夢の中みたいな冬の夜に

立菓

夢の中みたいな冬の夜に

 オレは、正月しょうがつの三が日が好きじゃない。


 それは、自分の実家が神社だから。

 家業かぎょうの手伝いやらで、毎年、初詣はつもうで人混ひとごみに放り出されるのは、ちょっと抵抗ていこうがある。……さわがしいとこは、正直得意しょうじき とくいじゃないしね。



 実家はと言うと、『清能せいのう稲荷神社』っていう、古くからある由緒ゆいしょ正しき神社。

 オレらの家族かぞくは、岐阜県ぎふけんの西側にある清能町せいのうちょうに住んでいる。



 オレの父親ちちおやは神社の神主かんぬし。そんで、大学生の兄貴あきにが神社をぐ予定。


 オレの名前は清王俊せいおう しゅんで、今年で小五。

 兄貴あにきの進路が決まっているので、どうやらオレは、家業かぎょうぐプレッシャーが全くいらしい。



 ああ、高二の姉貴あねき将来しょうらいパティシエをなるために、専門学校せんもんがっこう目指めざしている、と言ってたかな……?

 とはいえ、巫女みこ格好かっこうは気に入っているようで、オレとはちがい、家業かぎょうの手伝いは楽しそうにやっているみたい。



 話はもどるけど、別に『清能せいのう稲荷神社』自体はきらいじゃないんだ。緑が多くて、広々とした場所って、気分がいいしね。


 人混ひとごみ……とゆーか、多くの人としゃべんないといけない状況じょうきょうが、オレはすんげー苦手で。

 オトンやオカンみたいに、多くの氏子うじこさんたちに挨拶あいさつとか雑談ざつだんとかするのってムズいし、気乗きのりしないんだ。



 まっ、そんな感じで今年の大晦日おおみそかも、お守りやら絵馬やら破魔矢はまややらを運んだり、カウンターに並べるために種別しゅべつしたりして、オレなりに頑張がんばって手伝ったんだ。




 そして夜になって、神社の敷地内しきちないで、おき上げの準備じゅんびが終わった後――

 一匹の白い動物が、遠くからオレをじっと見つめているのに気が付いた。


 その後、その動物は神社の小道、山につながる遊歩道に入っていった。



 オレは気になって、その動物のあとを自然と追いかけていった。

 大きな白い野犬か? それとも別の動物かなぁ?? そんなことを考えながら、オレは白い動物についていった。


 遊歩道を抜けると、歩きにくい細い獣道けものみちに入っていく。その獣道けものみちは、山の遊歩道よりはずっと長いようだ。




 ……と、白い動物は、山の中ではあるけど、広く開けた場所に向かった。

 少しだけつかれていたけど、オレも一踏ひとふん張りして、白い動物を再びさがした。


 その広く開けた場所に着くと、すぐに白い動物は見つかった。その動物は、高いとこにある木造もくぞう建物たてものの手前、めっちゃ長い階段かいだんの下にるようだ。

 てっ、……んっ?? この建物たてもの、どこかで見たことあるような?



 それから、建物たてものの周りの様子も不思議ふしぎだった。昨日は全国的に大雪だったのに、ココは全く雪が積もっていない。


 あと、篝火かがりびは建物のそば、土の上に数カ所しか置かれていないのに、あまり暗くないみたいだ。星もたくさん見えて、満月も出ているからか、空からの明かりが強いように感じたし……。


 それに、ダウンコートも着なくていいくらい、秋の昼間のように心地よくすずしかった。



 ふとふたた建物たてものを見てみると、白い動物が階段かいだんを上っているのに、オレは気が付いた。

 オレは建物のそばに行き、階段に近づいていた。階段かいだんの真ん前で足を止めると、高いところにある建物たてものの方に目をやった。



 白い動物が建物たてものに入ると、すぐにその動物と一緒いっしょに、一人の女の人が外に出てきた。ゆっくり、ゆっくりと階段かいだんからりてくるようだ。


 その女の人は小柄こがらで、変わった格好かっこうはしていた。それと、頭の上の方に一つかみをまとめて、一部のかみらしていて、白いワンピースのような服を来ていた。

 女の人の年齢ねんれいは、二十代……なかばかな?


