死なない犬
与都 悠餡
第1話
犬の寿命は人間より短い。
「この犬は私が産まれた時からいるの」
母は四十六歳。最初は嘘だと思った。
犬の寿命は十年から十三年。
四十六年の歳月も生きれる訳ないのだ。
私の家は代々【遺伝子】の研究をしており、この【犬】を所有する事が正統後継者の証だった。私は次期後継者だった。
「この犬も遺伝子改造されてるのですね」
「ええ」
そして母は驚くべきことにハサミを取り出し【犬】の首めがけてグサッグサッグサッと刺していく。
「この犬は生きてちゃいけない【犬】なの」
なにをと言おうとする前に、ぐったりと倒れていた【犬】がむくりと起き上がる。
『朝子、お前はまだ私が怖いか?』
「この犬しゃべれるのですか?」
「そうよ、朝乃」
「朝乃には言わなきゃいけないことがあるの」
「なあに、母さん」
生き返る犬。
これは人間の脅威となる。
「だからね、母さんの言うことちゃんと聞くんだよ」
「分かってますよ、母さん」
「良い子にしてたらちゃんと人間との脳に入れ変えてあげるからね」
朝乃は自分を人間だと思っている犬だった。生前は犬ではなく人間であることは間違いなかった。
だから記憶の母である【朝子】に懐き、産んでくれた身体の母は【犬】は【犬】としてしか見ていない。
例えその犬の脳味噌も【朝乃】の本当の母の脳であっても。
死なない犬 与都 悠餡 @Kumono01
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