第6話名工の正体
この女得体が知れない、唯の鍛冶職人が呪いの武器を作り上げ、つかいこなせるものか。
「何が目的だ!」
殺人鬼の類ならばこの様な山中よりも、人の多い町の方が都合がいいはず。
「女神に頼まれてね、ディーノ君だっけ?彼を廃棄処分して、再利用の為に頭だけ持って来いって」
廃棄処分?再利用の為に頭だけ寄こせ?
巫山戯るなよディーノは物じゃない、私は腸が煮えくり返る思いだ。
「すまない思考が安定しなくてね、心無い言葉だった………」
女の雰囲気が一瞬変わった、多重人格というわけでは無さそうだが、何かおかしい。
「私は武器の手入れを欠かさない者を尊敬する、彼を見捨てれば他は見逃すが?」
答えるまでもない、私はメイスを構えメアリーを見据える。
「改めて名乗るよ、私はメアリー、断頭台に消えた賢人達の知恵を受け継いだ者だ…」
メアリーはギロチンを両手で持ち、上段の構えをとる。
相手は鍛冶屋と名乗る女、たが、私はこれまで対峙した誰よりもプレッシャーを覚えた。
奴は軽々とギロチンを打ち込んできた、メイスで受ける、剣術の類ではないが計算された動き。
急所は狙っていない、スタミナ切れを狙って居るのか?
「あと二回……」
数回撃ち込んだあとメアリーが呟く。
「何の話しだ?」
「あと二回の攻撃でそのメイス砕け散るよ」
ハッタリか?剣ならともかく戦場でメイスが砕け散るなんて話は聞いたことがない。
「私は鍛冶屋だからね、見ただけで…どこを何回叩けば壊れるか解るんだよ…」
メアリーが再び打ち込んできた。
「!」
一撃目でヒビが入る!
二撃目でメアリーの宣言通りメイスが砕け散る。
『馬鹿な!』
私は目疑った、奴の打込みは武器破壊の布石だったと言うのか!!
「がっ、は」
私は腹を斬られた、血が流れ激痛が走る。
「武器を大切にしてくれたお礼に、苦しまないよう首をはねてあげよう…」
奴がギロチンを掲げたその時!
「アゴーニ!」
魔力の弾丸がメアリーを゙吹き飛ばす。
マーシャがディーノを連れ助けに来てくれた。
「ディーノ!コカさんに回復を、彼奴は私がやる!プラーミァ!」
追撃の呪文で奴は炎に包まれる。
ディーノが回復魔法をかけてくれる、徐々に傷が癒える。
「二人とも逃げろ奴は即死技を使う…」
──セット…リリース
炎の中から声がする。
「ぐっ」
突如マーシャの首が血が吹き出す。
彼女は咄嗟に傷口を焼き止血する。
「私はいいから、コカの回復を!」
「さすが魔術師呪いをはじいたか!それに傷口を焼く判断も早い!」
炎の中からメアリーが出て来た、火傷は負ってるが痛みを感じないのか涼しい顔をしている。
「ア、アルバス!?」
マーシャがメアリーの顔を見て叫んだ、アルバス、確かにホワイトスミスと言ったがどういう事だ。
「マーシャか参ったな……」
「奴はメアリーと名乗った、本当にアルバスなのか?」
回復を終え立ち上がるとマーシャに尋ねる、眼の前の狂人と博識と言われたアルバスの姿が一致しない。
「メアリーが本名、断頭台のメアリーでは武器はともかく、酒器や日用品は売れないと思ってね」
彼女は髪をかき上げる。
「アルバスというのはこの白髪から取った、白と言う意味だよ」
「何でこんな事を?金や名誉ならもうあるでしょう?」
マーシャが疑問を口にする、私は知らなかったが作品がオークションに出されるほどの鍛冶職人、当然金や名誉はすでにあるはずだ。
女神しか用意出来ない何かが必要なのか?
「霊的障害でね……自我が消えそうなんだ」
先程思考が安定しないと言っていたが、自我が消えるなんてあるのか。
「この刃からね、処刑されたあらゆる職人、賢人の知識を受け継いだ代償だよ」
メアリーはギロチンに目をやる。
「当時、駆け出しの職人だった、私に自分の技をや知識を託したい……それ自体は贈り物のつもりだったのだろう…好意的なね」
彼女はため息をつき、泣きそうな声で続けた。
「だが量が多すぎた!ハニーブロンドだった髪は石灰の様な白髪に!人格は残ったが!親の顔も故郷の思い出も消えてしまった!小娘の頭に耐えられる知識量では無かったんだ!私が求めたわけでもないのにな!」
「それで女神は何を約束したんだ?」
私は尋ねる。
「転生だ―自我残ってる内に自害しようとした、その時女神が言った、失敗作の勇者の首を持ってくれば新たな生を約束すると!私は今度こそ自分の意志で人生を生きる!」
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