

やることがいっぱいだ。


ゾルダもいろいろ文句はいいながらも手は貸してくれる。

ただ姿は村でしか現われない。

ゾルダ曰く


「おぬしの手に負えるうちは手は出さん」

「おぬしにも強くなってもらわないとな」

「強い魔物が出てきたら、剣から出てきてやる」

「それまでは剣からの補助で十分じゃろ」


とのこと。

楽をしているなー。


「んっ?」

「おぬし、何か言ったか?」


「何でもない」

「いざというときは頼りにしてるぜ、ゾルダ」


そう言いながら、北西部あたりの魔物の調査と殲滅に向かうのだった。

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