まずは段取りと相棒を
とりあえず、ログインボーナスのコンニャクを使ってもう片方の靴とモバイルバッテリーを転移させた。
「よし、これでスマホの充電ができるぞ!」
「バッテリーの方の充電が切れたら終わりだがな」
「しょうがないだろ、コンセント無いんだもんっ」
そもそも電気が使えない。なんたって縄文時代くらいの世界観……。
「あ、ねえグンマーヌ! こっちと元の群馬は平行世界って言ってたよね?」
「ふむ、そうだな」
「同じスピードで時間て流れてるんだよね? あっちだと、今日金曜日なんだ。どうしよう、僕学校無断欠席になっちゃう!」
「スマホで連絡するが良かろう」
「ダメなんだよ、保護者からの連絡じゃないと……。でも母さんレジ打ちのパートに行ってるし、僕しばらく帰れないんだよね? 何日も家を空けたら大騒ぎになっちゃう」
今の状況を正直に話そうかとも迷ったけど、絶対信じてもらえない。田中にラインした時みたいに精神病院勧められたら、僕立ち直れないよ。
「仕方あるまい。では我が母に成り代わり、学校とやらに連絡を入れよう」
「ええっ! そんなことできるの?」
「当たり前だ! 我は妖精だ!」
出た! 万能設定!
グンマーヌは一つ咳払いをした。
するとびっくり。ぼわん、と白い煙が出てきて母さんの姿に変身した。
「太郎、スマホを貸しなさい」
声と口調まで母さんだ。
僕がスマホを渡すと、『連絡帳』から学校の番号を選び、電話をかけてしまう。
担任に繋いでもらい。
『あら、いつもお世話になっておりますぅ、山田太郎の母ですぅ!』
電話越しだとツートーンくらい高くなる声も、語尾の独特なイントネーションまで母さんそっくりいいい! 怖っ!
さっきまで我とか言ってたくせにっ!
『そうなんですぅ、お熱が出てしまってぇ! ご連絡が遅くなり申し訳ございませんん! はい、はい、はぁい、お気遣いありがとうございますぅ! よろしくお願いいたしますぅ!』
通話、終了。
「よし、これで大丈夫であろう」
「ば、万能。なんで母さんの特徴そんな知ってるの」
「当たり前だ! 我は妖精だ!」
「ねえ、そのセリフだけはデフォなのっ? 自動音声か何か搭載されてて、特定の質問にはそう返すとかなんかあるの?」
「よし、学校への連絡も終わったし、早速コンニャクを集めに行くぞ」
僕の質問まるごと無視だー!
「でも待って、さすがに母さんと冒険には出たくないっ。ねえ、その、グンマーヌって外見は好きに変えられるの?」
「当たり前だ! 我は妖精だ!」
「はいはい」
僕は突っ込みを放棄した。妖精が何かとかどんなことができるかとかどうでもよくなってきた。
「じゃあ、えっと、その」
「なんだ? 歯切れ悪いな」
「うるさい! これから一緒に苦難を乗り越えてくんだろ? 僕とグンマーヌは相棒になって、四六時中一緒にいるってこと、だろ?」
「まあ、そういうことになるな」
「だ、だったらこう、外見だけでも僕の好きな格好になってよ」
あれ、字面だけ見ると、なんか僕変態みたいじゃない? 違うし、深い意味なんてないしっ。ただほら、せっかく一緒に時を過ごすなら、ぬいぐるみみたいな姿より、ねえ。あるだろう、そういうの。
「そうだな、それくらいのオプションはつけよう」
オプションて言うな、という突っ込みは口から出る前に飲み込む。
「ありがとう! じゃ、じゃ、じゃあ、十六歳くらいの可愛い美少……」
「うんぽっぽおおお!」
その時、突然通りすがりのご近所さんらしき人が、元気よく挨拶をしていった。僕もつられて挨拶を返す。
「わかった! おまえの望みを叶えてやろう!」
と母さんもといグンマーヌ。
白い煙が上がり、現れたのは金髪碧眼の美少……あれ?
「ほれ、お望みの美少年だ。名前は好きにつけて良いぞ」
「なんでだよおおお! なんで美少『年』なんだよおおお!」
今更ながら僕は男だ。普通に女の子が良かった。美少『年』じゃなく
て美少『女』を希望しようとしてたのにい!
「あ、このオプション無料なのは最初だけで、チェンジにはコンニャク百個必要じゃ」
「そんなにいいいい! 大丈夫、大丈夫、美少年、大好き」
「そうだろうそうだろう。好きに使いなさい」
「言い方が卑猥……」
かくゆう僕の相棒は、金髪碧眼の美少年になった。名前はのんびり考えようと思う。
群馬住みの僕が、ある日目覚めたらグンマー帝国に転移していた件について あさみゆう @asamiyuu
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