第4話
メーラーを開くと、大量のメールが来ていた。返信するべきものはひとつもなかった。その多くは広告的な内容だったから。
しかし――このなかに、
ブラウザを立ち上げ〈お気に入り〉の一番上にある、「先生」のブログを開いた。わたしが勝手に「師匠」と尊崇している「先生」の記事が更新されている。
一字一句、丁寧に読んでいく。
胸が熱くなる。勇気づけられる。涙がでそうになる。
毎週更新されるブログでは、仕事と近況の報告が書かれている。今週はとくにたくさんの仕事の報告があり、忙しくて趣味のための時間がないとのことだった。
その文章から感じられる、仕事が急がしくともやりがいと楽しみがあるのだという前向きな気持ちに、わたしは胸を打たれた。
わたしは、――仕事ではないといえども――楽しんで創作活動をしているだろうか。やりがいを感じ、進んで苦労を引き受けるほど熱情をかたむけているだろうか。
おそらく、そうではない。
はやく結果を出さなければならないという焦りから、公募の指定の文字数を満たすために文章を埋めていき、平面的ではなく立体的というように表現してきた、伏線のある物語をただ作りさえすればいいなどと思ってはいなかったか。
自分に問うてみる。それは楽しいのか?――と。
楽しいわけがない。ひとと自分とを比較して
小説を書くマシーンと化した人間といっても、過言ではない。
結果を出すためには、楽しまなければならない。楽しく書いていれば、良い作品が生まれて、それが人の心を揺すぶることに繋がる。
先生のブログを読むたびに、自分にとって大事なことを思いだす。
ノートを開いてプロットを読み返す。もっと、感情移入のできる登場人物を作ってみよう。物語のなかで動かすことに、やりがいと楽しみを感じることのできるような、登場人物たちを。
日向からの連絡はない。
時折、スマホを確認するが、ホーム画面にはなんの変化もない。
そのとき、手紙のアイコンに数字のマークがついた。
《もう、消えたい……》
こんなタイトルの迷惑メールは、わたしを困惑させるより恐怖に陥れた。連絡先を間違えているということを返信させて、使われているメールアドレスだと確認する目的の迷惑メール――らしいが、なぜこんなタイトルにしたのだろう。
高揚していた精神は冷や水をぶっかけられて、木枯らしに吹かれ、ぶるぶると震え上がった。焚火を探してあちこちを見回したが、
わたしのことを
わたしを知っている人たち全員に、密かにそう叫んだ。
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