初めて真剣に文字を綴ったのはラブレター

 作文が苦手ならば手紙も同様です。小学校4年生の時でしたね。気になる子が居たんですよ。お人形さんみたいでかわいい子でした。これが初恋なのかなんなのか今でも謎なんですが、好きであったことは間違いありません。しかし、告白なんか出来ない。そんな勇気は当時も今もありませんから。


 でも何か気持ちを伝えたいとは思ったんでしょうね。その子が父親の都合で東北の遠い県に転校になることがわかりまして、手紙を書いて渡しました。という洒落た話ではなく、転校になって居なくなったことで、より勇気と思いが強くなったのでしょう。その場で玉砕よりも距離があったのが幸いしたのかもしれません。


 とは言え、困りましたよ。作文が苦手なんですから、思いをどう書いて良いのかもさっぱりです。だからだいたいの内容は察しがつきますね。どうせしょうもない文面だったはずです。でも真剣でした。この上なく集中もしていました。そんなことはよく覚えています。


 今ならばもっと気の利いたことも書けるんでしょうけど、小学生ですからね。切手を貼って投函した時は、後戻りは出来ないと心臓がバクバクしてたでしょう。メールと違って待つ時間もやきもきしたもんです。それでも返事が来た時は舞い上がりましたね。


 「私も好きでした」なんて一文でもあったら即死してたでしょう。もちろんそんな文言は一つもなく、確か肩透かしにも似た体裁のいい言葉だけだったと記憶してます。それで何か踏ん切りがついたのか、悶々とした気持ちも薄らいでいきました。


 後にも先にもこれが唯一書いたラブレターです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る