第13話 三人で議論

 もう一度目蓋を開いてみれば、目の前にはシュティレ邸があった。

 

「も、戻って来たんですね」

「そだね」


 シェイレブさんはすっと私から体を引き、もどろっか、と言って微笑んだ。

 はい、と自分も頷き、玄関へと向かっていってシェイレブさんが扉を開けた。


「ただいまぁー」

「おや、お帰りなさいお二人とも」

「ただいま戻りました」


 シェイレブさんは手で扉を開けると向こう側にシェラードさんがエプロン姿で迎えてくれた。


「お疲れ様です。それで、薬草はどれくらい採取したんですか?」

「んー? これくらい」


 シェイレブさんは指を立てると、ポンとシェラードさんの手元に薬草入りの袋が現れる。


「後で魔女様に届けに行ってください」

「今じゃなくていいんですか?」

「今は、魔女様は工房に籠っていらっしゃるので、少し時間が経ってからの方がいいかと」

「わかりました」

「それから、お昼まだでしたよね、二人とも」

「うん、まだー! なんか作ってくれた?」

「もちろん、お二人ともリビングに来てください」

「わかりました」

「はーい」


 私とシェイレブさんはリビングへと向かって、席に座った。

 今回は野菜のスープと、パンとブルーベリージャムだ。

 おいしい、と頬張っていると二人から優しい目を向けられる。

 な、なんだろう……? 変な顔でもしてるかな。


「あ、あの……どうかしました?」

「いーや?」

「ふふふ、なんでもありませんよ」

「き、気になるじゃないですかぁ!」

「でしたら、ウィレムさん、食べ終えたらお伺いしたいことがあるのですが、いいですか?」

「いいですよ」


 私はなんの話か気になりつつも、ゆっくりと食事を介した。

 昼食を食べ終え少し休憩を三人で取っている中、シェラードさんは質問を私に投げかける。


「お聞きしたいのですがそちらの世界には物語を描く職業のようなお仕事は存在するんですか?」

「はい、あります。主に文章絞るなら作家って分類なんですけど、私がいた国などでもライターとかそんな感じで呼ばれていたりします」

「それは興味深い、専門の役職もあるのですか?」

「分かりやすく例を挙げるなら、小説家、脚本家、随筆家、記者、詩人、歌人、俳人などがありますね。ゲームの物語を描くならシナリオライターとかもありますが、作品の宣伝の文章とかを考えるのがコピーライターとかって言いますね」

「へぇー、そんなに分ける必要あんだー」

「意外と、って言われたら確かにそうかもしれませんね」

「へぇー、それってみんな面白いもん?」


 シェイレブさんはテーブルに肘をつきながら聞いてくる。

 ……たぶん、シェイレブさんならライトノベルとか興味持ちそうな気がするけど、ちょっと私が知っている範囲は一般向けとか女性向けの方が多いからなぁ……ライトノベル作家は、あえて例にあげないで置いとかないと後で大変な気がするし。

 少なくとも、この世界では受けがそんなにいいイメージはないし。


「それぞれその仕事分けをしていたりするのは、意味があることだと思いますよ。それに作家には大抵編集者っていう存在が表現を整えてくれますから、大抵は読みやすくなっていますね」

「ふーん、そうなんだ」

「私が知ってるのは主に童話や絵本関連ばかりなので、限定的ですけど……少なくとも、お互い支え合いながら作品は作っていく物なので」


 コトリ、と私は紅茶が入ったカップをそっと置く。

 自分が色々と物語を書いてく代表、的な立ち位置になりそうで不安だが、この世界にも作家志望の人がいるなら、そういう人とも交流はしていこうとは思っているつもりでいたのだが……探す方が大変な気がするなぁ。


「でしたら、ウィレムさんが描く物語がカラーエデンズの住人に受け入れられるかの不安があると思いますが、その辺りの守備はどう固めるおつもりで?」

「……まずは、この世界の誰かにスポットを当てて似通った話を書くのと私の世界での童話も執筆する形にはしていきたいです」


 そうすれば、どれだけこの世界の住人のみんなになじみやすい物から、ゆっくりと私がいた世界での物語も少しずつ描く、このスタイルは固定でいいと思う。


「それなら、俺らとしては読みやすいかもしれないけど……稚魚ちゃん、相当この世界の字の勉強も、紙の普及も頑張んなきゃだよ? 商売人としてしっかりしていかないといけないし」

「うぐっ……そう、ですね」

「魔法石の交換に関しては私とシェーブがすれば問題はないでしょう。彼女には高純度の魔法石の見分け方しかわからないのですし」

「ま、そこらへんは俺らがフォローしなくちゃだねぇ。文字の勉強は交互に教えるからそのつもりでいてよぉ? 稚魚ちゃん」

「……二人にはご迷惑をかけると思いますが、お願いしてもいいですか?」


 二人が一瞬、キョトンとした顔をしたがすぐに笑顔に変わった。


「この屋敷の住人としての付き合いなんだから、それくらいは許してあげるつもりなんだけどぉ? 稚魚ちゃんは嫌だったわけ?」

「そ、そんなつもりは……」

「困った時はお互い様、という言葉が以前この屋敷にいた余所者も言っていましたよ」

「……ありがとうございます」


 優しい二人の言葉に心がとても温かい。

 そうだ、不安がっていちゃダメなんだ。

 自分にできることは、身近なところから、人付き合いも大事だと学んでいかなくちゃいけないんだから。

 私は二人の言葉に感謝していると、シェラードさんの隣にモニカさんが飛んでくる。


『シェーラ、魔女様が大体の仕事を終えたそうです、二人に来てほしいと言っていらっしゃいますよ』

「そうですか、二人とも東棟に言っても大丈夫だそうですよ」

「わかったー、んじゃ、行こっか稚魚ちゃん」

「は、はいっ!」


 シェラードさんはにこやかに笑って手を振る。

 私も手を振り返しながら、東棟へと向かうこととなった。

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