木工屋トーカ
「ここは……」
俺とランレイはまた、真っ白な空間に戻っていた。
後ろを振り向くと、クエストのために入った扉はまだそこにある。
しかし今は、「クエストをクリアしました」と書かれた黄色いテープによって塞がれている。
クエストクリアって……謎の声が誰だったのか分かってないし、ボスも倒してないんだぞ。
改めて視線を前に戻すと、横たわっている影トーカが見えた。
そういえば、シャドウパーツが3つ必要だったんだ。
「ああ!すっかり忘れていました!ど、どうしましょう!!??」
ランレイがすっ飛んでいき、また心臓マッサージを行い始めた。
俺も近づいていくと、影トーカの上にメッセージが表示される。
[木工屋トーカの浄化:シャドウパーツ×3]
察するに、トーカを浄化しないとゲームが進まないらしい。
「じゃあ、やるか……」
体に触れれば、俺の中のシャドウパーツをトーカへ移動できるはずだ。
「ランレイ、大丈夫だ。一旦離れて」
「は、はい!」
「よし……」
……で、どこを触れば良いんだ?
トーカが目覚めたときに、俺が頭を触ってたらどう思う?ただの変態だ。
顔・胸・腹部はアウトだ。足……キモいな。
落ち着け。トーカは木工屋。詳細は知らんが大工的なキャラだろう。
性格はサバサバとか、姐御肌とかだと見た。
なんかそういうキャラだとする。
そういうキャラはちびっ子を鍛えた腕にぶら下げて豪快に笑っていそうだ……
そういう結論で、俺は二の腕に触れた。
トーカのシルエットは何というか全体的にでかいし、間違ってないはずだ……
ズォッ……
体の中から何かが出ていくような感覚。
影トーカのシルエットに覆い被さった黒いモヤがすっと消えていく。
するとシルエット自体が小さくなっていき、後には小柄な少女の姿が残った。
「も、木工屋……?」
夜のような黒髪に赤のインナーカラーを差した、ツインテール。涙袋に、リボンとフリルがあしわられた服装。しましまソックス。
トーカの姿は、「木工屋」なんて肩書きとは真逆の、「地雷系女子」そのものだった。
白い腕はすらりと細く、トンカチを持つような腕には見えない。
いや、妙な点は2つあった。
一つは、厚底の靴ではなく、天狗みたいな高下駄を履いていたこと。
もう一つは、腰回りに色とりどりに着色された釘をぶら下げている事だ。
「え!?こ、ここどこ!?」
そんなトーカは目をぱっちりと開け、同時に驚きの声を上げた。
「落ち着いてください。自分の名前は分かりますか?」
ランレイが手慣れた様子で、トーカを膝枕した。メリケンサックの部分が当たらないようにしながら、やさしく頭を撫でている。
しばらくして彼女は落ち着いたようで、ゆっくり喋り始めた。
「名前はトーカ……パパ、じゃなくて
パパ?いや、
「方ぴっぴ……?」
「方ぴっぴは、ぼっちだったトーカを育ててくれた恩人。家の建て方とか、釘の打ち方とか、色々なことを教えてもらったの……」
ああ、方ぴっぴって
トーカはランレイより記憶がしっかりしているみたいだ。
「そうなんですね……」
「それで、トーカはなんで動けないの?」
「え?」
よく見ると、トーカの足元に黒がまとわりついている。
「シャドウパーツは全部使ったはず……」
変な美女に食わされた[冥黒のシャドウパーツ]、それから宝箱で手に入れた[無名のシャドウパーツ×2]。3個あるはずだが……
そう思いながら足元に近づくと、新たなメッセージが表示された。
[木工屋トーカの浄化:シャドウパーツ×1]
あと、1個?
もしかして、冥黒のシャドウパーツはまだ俺の中にあるのか?
「えっと……トーカをどうする気?」
トーカの目が疑念を帯び始めた。これ、どうする。足に触れば良いのか?
「その、私たちは……」
ランレイがトーカを落ち着かせようと口を開いたその時、明るい電子音がさえぎった。
『5コンボ!すっごーい!!』
戸惑うヒマもなく、やけに元気な音声と共に、俺たちの目の前には虹色に光るゲーミングな扉が出現した。
扉はゆっくりと開き、中から人影が現れる。
「久しぶり、いや、さっきぶりかしら?」
「……お前は」
……………………………
『その力、使いたくなったら使いなさい。きっと面白いことが起きるわ』
……………………………
人影の正体。それは、俺に【冥黒のシャドウパーツ】を食わせた、黒髪の美女その人だった。
…………………………………
ヒロイン二人目は地雷系大工。
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