第17話 魔女様に質問 紙の量産方法編

「それから、紙の量産方法、だったかい?」

「はい……それで、紙を量産させる方法が和紙や木材になるんですが」

「和紙? なんだいそれは」


 あー、魔女様もさすがに知らないか。


「えっと、私がいた国の紙のことです。それはまだ難しいと思うので木材で作るべきだと思うのですが……」

「つまり、この深海色の樹海の木々を伐採したい、と言いたいのかい?」

「必要になるなら、になります。それよりまずこの世界の木々の特徴や名前も把握しないと、ここにある木々を使うかどうかまでは……」

「……そうかい、まあアルボルに頼んで木を作ってもらうのも手だが、それはあまりお勧めしないよ」


 ……アルボルさんに木を作ってもらう? アルボルさんは大樹のようには見えたけど。


「それってどういう意味でしょう」

「アイツはグリーンウッド、回路樹かいろじゅと呼ばれている木の精霊さ」

「え!? や、やっぱりアルボルさんって精霊だったんですか!?」

「初耳かい?」

「初耳です!」


 私は大声を上げて魔女様に言った。

 何か特殊な生物がいるのかなとか、色々と期待はしていたけれども……!!


「お前さんがいた世界でも、そういう類のものはいるんだろう? 他の余所者が言っていたはずだよ」

「そ、そうなんですか……」


 う、うーん。魔女様がいう余所者は私がいた世界の住人なのか、他の世界の住人なのかまではわからないけど、それはまた今度聞くことにしよう。


「あの、話は戻しますが……それって、アルボルさんがこの樹海の木々たちの元になっている木だから、もし燃えたり、枯れたりしたら他の木々が全滅するって意味、ですか?」

「枯れるのは問題ない、燃えてなくなること、生命力を奪われること、その二つが起こらなければアイツはずっと生きているままだよ。だから、もし木が欲しいならお前たちが伐採しな。紙の量産とやらで必要以上の木を取りすぎなければ、何も問題はないよ」

「わかりました」

「聞きたいことはそれだけかい?」

「は、はい。今の所は……」

「そうかい」


 ふと、魔女様は杖を私に向けた。

 ……? なんだろう。


「手を出しな」

「え? あ、はい」


 魔女様に言われた通り、私は腕を出すと魔女様は呪文を唱える。


「繋がる輪、命の廻廊を辿るがごとく、その涙も足枷も全ては胸の中のあるべき硝子の破片と知れ――――メルクマールラーガー」


 美しい響きの言葉だった。

 私と魔女様の前に金色の輝きが溢れる。

 その眩さに耐え切れず、私は思わず一度目を閉じる。


「…………目を開けな」


 気が付けば手首に銀色の腕輪が現れていた。

 細身で動きやすく、しっくりと馴染む。腕輪には何か文字が刻まれているようだが、きっとこの世界での文字なのはなんとなく察せた。それにあんまりアクセサリーを付けたことがない自分からすれば、そのシンプルなデザインは素敵だった。 


「わぁ……!」

「これくらいで驚いてるんじゃないよ」

「あ……すみません、魔女様」

「一応言っておくが、シェーラたちが聞いたのはアタシが事前に聞けと言っておいたんだ。何も問題はないよ」

「……ありがとうございます」


 魔女様はふんと目を伏せる。


「それから、それは収納輪だ。自由に使うといい」

「……ありがとうございます」


 ゲームで言うところのアイテムボックス、みたいなものだろうか。

 私は片手に付けられた腕輪をぎゅっともう片方の手で掴む。

 収納輪しゅうのうわ……大事にしていかないとな。


「それから、その収納輪しゅうのうわは入れられるものは限られてるよ」

「どうしてですか?」

「何の努力もしてないのに初めから色々持てるのはおかしいだろう。だから、お前さんのその収納輪にはラベルというのを設定してあるよ」

「ラベル……?」

「お前が今まで他の住民と仲良くしたり、依頼を達成したりとかしたら次第に増えていくから、がんばるといいさ」

「わかりまし――――」


 ぐぅうううう……!


