第24話 ラピスの魔法――④
「あっ! み、見てください師匠! 風属性ですよ!」
「……冗談でしょう」
はしゃぐラピスをよそに、オルティナは呆然と彼女の手に生み出された小さな風の渦を見つめた。
間違いなく風属性の魔法だ。
そしてさっき見た火の玉も、確かに火属性の魔法だった。
当たり前と言えば当たり前のことを再確認するオルティナだが、それほどまでに信じられなかったのだ。
そんな驚く彼女をよそに、ラピスは次の属性を試そうとする。
「
「いや、流石に……」
ザァッ、と細やかな砂が彼女の掌に生み出された。
「冗談でしょう」
「し、師匠……! これ土属性ですよね? 出来てますよね!?」
オルティナがぎこちなく頷くと、ラピスは「やったぁ!」と飛び跳ねて喜んだ。
(剣の腕もそうだけど……魔法の才能にも恵まれているなんて)
オルティナの胸の内がざわつく。
けれど不快なものは感じない。
これは嫉妬ではなく――期待だ。
(もしも彼女を本気で鍛えたら……)
いずれは自分すら超えるほどの――。
そこまで考えて、オルティナは頭を振った。
違う。そうではないだろう。
自分の目的は、別にある。
「師匠……?」
ラピスが不安そうな顔でオルティナを見る。
不愛想な師が褒めてくれる……とまでは言わずとも、少しは喜んでもらえるかと思ったのに。
オルティナは我に返ると『なんでもない』と言いたげに手をひらひら振った。
「まさか2属性はおろか3属性も使えるなんて……。
本当に珍しい。良かったね」
「はいっ! これも師匠に頂いたあの魔核のおかげです!」
「いや、あれにそんな効果はないんだけど……。
それよりも属性が増えた分だけ、鍛錬する幅も増えるんだから。精進しなさい」
「頑張ります!」
水属性へのこだわりはどこへやら。
すっかりやる気に満ち溢れたラピスを見て、オルティナは肩を竦めた。
「さっきも言ったけど、配信で使う属性は極力1つに絞ること。良くて2つまでだから。
修行も今日みたいに隠れてやらないと……基本属性を3つも使えるなんて知られたら、色んなところから引き抜きの話が来るよ。
まぁ私としては貴女が他所に行く分には止めないけど――」
「絶対に嫌です!!!」
「そ、そう。なら普段使いする属性を1つ決めること。
3属性すべて使うのは、自分の命が危ない時だけにしなさい」
「分かりました!」
「……本当に分かってる?」
得意顔のラピスにオルティナが目を細めて言う。
「自分の命が危ない時だからね?
他人が死に目に遭うような時でも、使わずにいられる?」
「そ、それは……」
「探索者の鉄則『自分の身は自分で守る』。
裏を返せばそれは、自分のために他人を見捨てることにもなる。
貴女は残酷に思うかもしれないけど、割り切らないと――早死にするよ」
「…………」
オルティナ自身、探索者のキャリアは長い。
その過程でいくつもの死を目にしてきたが、その何割かは仲間や他者を見捨てられずに無謀な勝負へ出た者たちだ。
オルティナの考えはどちらかというと『自分の命なのだから好きに使えばいい』というものだが、目の前の初弟子は少し話が違う。
自分なんかに憧れたせいで、輪をかけて人を助けようとしている。
ならば諫めるのは私の役目だろう、とオルティナはラピスをじっと見つめた。
ラピスは少しのあいだ考え込んでいたが、やがて、
「……分かりました」
「そう」
「ただ、それならたくさん修行します!」
「うん?」
「1つの属性でも問題なく戦えるように。
隠し玉に頼るまでもないくらい強くなれば、それだけ多くの人を助けられますよね?」
「まぁ理屈はそうだけど……貴女に出来る?」
「分かりません。でも絶対になってみせます。
だって私は――オルティナ様の弟子ですから」
そう言った瑠璃色の瞳には、強い決意の光が宿っていた。
オルティナがしょうがなさそうに嘆息する。
(まったく厄介な弟子を持っちゃったなぁ)
しかしそう思う彼女の顔は、どこか嬉しそうだった。
「オルティナ様?」
「……なんでもない。というか様付けは止めなさいって言ったよね?」
「あっ、失礼いたしました! 師匠!」
「よろしい。
さて、それじゃあ普段使う属性だけど……特にこだわりがないなら、風か土がオススメかな。
貴女、華奢だから。風属性で機動力を上げて攻撃を回避するか、土属性で防御面を上げて安定感を増すかのどっちかがいいと思う」
「それじゃあ風属性にします!」
「……ちゃんと自分で考えた?」
「も、もちろんです!
……あの、そのことでずっと気になっていたんですが。
師匠って水属性のほかに風属性も使えるんじゃないんですか?」
その問いに、ピクリとオルティナの眉が跳ねる。
「……どうしてそう思ったの?」
「いえ、あの、過去の配信を見ていてとても足が速かったので。
てっきり風の魔法で加速しているものだと……もちろん、秘密ということであれば答えて頂かなくて結構です!」
「あぁ、なんだ。そういうこと。あれはただの身体強化魔法だよ」
「えっ」
ラピスが引きつった笑みを浮かべる。
ただの身体強化魔法だというが、それだけで風属性の魔法と勘違いするほどの移動速度を出せるのはおかしいのでは、と言いたげだった。
「……先は長いです」
しょんぼりと言いながら、それでもラピスは誇らしげな表情で拳を握った。
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※以下、あとがきとなります※
ここまでお読み頂きありがとうございます!
毎日投稿を続けておりましたが、ついに書き溜めていた分が無くなってしまいました……。
以降は不定期更新となります。ご了承ください。
ダンジョン配信なんてクソくらえだ ―ダンジョン配信なんて大嫌いなのに、弟子が褒めちぎるせいで私の人気に火が付いてしまった― 天地 綴 @amachiiii
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