第8話 シルフィーネ村 ~ソフィアサイド~
ウォーウルフキングをあやつが倒したあとから数日後……
目的地となっていたシルフィーネ村にたどり着いた。
「ここがあのじじいが言っておったシルフィーネ村か」
「じじいって、国王だぞ」
「あんな老いぼれをじじいと言って何が悪い」
「事実を言っておるだけじゃ」
「はぁ……」
何ため息をついておるんじゃ。
あやつは呆れておるのか。
「事実だろうが言っていいことと悪いこととがあるんだって」
怒りながらワシを見てくる
「…………」
「……って、なんで剣から出てる?」
「この間は剣を握ってないと出てこれなかったじゃん」
「さぁ、何故じゃろな」
「村の中で姿現わしていたら、村の人が怖がらないか」
血相を変えてワシに顔を近づけてくる。
「まぁ、大丈夫じゃろ」
「何せ、勇者御一行様だからのぅ」
「それより、おぬしの方が怪しいぞ」
あやつは動揺しているのか、挙動不審になっておる。
「いや……でも……元だとはいえ、魔王だったんだし」
「お前のことは知られているんじゃないのか」
そんな心配をしておるのか。
「ワシが魔王だったころからだいぶ経っておる」
「たぶん誰も知らんじゃろ」
「一応身なりも人間に近いし、気にしすぎじゃ」
「器が小さい男じゃのぅ」
こんなもん、堂々としておれば、だいたい気づかれんもんじゃのに。
「それより、何か言われておったじゃろ」
「あのじじいに」
「じじいは余分だって」
話をちょっとそらしてみた。
あまり突っ込まれて聞かれても、まだわからんことも多いしのぅ
確かあれは数日前のウォーウルフキングを倒した後の晩じゃったかな。
その日の事をいろいろと考えておった時じゃった。
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しかし、ウォーウルフキングのとどめをさそうとした時に、剣に戻されたのはなんじゃったのだろう。
封印の力が上回ったためじゃろうが……
たぶん魔力の使いすぎなのじゃろう。
横ではのんきにあやつが寝ておるのぅ。
前はあやつが剣を握っている時にしか、出れんかった。
力もまだまだ出し切れている感じはせん。
でも、最初にウォーウルフを倒した時より、ウォーウルフキングと戦っていた時の方が力は確実に上だった。
あやつのレベルと封印に何かしら関係があるのか……
それとも別の何かがあるのか……
あの時、ゼドのやつがどのような細工をしたのか。
あいつのことだから、凝ったことをやっておるのじゃろうがのぅ。
何にしても、封印が解けないことには、ここからも出られないしのぅ。
でも、あやつが強くなる度に力は取り戻せているのは確かじゃ。
今は、あやつと共に行き、強くなってもらうのが近道かもしれん。
……んっ。
細かいことを考えるのはどうも性に合わん。
あれこれ考えても仕方がない。
なるようにしかならんか。
あやつが剣を握っている時にしか出れんのはなんとかならんのかなぉ……
これでは戦いの時ぐらいしか出てこれん。
あやつは寝ておるし、ちょっと抜けられんか試してみるか。
いつも剣から抜け出す時のように力を入れてみる。
すると、剣が光りだした。
光が収まるころには、ワシの見える景色が変わった。
「おっ、抜け出せたようじゃのぉ」
思わず声が出てしまった。
振り返り、あやつの方を向いて見た。
「むにゃむにゃ……」
良かった。
起きてはおらんようじゃな。
剣を握って無くても抜け出せたようじゃの。
もしや封印が解けた……ということはなさそうじゃのぅ。
そう簡単に解けておったら苦労はしておらん。
どれくらい離れることは出来るのじゃろうか。
握っておるときは戦いの足かせになるようなことはなかったが……
まずは真っ直ぐ離れてみた。
しばらくすると、剣に戻されてしまう。
あまり遠くにはいけないみたいじゃのぅ。
それからあちこち動き回っては剣に戻されを繰り返しみる。
それでおおよその移動範囲はわかった。
そんなに離れなければ、剣から出ていてもよさそうだ。
さて、動ける範囲がわかったところでだ。
この後はどうするかじゃが……
少しの間は自由に外へ出られることは黙っておこう。
村ではいろいろ見てみたし、村に入る直前に外へ出てみようかのぅ。
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という感じで黙っておったが……
あやつはビックリしておったのぅ。
笑いがこみ上げてくる。
「何をそんなに笑っているんだ」
「いや、なんでも無いぞ」
「なんでも……ぷっ……」
あやつをからかうのは面白いのぅ。
これからも何か驚かせてやるか。
「それより、おぬし」
「ほれ、じじいに言われておる村の長……」
言いかけておるのに、それをさえぎるようにあやつが答える。
「わかっているよ」
「だから向かっているだろ」
村の賑わいの中を早足で駆け抜けていく。
村の人々もこちらのことを気にすることなく、普段の生活を続けている。
「せっかく、久々の人々がいるところなのじゃから」
「もう少し遊びたいのぅ」
「まずは用事を済ませてからだ」
「つまらん男じゃのぅ」
あやつは村の長の居場所を確認するために、通りがかりの人に話しかけている。
いろいろな物が売られている市場では話し声や笑い声が絶えない。
絶対的な力での関係の魔族とはあきらかに違う姿だ。
ワシが魔王をやっていたころも、こんなのだったのだろか。
人とだけでなく、同じ魔族とも常に戦っていた気がする。
ギスギスした気持ちが込み上げてくる。
「ゾルダ、そんな怖い顔してどうした?」
昔のことを思い出してか、顔が険しくなっておった。
「っ……ちまちまと頼まれごとなんぞやらんでもいいのではないか」
「この村が無くなれば、村の困りごとも無くなるしのぅ」
「いっそ、この村を消し飛ばせばそうではないか」
「やっ……やめろって」
「なんでそんなこと考えるんだ」
「なんでって、そりゃ魔王だからのぅ」
「何かあれば力でねじ伏せれば万事解決じゃ」
そう思うのが、何が悪いのじゃ。
「力だけじゃない」
「相手の話を聞くことも大事だし、話し合いで解決するならそれが一番だ」
魔族は相手の話なんかあまり聞かんからのぅ。
ようわからんが、この国の人たちは、対話を重んじるのかもしれん。
「村の長の居場所がわかった」
「そんな物騒なこと考えてないで、ついてこい」
「暴れるのは魔物の前だけにしてくれ」
あやつはワシの手をつかみ、引っ張っていく。
そして、村の長の屋敷へとたどり着いた。
「コンコン」
「アウレストリア王国の国王からの指令で来たアグリというものです」
ドアが開くと、なかからシルフ族の女性が出てきた。
ほぅ……
ここはシルフ族の村か。
「お待ちしておりました」
「国王様からは勇者様が来られるとの連絡をいただいています」
「私がこのシルフィーネ村の長、アウラと申します」
中の部屋にワシともども通されて、話を聞くことになった。
「国王からは魔物が増えてきているからという話でしたが……」
「はい」
「ここ最近いつもと違う魔物が増えてきて、往来も難しい状況でしたが……」
アウラは難しい顔をしながら話を続けようとしている。
何か他にも問題が起きたのじゃろうかのぅ。
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