「あ、……っ」

「またお前の腹かい。元気だね」

「す、すみません……!」


 私は慌ててお腹に両手を当てる。

 魔女様はすっと横目で呆れた声色で言った。


「じゃあ、そろそろ晩御飯だろうさ。そろそろ行くよ」

「は、はい!」


 私は魔女様が杖を構えると、囁くように呪文を唱えた。


暗晦あんかいに沈む足先を、奪われないための涼風に乗せて我らは舞い戻らん――――フリーゲンラウム」

「うわ………っ!!」


 銀色の光が私と魔女様の周囲を囲み私は思わず目を閉じた。


「……あれ? ここは、リビング?」


 目を開くと、そこは南棟のリビングだった。

 魔女様の魔法で、転移した、ということなのだろう。


「お帰りー稚魚ちゃん♡」

「……た、ただいま戻りました。シェイレブさん」

「ん、晩御飯出来てるよぉ。おなかいーっぱい、食べて?」

「は、はい」

「アタシには何もないのかい、馬鹿弟子」


 シェイレブさんはにっこりと私に笑いかける。

 魔女様がじとっとした視線をシェイレブさんに向けると、不満そうに言った。 


「魔女様もお帰りなさーい。でも、殴ったことまだ根に持ってまーす。撫でてくださぁーい」

「ったく、しかたない弟子だよ」

「えへへぇ。魔女様に撫でられるの好きだからね、俺」


 シェイレブさんがぷくーっとほっぺを膨らませて魔女様にお願いすると、魔女様はしかたなさそうに彼の頭を撫でる。

 頭を撫でられるシェイレブさんは嬉しそうにしている……なんだろう、シェイレブさんが等身大の子供みたいに見えてくる。エロ本、とか昨日言っていたような気がするけど、そういうことに詳しい余所者がこの世界にいるのだろうか……? だとしたら、絶対魔女様に見せないようにしよう。

 でないと、私の描く物語がそういう作品だと誤解されたらとても困る。

 必要になったら、そういう官能小説的なモノも執筆しないといけなくなる状況になったりするかもだけど……うん、それはないと思いたいなぁ?


「ウィレムさん、お帰りなさい。お食事ができていますよ」

「あ、シェラードさん。ただいまもどりました」


 魔女様とシェイレブさんのやり取りを眺めていると、後ろからシェラードさんが声をかけてきた。


「あ、あの……あのやりとりっていつものことなんですか?」

「そうですね、昔からたまにありましたよ。和みますよね」

「……の、ノーコメントで」

「おや、残念。ウィレムさんなら理解してくださると思ったのですが」


 ふふ、っと笑うシェラードさんに私は思わず、あははと笑い返したかったが少し照れが入っていることをわざと言わないでくれているシェラードさんには感謝だ。


「ん、満足ー! これでチャラねー魔女様」

「何がチャラなのかわからないね」

「俺が理解していればいいんでーす、じゃ! 稚魚ちゃん、晩御飯食べよ?」


 ふと、シェイレブさんは腕を伸ばして満足そうな顔をしていた。

 魔女様は呆れているのを見つつ、シェイレブさんは油断していた私に声をかけてきた。


「え? あ、はい」

「ん、席どうぞ」


 シェイレブさんは私に椅子に座るのを促す。

 私は彼の好意を無駄にするのも、と思ったので素直に席に着いた。

 今日の晩御飯は、今日取って来た酢で付けたバジルトマト、コーンサラダとシチューにパンだった。

 シチューにパンを付けて食べたり食べるのは憧れだったので、とても楽しい時間を過ごしたと思う。食事が終わった後、私は自室に戻った。

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異世界童話作家 絵之色 @Spellingofcolor

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