其方そなたが『清能せいのう稲荷神社』の神主かんぬし息子むすこ、次男の……しゅんか?」


 その女の人は階段かいだんの下までりてくると、オレの顔をやさしく見つめた。


「あっ、はい。そうです……??」


われはウカノミタマじゃ。……ああ、此処ここ京都きょうとにある伏見稲荷大社ふしみいなりたいしゃの近く、神々が異界いかいじゃよ。

 其方そなたと会って、少し話してみたいと思うてな。それで、其処そこにおる天狐てんこ若葉わかばに、そなたを此処ここまで案内あんないさせたのじゃ。若葉わかばは、其方そなたたちの神社を担当たんとうしておる」


「では、ご子息しそく様。どうぞ中へお入りください」


 ええぇぇぇ!? うちの神社におまつりされている、超々有名ちょうちょう ゆうめい五穀豊穣ごこくほうじょうと金運・商売繁盛しょうばいはんじょうの『神様』と、オレ話してたっ??


 それに今になって、はじめて白い動物がきつねで、しかも神様の『位の高〜いお使い』だって気付いたしっ!!

 あと、そこの木造もくぞう建物たてものも、歴史れきし教科書きょうかしょってたこともね!



 何かの魔法まほう一瞬いっしゅん、オレの眼鏡めがねがVRゴーグルになったかと、勘違かんちがいしたよっ!!


 てかっ、どう考えても、自分がとしか思えない……。




 オレは建物たてものの中に入ると、ウカノミタマ様から温かい緑茶をご馳走ちそうになった。


 天狐てんこ若葉わかばちゃんは背筋せすじばして、ウカノミタマ様の真横に座っていた。

 若葉わかばちゃんもウカノミタマ様と同じように、上品さがあるようだ。


しゅんは、確か……キカイと言ったか。高等こうとうなソウチ……にかんするしょくに、興味きょうみがあったかえ?」


「あ、はい。……プログラマーやらシステムエンジニアやら、ですね」


「そうか……。そういう一人で黙々もくもくとこなせるようなしょく目指めざしているとはいえ、社会に出てから、同じ目標もくひょうを持つ仲間とうまくやってくには、意思疎通いしそつうおこたってはいかんぞ、しゅんや。

 ……とは言っても、その幼き年で、ほとんど愚痴ぐちも言わず、家業かぎょうの手伝いを毎度している姿には、実は感心しておる。大人になってはたらはじめたら、いずれは役に立つゆえ、今後も家業かぎょうの手伝いを続けると良いぞ」



 俺が家に帰る時、ウカノミタマ様と若葉わかばちゃんが山道まで送ってくれた。


此処ここは、人間界とは時間の流れがちがゆえ、神社に戻った時は、数分しか時間が経っていないだろう。大切な息子の帰りがおそいと、其方そなたの家族も決して心配することは無いから、安心すれば良い」


 そして、「目の前の光の中に入れば、すぐに神社にもどれるぞ」と、ウカノミタマ様はオレに言った。


 山道の入口に見えたうすい黄色の光の中に入ると、ウカノミタマ様が言っていた通り、あっという間に『清能せいのう稲荷神社』の本殿ほんでんの前に着いたんだ。




 オレは家にもどると、急いで夕飯ゆうはん風呂ふろませ、明日からの家業かぎょうの手伝いのために、早めにることにした。

 そうして布団ふとんの中に入ると、オレはウカノミタマ様からのアドバイスをふっと思い出した。


意思疎通いしそつうを言い換えたら……、そっか!! 氏子うじこさんたちとのコミュニケーションが、かも、か……)


 オレはまだまだガキだからか、ピンと来てはいないとこもあるのかな?

 だけどっ、少しでも苦手なことを克服こくふくしようとするのはイイコトだと思うから、コミュニケーションの練習れんしゅうができる家業かぎょうの手伝いは、できるかぎつづけていこうと思う。


 オレらがまもっている神社に、これからもたくさんの参拝者さんぱいしゃが来てしいしね!



〈おしまい〉

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