最初のボス戦

「ランレイ、大丈夫か!」


「か、体が痺れて……」


 体力バーは緑のまま減っていないが、ランレイは起き上がれないようだ。見ると、体全体に黒いエフェクトがかかっている。


 俺は改めて、目の前に現れたボスモンスターを観察する。


 キンググラスウルフ、Sシャドウ


 ただのキンググラスウルフなら、恐るるに足りない。だが、目の前の巨体は体が黒くなったという以上に、異様な雰囲気をまとっていた。


 ボス特有の長い体力バーが強者の雰囲気を後押ししている。


「それじゃあ主人公くん。私たちは帰りましょう……か」


 ドヤ顔でナヴィスが振り返るが、ゲーミング扉はいつの間にか消えていた。

 いや、あのボスが出てきた後すぐに消えてたんだが、前しか見てないから気付かなかったみたいだ。


「あ、あの変態ピエロ……肝心な時に役に立たないのね……!」


 なんだか知らんが、ナヴィスがいらいらと頭を掻きむしっている。KGSキンググラスウルフシャドウは今のところ、全く動く様子がない。


【5コンボです」


「あ、そうね。【扉攻撃】は5コンボに一回しか発動しないんだったわ……」


 なんてことだ。あの「敵を倒しますbot」だった主人公がナヴィスと会話をしている。


「……】


 するといきなり、主人公が右腕を天に掲げた。腕の先にメッセージが表示される。


[キャラスキル 単発ガチャ]


 頭上に黒い穴が開き、主人公の体からオレンジ色の秘石が5個、穴の中へ吸い込まれていく。


 そして、穴の中から白色のカプセルが1つ現れ、割れて光を放った。


[ガチャ結果:リタイア丸]


 主人公は手に入れたアイテム、リタイア丸をナヴィスに見せる。


『使いますか】


 リタイア丸は手のひらサイズで緑色のボールみたいなよくわからないデザインをしている。


「あ、ええ、そうね。それで逃げられるのよね?」


『………」


 主人公はこくりとうなずく。


「じゃあよろしく。シャドウマン、また会いましょうね」


[リタイア丸が使用されました]


 メッセージがどでかく表示されると、ナヴィスたちの姿はもうなかった。

 


『GGGGGGRRRRRRR!!!!!!!!」


 ナヴィスたちが消えると同時に、バグった咆哮をあげながらKGSが突進してくる。戦闘BGMが鳴り出した。


「うお、いきなりかよっ……」


 凄まじいインパクト。大型のトラック並の質量が真っ直ぐに突っ込んでくる、恐怖。


 いや、大丈夫だ。俺はシャドウマン。仕様上ダメージはうけない。


 ただ1つ引っかかるのはナヴィスの言葉……【冥黒のシャドウパーツ】を俺に使わせたい理由がさっぱり分からないが、今までのように俺が盾になり、その間にランレイがダメージを与える作戦で完封できる。


 得体の知れない【冥黒のシャドウパーツ】を使う必要は無い。


 そこで、俺は自らKGSへ向かっていく。


 俺に攻撃を引きつけ、ランレイが起き上がるまでの時間を稼ぐ。

 そのつもりだった。


 だが……


 タッ……


「え!?」


 KGSは近づいていった俺を軽やかにかわすと、素通りし、そのまま走って行く。


 そして向かう先には、トーカが倒れている!


(まさか、トーカを狙ってるのか!?)


「GGGGGGGGRRRRRRR!!!!!!!!」


「な、なに!?なにが起きてるの!?」


 寝たまま動けないどころか上しか見えないため、状況が把握できないトーカ。このままだと彼女は挽きつぶされてしまう。


「くそっ!」


 やけくそ気味に左足に飛びつく。前に出て壁になることは敵わなかったが、少しでも動きを鈍らせられればーー


「がっ」


 気がつくと俺の体は宙を舞っていた。後ろ足で蹴り飛ばされたのだと分かったときには、白い地面に強く背中を打ち付けていた。


「ぐえっ!」


 背面に電撃のような痛みが走り、潰れたカエルのような悲鳴が漏れる。

 痛い。本当に、痛い。


 俺の体力ゲージが削り取られ、バーの色が赤に変わる。


 おかしい。ダメージは受けないはずなのに。いや、KGがKGSになったことで仕様が変わっている、のか?


 KGSはそのまま、無防備なトーカに向かって飛びかかるーー


「てやぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 が、そこにランレイが踊りかかり、KGSの顔に飛び蹴りを繰り出した。


 KGSの体力バーはほんの少しだけ削られ、その軌道も僅かにずれた。

 トーカのすれすれにKGSの体が着弾する。


「ひっ!」


「大丈夫ですか!?」


「だ、だから、何が起きてるの!?」


 俺もなんとか立ち上がり、ランレイの横に立つ。


「ランレイ、もう動けるのか?」


「はい。任せてください」


 KGSは荒い息を吐きながら佇んでいる。【テロ】はターン制コマンドバトル。おそらくやつの行動が終わり、次は俺たちのターンというわけだ。


 まあ、ゲームに合ったはずのコマンドはどこにも見当たらないが。


 だが、まずい。俺がダメージを受けると言うことは、盾になる戦法が使えなくなった。その上、KGSの体力バーは緑のまま、ほとんど削れていない。


 このままでは、負ける。


「カゲさん……」


「ごめんランレイ、少し考えさせてくれ」


 状況を打開する何かを閃くため、目を閉じる。

 瞬間、瞼の裏に現れる、見慣れないメッセージウインドウ。


[主人公の力を、一部継承しました]


[【戦闘コマンド】の継承が完了しました]


「なんだ、これ?」


 目を再び開いた俺の前に、表のようなものが浮かび上がってきた。


 格闘少女ランレイ

 HP ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎

 SP 30/30

[攻撃]

[防御]

[キャラスキル]

[スペシャルスキル 0%]


 間違いない。目の前に浮かんでいるのは、【テロ】の戦闘コマンドだった。

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零細ソシャゲの雑魚に転生しました。主人公を倒してしまったので、代わりにクセ強美少女たちとセルラン1位を目指します 麦茶ブラスター @character_dai1

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