第12話 薬草採取

 シェイレブさんが後ろ姿を追いながら、ようやく薬草採取場所に辿りついた。

 近くには大きな気があることにようやく気付いた。

 世界樹、とまではいかなかくても他の木々よりも明らかに大きい木がある。 


「ど?」

「……RPGの主人公にでもなった気分です」

「あーるぴーじ? って、何?」

「そうですね、ゲームのジャンルのようなものです」

「ふぅん、稚魚ちゃんはやったことあるの?」

「少しだけ」

「そっか」


 木々のざわめく音がまるで深海のような深みがある気がした。草木の音がこんなに心地いいと感じるのは、精神統一をしている時とよく似ている気がする。


「んじゃ、探そっか」

「はい……あの、シェイレブさん、その前に質問が」

「何?」

「私魔女様にどの薬草が欲しいのか聞いてない気がするんですが」

「ああ、稚魚ちゃんが起きる前に言われてあるから大丈夫、熄香草やこうそうかな」


 なんだか、ある単語が頭に過る名前だけど……どうなんだろう。

 不思議なので思い切ってシェイレブさんに尋ねた。


「どういう植物なんですか?」

「んー? 稚魚ちゃんの元いた場所にはなかった? タバコってヤツ」

「ありますけど、魔女様は誰かに煙草を作るんですか?」

「それは依頼されてるのだからねー、えーっと、他はぁー……食材に使う香草のバジルとかもだね」


 バジル? この世界にも地球と似たような植物もあるんだ。

 ん? なんであるんだ?

 

「なんであんのって顔してんね」

「え、だ、だって……」

「ある植物医師の余所者が持ってた種を分けてもらったからってだけだよ、まあ、結構魔女様も気に入ってる奴だから大事に育ててんだ。畑の方は東の方にあるから、色々育てたい植物があったらそいつに聞けばいいよ」

「そいつ……?」

「目の前にいるじゃん」


 自分は周囲を見渡しても私たち以外誰もいないのは明白だった。

 木々を色々視線を向けて、ぴくりとさっきの大樹の樹皮が動いた気がした。

 私は思わずシェイレブさんの後ろに下がった。


「っ……!!」

「大丈夫だよ稚魚ちゃん」

「で、でも……」

「な? そうだろアルボル」

『シェーレが連れてきたってことは、悪い子じゃないだろうけど……もしかしていじめたのかい?』

「いじめ……?」


 大樹の樹皮が老人にも見える人の顔が浮き出てきた。

 ホラーチック、というより私としてはファンタジーチックだ。

 だが大樹の精霊? が言った言葉が引っ掛かる……どういう意味だろう?


「いじめてねえよ、引きずり込んだだけ」

『……はぁ、それは人間の子にされたら、好意があるか襲われるかの二択でも、後者寄りだと思うんだけど』

「大丈夫、俺的には問題ないから」

「……どういう意味ですか?」

「稚魚ちゃんの好きな方でいいよぉ」


 にやにやと笑うシェイレブさんは、昨日からかってきたのもあったがもしかしなくても意地悪なんじゃないだろうか。

 アルボル、と言うらしい大樹はとても穏やかな目でこちらを見る。


『ねえ、君。もしシェーレにいじめられたらいつでも言って? 後で懲らしめてあげるから』

「は、はぁ……」

「はは、怖がらせてんじゃん」

『シェーレじゃないんだから、その子がウィレムって子なんだろう?』

「そ、仲良くしてやって、それに会わせたんだからはできたんでしょ?」

『ああ、もちろん』

「認識……?」

「稚魚ちゃんを見たから、今度からはコイツを通して魔女様の屋敷周辺の移動はコイツに声かければ大丈夫ってこと」

「じゃあ、歩いてきた意味はあった……ってことですか?」

「もちろん、まあ、行ってないとこはまだ移動できないからね」

「わかりました」


 シェイレブさんは私の頭を撫でる。

 頭を撫でてくれる手は、本当に優しいと感じるのは……なんでなんだろう。


『シェーレ、そろそろ薬草採取しないときっと魔女様に怒られるんじゃない?』

「それじゃ、稚魚ちゃん。薬剤採取のやり方は説明するから、それぞれ取っていこうか」

「わかりました」


 その後、私とシェイレブさんは薬草を必要な分だけ集め終えた。


「大体集め終えましたね」

「ん、これぐらいあれば魔女様も文句はないと思う」


 シェイレブさんが魔法で用意してくれた白い袋の中にはたくさんの薬草が詰まっている。そしてまた彼は魔法で袋を消すと、便利ですね、と口にした。


「まぁ、結構楽だよ。稚魚ちゃんは覚えたい?」

「できるなら……」

「うーん、魔女様と応相談かな。でもきっと対価は要求されると思うよ」

「……その時はその時で、できる限りのことはするつもりです」

「そっか。それじゃ、アルボルー屋敷に戻してぇ」

『わかったよ、二人とも離れないでね』

「はーい」


 シェイレブさんは私の身体をぎゅっと抱きしめる。


「し、シェイレブさん、近いです……!」

「気にしないのー、でないと自分の性別すぐにばれちゃうよ?」


 アルボルさんが目を閉じると私とシェイレブさんの周りに白い円が現れる。

 円の中心に立つ私たちに美しい蒼色そうしょくの光が燦々と輝く白い星のような輝きが広がっていく。

 

『導き手アルボルが我が指先で其方らを導こう、蔓の先に伸びる夢のように君を招き、明日を願うがいい――――カリュクスゲーテ』

「っ――――――!!」


 シェイレブさんに強く抱きしめられるのを感じながら、私は強く目を閉じた。

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