もしも、童話の世界に彼女がいたら〜ユウとリョウタ〜

達見ゆう

きこりの泉

 昔むかし、あるところに木こりがおりました。彼女は女だてらに力持ちであったので木こりをして毎日木を切ってました。


 ある時、木こりは昼休み中に斧をうっかり泉に落としてしまいました。


「うーむ、あれがないと仕事にならん。深そうだが潜るか。服は脱いだ方がいいが、外では脱ぐなと夫に注意されてるし。着たままだと泳ぎにくいんだよな」


 木こりが悩んでると泉から美しい女神が現れて手には金の斧と銀の斧を持っていました。


「あなたが落としたのは金の斧ですか、銀の斧ですか?」


「そんな柔らかい金属で木が切れるわけ無いだろう。鉄製の使い込んだ斧だ」


「あなたは正直者です。褒美に両方あげましょう」


 そう言って、女神は金と銀の斧を木こりに渡し、泉に消えようとした瞬間。


「だからこれじゃ仕事にならんと言ったろ、鉄の斧を返せ!」


 木こりは金の斧を女神に投げました。女神に斧の柄が当たり、気絶した女神の元からいつもの鉄の斧が出てきたので回収し、ついでに投げた金の斧も回収して帰ってきました。


「ったく、女神でも人の話を聞かない奴は力でわからせるしかない」


 話を聞いた夫はあ然としながらも彼女に言っても無駄と思いつつ、ツッコミました。


「ユウさん、そこは大人しく金と銀の斧をもらうとこだよ。売れば鉄の斧は何本も買えるよ?」


「いや、新品は使い慣れないからこれでいい。金と銀の斧は迷惑料だ」


「はあ……」


 後で泉の女神に謝罪しないとならないなと夫はそっと考えました。


 翌朝、夫はいつもより多くの弁当を作りました。一つは木こりの分、もう一つは自分の分、そして女神に少しでもお詫びできるように豪華な弁当を作りました。


 いつもと違う弁当に違和感を持った木こりの妻はこっそり夫の跡を付けます。


 どこでもある話ですが「もしや浮気してるのでは?」と邪推したのです。


 しかし、予想に反して夫は一人で泉へ行き、「昨日の木こりの夫です。足りないかもしれませんが、お詫びにどうぞ」と豪華な弁当を捧げようとしていたところでした。


 ところが、元々太っていて不器用な夫はつまづいて弁当ごと泉に落ちてしまいました。


「リョウタ!」


 思わず、飛び出た木こりの前に女神が現れました。


「あなたが……げ、昨日の木こり。お、落としたのはこのきれいでマッチョなリョウタですか? それともスリムなリョウタですか?」


「どっちも違う! デブでドジな夫だ! 返せ!」


「あ、あなたは正直者です。褒美に二人のリョウタをあげましょう」


「ユウさ〜ん! 僕はいいから女神には手を出さないで〜」


 女神はリョウタと共に沈んでいきました。


「だから人の話を聞けぃ! デブのリョウタを返せっつーんた!」


 木こりの妻は泉に足から飛び込み、その勢いで女神に水中キックをくらわし、手を離した隙にリョウタを取り戻して地上へ出ました。


「大丈夫か? リョウタ」


「……明日にでも引っ越そう。恐らく女神からこの泉付近は出禁になるよ」


「何のことかわからんが、リョウタが無事ならそれでいい。今度から気をつけろ」


「いや、そういうことを言ってるのではなくてね」


「「あのー、僕たちはどうしたら」」


 二人が話しているとマッチョなリョウタとスリムなリョウタが声をかけてきたので木こりは「知らん、女神のところへ帰ったら?」と言い、太ってドジなリョウタと帰路につきました。


 めでたしめでたし。


 〜〜〜


「なんでいつもこうなるのだろう」


 僕が書くとユウさんが出てくる話になってしまう。小説講座に入っているが、今回は『民話や童話の二次創作をしましょう』の課題だ。

講座の先生にも「面白いけど、名前からして実話?」と突っ込みを受け、いや注意されたばかりだ。書き直してもなんか似た展開になってしまう。


「リョウタ、そろそろ晩ごはんにしよ……お? 新作か?」


「い、いやボツにするから読まないで。さ、夕飯食べるか」


 僕は慌てて鍵付き保存にしてリビングへ向かった。普通に家事もやるし、奥さんらしいところもあるのに童話との親和性が低い。コメディにするしかないと考えて食卓に着くのであった。


 〜了〜

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もしも、童話の世界に彼女がいたら〜ユウとリョウタ〜 達見ゆう @tatsumi-12

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