第3話 剣を賜る ~アグリサイド~

マリアについてくと、バカでかく煌びやかな扉の前に着いた。

廊下の天井も高いし、扉も大きくて当たり前か。

ここに王様がいるのだろうか。


「勇者様を連れてまいりました」


扉の前に立つ近衛兵が大きな扉の取っ手に手をかけ、扉を押す。

そこには広い大きな間が広がっていた。


奥の方のこれまた豪華な椅子に座っているのが、国王だろうか。

国王の前につき、マリアが跪く。

それと同時に、俺の方に目を送る。

あっ、俺も同じことしないといけないのか。

慌てて、俺も跪く。


「勇者様がお目覚めになりました」


マリアがそう告げると、国王が顔を崩す。


「よく目覚めてくれた。私が国王のマルクス・アウレリウス八世である。

勇者をせっかく召喚したのに、このまま死んでしまうのではないかと思った」


勝手に呼び出しておいて、勝手に殺されてしまったら、かなわない。


「貴方が、国王が俺を呼び出したのか?」


ちょっとムキになる。

そして、つっかかるように話す。


「正確に言うと呼び出したのは私ではない」

「ただ、私が命令して、召喚の儀式をしてもらった」


多少ひるんだのか、弱弱しい声だ。


「勝手に呼び出されて、勇者と言われても困るんだが……」


さらにつっかかる俺。

国王が眉をひそめて話す。


「確かにそれはわかるが、こちらとしても事情があってな」


今の状況を長々と説明しはじめた。


纏めると

まず、前任の勇者が150年前に魔王を追い詰めたが、討ち取るまでには至らなかった。

勇者たちは深手を負って帰還。

その後、しばらくは平和になった。

ただ、最近になり魔王軍が攻め込んで来るようになった。


魔王に対抗する手段は、この世界にはない。

異なる世界から勇者を呼び出すしかない。

前任の勇者もそうだった。

ということらしい。


勝手に呼び出されて、魔王と戦えと言われてもな。

でも戻る手段はなさそう。

覚悟を決めるしかなさそうだ。


「事情はわかった」

「こうなった以上は仕方ないのかな……」

「で、どうすればいいんだ」


その言葉を聞いた国王の顔がほころぶ。


「そうか。引き受けてくれるか。よかったよかった」

「では早速だが、シルフィーネ村に向かってほしい」

「魔物が増えてきているとの報告がある」

「そこの状況確認と魔王に関する情報を収集してきてほしい」


何の装備も準備もないのにもう出撃命令か。


「何もわからない、丸腰の、俺に、一人で行けと!」


半分キレたように言う。


「あいすまぬ。村までの案内はするようにと、馬車は用意してある」

「それと武器や防具については、この中から使えそうなものを選んでくれ」


国王がそう言うと、兵士たちが武器や防具を持って目の前に立ち並んだ。


「年代物だが手入れはきちんとしてある。どれでも好きなものを選んでくれ」


見せられたとしても、初めて見るんだし、良し悪しがわかるか。

こういうのはフィーリングで選ぶしかないかな。

並んでいる装備を眺めていると、変な声が聞こえてきた。


「……を選……ぶ……のじゃ……」

「そ……この……剣……」


しっかりと聞き取れないような声だ。


「これか?」


そういいながら、ある剣を手に持った。


「そうじゃ、それじゃ。その剣じゃ」


手に持ったらハッキリと聞こえてきた。

目の前にいた兵士に、


「お前、喋った?」


と聞くが、首を横に振った。

どこから聞こえてくるんだ。

でも、この剣、なんとなくフィーリングがいい。


「それじゃ、この剣を貰います」


他にもいくつか、防具などを見繕い、持っていくことにした。


それから王様からは


「あとは、こちらが準備金になる。足りないものがあったら買うといい」

「勇者殿、あとはよろしく頼んだぞ」


笑顔でこちらを見ている。


「どこまで出来るかわかりませんが、出来るだけ頑張ります」


と、つげて、大広間から先ほどの部屋に戻った。



「さて、どうしたものかな……」


部屋に帰り、椅子に座る。

ボソッとつぶやきながら、貰った剣を持ち上げて眺めてみる。


そういえば、さっき聞こえてきた声はなんだったんだろう。

誰かがアドバイスをくれたのかな。

そう思いながら、剣を隅々まで見ていると、突然声が聞こえてきた。


「でかしたぞ。よくワシを選んでくれた」


そして、剣の先から一人の女が現れた。

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