『冥黒のナヴィス』


 ゲーミングな扉から姿を現した、黒髪の美女。黒いローブに身を包み、背は高く、大きなとんがり帽子を被っている。


 俺に【冥黒のシャドウパーツ】を喰わせた張本人。


「私のプレゼント、気に入らなかったかしら?」


「……」


 美女は前回と違い、黒い宝石が散りばめられた木の長杖を持っている。悪役という呼び方を通り越して、もはや魔女と言った方がいい見た目だ。


 俺の頭から離れなかった違和感。その正体がようやくわかった。


()


 チャイナドレスにハイヒールとメリケンサックの格闘少女ランレイ、地雷のような格好に反して大工のトーカ。


 勿論彼女達だけでなく、このゲームのキャラは奇をてらいまくったデザインしかいない。


 それらに比べると、デザインが普通すぎる。


 THE•魔女なこの美女は【テロ】の世界観から明らかに浮いているのだ。


「積極性のない男は好みじゃないんだけど」


「あなたは一体……」


 一人で喋り続ける美女からただならぬ雰囲気を感じたか、戦闘態勢をとるランレイ。


「邪魔」


 美女がそう言って長杖を振ると、


《 黒風魔法・デモンサイス 》


 やけに凝ったエフェクトとギザギザしたメッセージウィンドウを伴った黒い竜巻が現れる。


「えーー


 竜巻を避ける間もなく、ランレイははるか後方へ吹き飛ぶ。すぐ近くにいた俺とトーカはなんともなかった。


「私はナヴィス。魔女学校16期、首席卒業生よ」


 美女は決め台詞のようにナヴィスと名乗った。


 明らかに浮いたデザインと設定。それに、今の攻撃は……?


 この世界は元の虚無ゲーとは異なる事ばかり起きるが、核となる戦闘システムは変化していなかった。


 キャラの行動は通常攻撃、キャラスキル、スペシャルスキルの3種類しか存在しないし、メッセージは[キャラスキル ○○]といった表記が行われる。


《 黒風魔法・デモンサイス 》なんて表記も、尖ったメッセージウインドウも存在しない。


 もしかして、ナヴィスは……


 なのか?


「ちょっとちょっと!トーカ抜きで話を進めないで!」


 その言葉を吐き出し切る前に、甲高いトーカの声が緊張を切り裂いた。


 彼女は未だ地面に倒れたまま、足は黒いモヤによって縛られている。


 ナヴィスは煩わしそうにため息をついた。


「私はシャドウマンにプレゼントを使って欲しい。でも、あなたたちはトーカちゃんを助けたい。そのためにはシャドウパーツが必要……これは難しい問題ね」


 うんうんと一人で頷くナヴィス。一見隙だらけだが、なぜか俺は動けずにいた。吹き飛ばされたランレイも起き上がる気配がない。


 やがてナヴィスは一人で結論に達したらしく、ぽんと手を叩いた。


「私はできる女だから、名案を思いついたわ」


 彼女がそう言うと、背後のゲーミング扉が再び開く。


 ゲーミング扉の中から、先ほどのクエストで戦うはずが、なぜか登場しなかったボスモンスター……キンググラスウルフがのっそりと巨体を現した。


 だが、それ以上に俺が驚いたのは、その背に黒塗りの人影が見えたことだ。


「あれは……」


 この【テロ】の、本来の主人公だ。その後ろには、影となったもう一人のランレイ。


「やりなさい、主人公くん」


『敵を、倒します……」


 主人公がキンググラスウルフに跨がったままその背に手を当てると、その全身が黒く染まっていく。


 キンググラスウルフが完全に黒くなった瞬間、少しフレームが歪んだメッセージが表示された。


[BOSS: キンググラスウルフSシャドウが出現しました】

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