第11話 深海色の樹海探索
エドガーさんは笑顔で、そして魔女様は紅茶を飲んでいるのを最後に私たちはシュティレ邸を後にした。屋敷から出てまずシェイレブさんは私に案内をする前に注意点を言った。
「まず、稚魚ちゃんは森に関する知識は何かある?」
「え、えっと……ほとんどないです」
「そっか、たぶん俺の知る余所者の知識なら稚魚ちゃんのいた世界にいたような現実の動物よりも不思議な動物がいっぱいいるから、この世界では稚魚ちゃんの世界と同じだとは思わないでほしいんだ」
「は、はい……? 例えば、どんな姿の動物がいるんですか?」
「うーん、
「ど、ドラゴンですか!? そ、それはどんな名前で……!?」
「うーん、その話は長くなるからまた今度にするね」
「そ、そうですか。残念です」
「深海色の樹海には色々な奴がいるから、俺から離れたら死ぬと思った方がいいよ。稚魚ちゃんは魔法使えないんだから」
「は、はい」
「ここの樹海は基本的に魔女様がいくつもの魔法で厳重に屋敷に来れないようにしてるから、事前に会う約束をしたお客様じゃなかったら絶対に辿り着けないんだ。稚魚ちゃんは絶対に俺から離れないでね」
「は、はい。わかりました」
「もし迷って死んじゃうって思ったら、これ持ってて」
シェイレブさんは私にペンダントになった白い細身のホイッスルを手渡された。
「……? これは?」
「
「え!? いいんですか? でも、だったらシェイレブさんは……?」
「俺の予備だから大丈夫、絶対に無くさないでね」
「…………はい」
私はもらったホイッスルを首にかけて一緒に樹海の中を歩き出した。
樹海に入って数分、シェイレブさんは前方を歩きながらこう言った。
「それじゃ、先に基本的な薬草の採取場へ行くね」
「薬草、ですか」
「そ、本来は魔女様の弟子である俺らの役割なんだけど稚魚ちゃんの場合、何がきっかけで帰られるのか条件もわかってないから色々見て回った方がいいでしょ?」
「確かに……ちなみに採取場はどこの方角なんですか?」
「北の方だねー、ちなみに稚魚ちゃんがいた場所だったら東の方だよー」
青みを帯びた森林が目立つ中、私は息を切らせながらシェイレブさんの後に着いて行く。
「結構、歩きますね」
「大丈夫?」
「は、はい」
シェイレブさんは息を切らすこともなく歩いていて彼は余裕そうだ。
彼に湖に溺れたことも少し怖かったけど私が知る日本の樹海と全然違う。
青緑色の樹海が、やけに私の知的好奇心を刺激する。神秘的な雰囲気を身に纏った木々たちが連なっているからこそ、現代っ子でSF好きな自分にとって、この光景はとても美しい。森の木の香りが鼻を掠めて、鳥たちの泣き声だけが静かに木霊する。
ああ、カメラがあったなら写真を取りまくっていたというのに。
「……はぁ、……っ、はぁ」
木々に手を着きながら歩いていた私は息を整えようと膝に手を置いて深呼吸する。
この世界に来た時も、体感的に結構歩いていたっけな。
立ち止まった私を見て、シェイレブさんはしゃがみ込む。
「稚魚ちゃん、辛いなら抱っこする?」
……彼に頼るばかりではいけない。そう思うのに、なぜか甘えたくなりそうになるのを唇をかむことで誤魔化した。
「へ、平気、です。これくらいの道なり、慣れないと駄目だと思うので」
「じゃあ、いこっか。後もうすぐで採取場の辺りに出るから」
「は、はい!」
私は強く頷くと前を見て、歩き始める。
さりげなくシェイレブさんが私に歩幅を合わせてもらうのを感じながら草木が生い茂る樹海の中を歩いていく。だんだんと花のような、優しい香りが感じてくるとそこは色々な植物がある楽園だった。
「わぁ……」
色とりどりの花が群生している場所に出くわした。
牡丹を思わせる花弁で淡い黄色の花がたくさん咲いている。
……ここは、シェイレブさんが言ってた採取場じゃないはずだよな?
「あ、あのシェイレブさん。ここ、たぶんここ採取場じゃないですよね?」
「んー? 違うよ」
「え!? じゃあ、なんで」
「この花の香りって疲労回復の効果があるんだよね。ちょっと嗅いでみなよ」
「え、あ……はい」
シェイレブさんは花を一つ摘まんで、私に差し出した。
私は受け取って、花の香りを嗅ぐ。
さっぱりとした爽やかさの中にラベンダーみたいな安心感がある花の香りだ。
「……いい香り」
「それをもう少し嗅いだら、採取場にいこっか」
「……この花の名前ってなんていうんですか?」
「シュテルンの花って言うんだ。深海色の樹海にしかない花だよ」
「素敵な名前なんですね」
シュテルンかー……黄色い花だから、ってことなのかな。
「15分くらい、ここにいよっか。その後採取場にいこ?」
「わかりました」
花の香りを嗅いでいる間、私とシェイレブさんは穏やかな時間を過ごした。
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