釣った魚にフルーツをあげてみた

dede

第1話 釣った魚にフルーツをあげてみたけど、雑誌は持ってないからムリ

「えーと、つまり明日はこの雑誌に取り上げられたフルーツパーラーに連れてって欲しいと?断る。俺は明日は釣りなんだ」

「えー?いいじゃん。ユウ君がいつも行ってる磯のちょうど近くなんだよ。お願いだよ。帰りに寄ってよ?」

「魚臭いままオシャレなお店に入りたくないんだけど?」

「大丈夫、いない魚は臭わない」

「釣るわ!仰山釣るわ!ぷんぷん臭わせてやるわ!」

「そん時は車で待っててね?」

「え、えぇ?……まあいっか」

「え?ユウ君、それでいいの……はぁ」

「朝早いけど、いいか?」

「何時?」

「3時半」

「早過ぎっ!?ユウ君、モーニングコール……」

「ああ、わかったけど。これでも普段より遅い時間なんだからな?」

「えー?そんな早起きしてまで釣りしたいの?」

「釣りじゃないと満たされないものがあるんだよ」

「むー、じゃあ、電話お願いね。また明日」

そう不満そうに言い残してシズクは去っていった。シズクがいなくなったので途端に静かになった。


「ちょっと!なんでもっと早く起こしてくれないの!」

まだ暗い中、車の助手席を開けた途端、真っ先に文句が飛び出してきた。朝から賑やかだった。

「って、スイカ!?なんでスイカ!?って、助手席にスイカあったら私座れないじゃん!」

「あ、シズクは後部座席……」

「いいわけないじゃん!?ユウ君、これ、嫌がらせ?嫌がらせなの?私盛大にイジメられてるの?スイカ移動させるから3分待って……って重い」

「中身の詰まったいいスイカだろ?」

「ちょっと得意げにならないでよ!?いい迷惑なんですけど!」

その後シズクは素早くスイカを後部座席に移動させて、助手席に座ってシートベルトを装着する。

「30分遅れてるからちょっと急ぐぞ?」

「誰のせいよ?」

「シズクの準備が30分遅れたからだろ?」

「出発時刻の10分前に起こされて準備できる訳ないでしょ!?むしろ30分で支度した私を褒めたい」

「すまなかったねぇ、気配りできてなくて」

「ホントだよ。助手席にはスイカ置いてるし……って、あのスイカって何なの?」

「ん?餌」

「え、魚が食べるの?スイカを?」

「食べるぞ?チヌとかぐらいだけど。フルーツパーラー行くって聞いて試したくなって」

「スイカ、フルーツじゃなくて野菜じゃん」

「!!……盲点。まあ、他の餌用意してないし、このまま釣るよ。あ、小腹が空いたらカバンの中にサンドイッチと紅茶入ってるから適当につまんで」

「わかったー」

「まだ着くまで時間あるから寝てていいからな?」

「ん、いいよ。話し相手いないと退屈でしょ?」


「ちょっと!?なんで起こしてくれないのよ!?」

「あ、起きたの?」

ちょうど磯に着いて、釣り道具をおろしてたところだった。車内できょとんとしていたシズクが周囲を見渡すと勢いよく車から降りてきた。

「あー、ごめんね?いつの間にか寝てた……でも、だったら起こしてよ?」

「別にいいってば。それより車のエンジン着けたままにしとくけど、あまり変なところ弄らないでね?」

「え、私も行くよ?」

「え、シズクも行くの?退屈だと思うよ?それに……寒いんじゃない?」

シズクは自分の腕を抱いて身を縮こませている。夏とはいえ夜明け前の海は風も強く肌寒い。

「んー、でも一緒にみてる」

「そっかー、じゃあコレ着てて。俺ので悪いけど」

車のトランクから薄手のパーカーを取り出すと、シズクに手渡した。

「……あ、ありがと」


「はい、今日の釣りタイム、しゅーりょー!」

「え、まだ釣り始めてから2時間ぐらいじゃんか!?まだ時間あるよ?」

「釣れる時間は終わったの。これ以上続けても無駄だよ」

「えー?でもパーラーが開くまであと1時間以上あるよ?」

「だったらさ、そこに砂浜あるらしいから少し散歩しようよ。まだ今の時間帯なら人も少ないでしょ?」

「お、いいね。行こう行こう」

「じゃあ、少し待って」

俺は車に釣り道具を片づけると、車の中で服も着替えた。

「あ、着替えたんだ?」

「さすがにさっきのザ・釣り人みたいな恰好じゃシズクと釣り合わないから。じゃ、行こうか」

「うん」

少し歩いて移動し、コンクリートの階段を降りると砂浜と海岸線が続いていた。

「……結構、ゴミ、たくさん落ちてるな?」

「別にリゾート地みたいなのは期待してないってば?それにそういうのが楽しいんじゃんか」

そう言って身近に落ちていた丸太に飛び乗るとその上でバランスを取った。

そうかと思うと波打ち際に落ちてるクラゲを足先でつついていた。

「見て見てー、いっぱい落ちてるー。死んじゃってるのなー?」

「ほらほら、ガラスの角が取れて綺麗だよー?」

「うへっ!?なんかの死んだやつ見つけちゃったよーっ!?」

と俺の前後を行ったり来たりしながら賑やかに報告するのだった。

と、急にシズクが静かになった。草むらの一点を見ている。

視線の先を俺も見てみると、半乾きでヨレヨレになったやらしー雑誌が落ちていた。

「……なにやってるの、シズク?」

「へっ!?」

ぎこちなく首を捻ってコチラを向いた。

「いやー、そういえばユウ君の部屋ってこういう雑誌置いてないなぁと思って」

「持ってたとして、それを部屋の人目につく所に置いてる訳ないじゃんか?」

「え、隠してるの?」

あ、これ、次部屋に行ったら絶対探そうって思ってる目だ。見つけたら見つけたで絶対ヒくだろうに。まあ、そんな雑誌は部屋にないから問題ないけど。見つからないと今度は不満言いそうだなぁ。

「誤解しちゃダメだ。そもそも持ってないから。さて、そろそろパーラーに向かったらちょうどいい時間じゃない?」

「おお!ようやくパフェにありつける。いっぱい食べよっと!」

「食べ過ぎて太っても知らないから」

「大丈夫!午後の部活で全部消費する!」

「……それはそれで燃費悪いな」


「ユウ君、今日はありがとね……」

「どう致しまして。寝てて大丈夫だからな」

「うん」

帰りの車の中。早起き、はしゃぎ疲れ、甘いもののトリプルコンボですっかりシズクの目はトロンとしていた。

「たまにでいいから、またこうしておでかけ連れてってくれたら嬉しいな」

「善処します」

「釣りでもいいよ?」

「でも退屈だったろ?」

「ユウ君とたくさん話せたからそうでもなかったよ?」

「そっか。まあ、たまにはな」

「うん、今度は釣れるところも見せてね」

そう言い残し、シズクが寝入って静かになったのでこの話もココでおしまい。

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