第26話 エルヴィス

 エルヴィス


エルヴィス視点


 俺は森の恵み豊かなエーリンデル国に産まれた。父親は女王の弟で王弟にあたる愚かな男だった。

 その男は、ある日我が国の技術や文化を学びに来たという人間の女と結ばれたのだ。


 いまだに理解しがたいが、当時我が国でも融和路線が強くなり、人類というのはエルフとそれ以外という素晴らしい価値観を否定し、様々な種族と関わりを持つべきとの考えが広がっていたのだ。


 キッカケはそう、古い預言者のエルフが数十年後に大きな災いが起き、ソレをエルフと外から来た人間とが収める事になる。その災いはいずれこの世界を包み込むだろうが、エルフと人間、その他にもドワーフや獣人、竜人等が力を合わせ災いを乗り越えるだろう、と。そんなデタラメな預言をあろうことか国中のエルフが信じたのだ。


 そんな風潮、熱狂の中私は産まれた。おぞましい混血、ハーフエルフとして。


 物心ついた頃には「何故俺は純粋なエルフじゃないのか」と随分苦しんだ。“混じり物”である自分を民衆が担ぎ上げて来るのが気持ち悪くて仕方が無かった。


 しかし純粋なエルフが作ったこの国を荒らしたくは無くて、幼い頃の自分は唯々諾々と周囲に従っていた灰色の人生を歩んでいた。


 むろん、フェルミの母であり私の姉であるエルノートと比較されていたり、居場所が無かった訳では無かったし、冷遇されている訳でも無かったのではあろう。臣民達としては。


 だが、それこそが許せなかったのだ!俺の中では純粋なエルフこそ至高であり正義であり全てを手にすると信じて居たのだ!だから皆が「純粋エルフとかハーフエルフとかにこだわるのももう古いよね」みたいにうっすら思っていたのが許せなかった。許せなかったんだ!


 あの輝く木の根元で杖を振るう者は森と精霊から産まれたエルフでなくてはならない!


 そうならないのであれば、あんな場所など燃やしてしまえッッッッッッ!!!!




───────────



ダンジョンの奥深く………



「歓迎するよ“世界樹の苗木エルヴィス”くん。ようこそ、我々結社へ」 


 ろうそくに照らされた巨大な円テーブルを取り囲む様に数人の男女が座っていた。


 見たこともない様な仕立ての服を着た向こうの世界の住人らしき人間と怪しげな商売人の様な女、そして向こうに居るのは帝国の宰相か。おっと反対側には最大規模を誇る傭兵団の団長まで居るな。


 雁首揃えて醜悪な顔をしている。世界に破滅を齎す人間ばかりが集まっているな。


「アァ、よろしく。ちょっとこの世界をめちゃくちゃにしたくなってさ。アンタ達の誘いに乗ることにするよ。滅ぼしても良いけどエルフのつがいを5〜6組み程は確保していて良いかい?純粋エルフの国を僕は作らなくてはならないからね。その為には今のあの森は邪魔だからさ。」


「ハッハァ!エルヴィスさんよ!昔からアンタはどこか狂気を押さえつけてた感じがしたが、はっちゃけた姿がそれか!王冠とガウンより似合ってるぜ!!」


「君は傭兵団イナゴのイゴールか。お褒めに預かり光栄だよ。ウチの森も食い尽くしに来るかい?焼畑農業って意外と効率的なんだよね」


「異界のエルフってんで期待してたのにイカれた木人かよ。アンタ元はエルフなんだろ?そんなになってまで森を焼きたいなんて相当だね?」


「俺はエルフではない!産まれた時からな……2度と間違えるな」


 鋭く尖った木の根を商売人の女の首に突き付ける。女はポケットの中の何かを握り反撃の機会を伺って居るな?信用ならない女だ……


「ハイハイそこまで、俺達で争っても仕方ないでしょ?とりあえずエルヴィス君が仲間に加わりました〜で良いじゃないか。ついでだ、ご馳走でも食うかい?」


「いや………この身体になってから水と光で良いんだ。遠慮しておく。」



─────────────



エルフの森を抜けて数日………



「おっ!マックあれじゃないか?反帝国軍の前線基地!」


「あぁ、やっとか!早く異世界に呼ばれた使命とやらを終わらせて帰りたいぜ………」


ゴトン!


「あ、フェルミ?果物落としたよ?朝ごはんかい?」


「元の世界にマック様が帰る?元の世界にマック様が帰る?もしかして私を置いて行くの?未亡人になるの?いや私もマック様の故郷にでも森の皆を置いてなんて行けないでもでも私はマック様に救われて添い遂げると誓ったんだからそうだ今から異界に穴を開ける魔術を探さなきゃそうよ戦ってるヒマなんて無いわそうだよだからetc……」


「お〜い、このリンゴ食っても良い?」


「ハイマック様!お好きな様なら綺麗に皮を剥いて差し上げますわ!!」


ヒソヒソ

(マック、フェルミたん変わったよね)

(言わないで欲しいでごさるカイトどの……)



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