第2話 知らない世界
「ここ、は……?」
目を開けば、見知らぬ森の中に自分はいた。
さっきまで駅にいたはずなのに、どうしてこんなところにいるんだろう。
現状を理解できなかったから、頭の中でさっきまで出来事を振り返る。
「えっと……園崎くんが飛び降り自殺をしようとして、それで――――――そうだ。死んだ、んだ。自分は」
視界が一気に暗闇の中に囚われた感覚になる。
一瞬の出来事だったとはいえ、おそらくあの状況で死んだと思わない方がおかしい。しかし、学ランを着たまま無傷の自分に違和感を抱くのは当たり前で冷静な判断ができない。もう一度周りを見渡すことにした。
病院にいないということは、私の死は確定している。
けれど、一番に気になるのはそこじゃない。
「ここ、どこなんだろう……」
視界に広がるのは
写真などで見た自殺の名所の
「もしかしたら、これは園崎くんが言っていた異世界転生? そんな、作品みたいなこと……実際に起こるだなんて」
でも転生するなら、違う人間の姿になっているはず……顔がそっくり、というのはあったとしても私の高校の男子の制服を着ているところを見るにそれは違うのだと思う。
「もしかして、転生じゃなくて転移ってこと……? でも、確かに自分は、死んで」
異世界だと仮定したくても、時代逆行物の小説みたいな意味での可能性もある。何も動かないでいるより、餓死で死んだりすることもあるだろうしそれは避けたい。
「とにかく、今はこの場所が何なのか調べなきゃ」
とりあえず、この森の中を散策することにした。
……ある程度歩いていても、誰も人に遭遇しなかった点について、絶賛困惑中だ。
「この森、もしかして無人なのかな……」
森自体は特殊な感じがするのに、あまりにも静かで怖い。
食べ物がなかなか見つからなくて、お腹が空いてきた。
「……汗もかいてきたな」
ずっと歩いているせいか、だんだん疲れも増してきている。
どこか水浴びできる場所はないだろうか……ん?
木の陰に隠れて、何か人の行き来があったと思われる道があった。
「行ってみよう」
近くまで行くと、澄んだ湖があった。喉も渇いたと思っていたところだ。ありがたい。先に水を両手で掬って飲む。うん、たぶん大丈夫だ。
学ランを脱いで、胸に付けたサラシを取ってから、湖に入ることにした。
何があるかわからないから、念のためパンツとタンクトップだけは着て湖に片足を入れる。
「冷たいっ」
ゆっくりと浸かっていって、腕に水をかける。
「ふぅ、気持ちいい……」
後で食べ物を見つけるとして、もし木の実とかがなかった場合は動物を殺さなくてはいけないだろうか……うん、サバイバル技術学んでおくんだった。といっても、誰もこんなことになるなんて誰も予想なんてできるわけないけど。
「ん?」
何かが自分の足を掴んだ。
ぬるっとして、魚みたいな……? でも魚って手足なんてないし……!?
「……何? うわぁ!!」
強引に足を引っ張られ、湖の中に引きずり込まれる。
目を瞑ってドボンと、大きな水の音が聞こえた。
「ゴボゴボ! ……?」
いきなりだったので、対応もできずただ湖の中で息を吐きだしてしまった。
足に着いたヌルっとした感触はなくなったことに気が付きもう一度目を開けると幻想的な絶景が目に飛び込んでくる。水の中の寒さが、水面の揺れでできる光で照らされる石や土に海藻が、テレビで見る海底の映像よりも、神秘的で
怖いはずなのに、恐怖よりも自分の目に映る今の絶景に魅了されてしまった。
プールで泳いで見える水面の光を眺める時よりも、鮮明で、美しい。
……? 大きな、魚の尾ビレが見える。
なんだか、どこかで見た肉食魚みたいな感じで、上半身が人の形をしていた。
もしかして、人魚……?
湖の中が暗いせいで顔がよくわからない。
「ゴボゴボ、ゴボッ」
駄目だ、問いかけたくても水の中でしゃべられるわけない。
ただ泡になる息と、見知らぬ人魚を見つめることしかできない。
人魚の尾鰭が足から離されるのに気づくと、私は急いで水面へと向かった。
「っぷはっ!!」
水面から顔を出して肺に酸素を取り入れる。
あ、危なかった、人魚が尾鰭を離してくれなかったら私、死んでたかも……っ。
考えただけで身震いがしてしまう。なんで人魚が尾鰭を離したのかはわからないけど、今はこの湖から早く出よう。
「おーい! 嬢ちゃん、なんでこんなところにいんだー?」
「え!? 人……!?」
見知らぬ男性に声をかけられてびっくりした。
男性の恰好は日本の物とは到底思えず、むしろ作品の中で言うなら、ファンタジーや中世などの歴史物の海外の村人が着るような恰好をしていた。
も、もしかしてここって海外なのかな、でも樹海の中に人って、滅多にいるわけないと思うけど。
本当にっこでの水浴びをやめよう。私は胸元を隠して、慌てて湖から出る。
「す、すみません! この森の人でしたか!?」
「いや、近くの村に住んでる! アンタもこんなところに来るなんて、自殺行為だぞー!? どこの大陸の住人だー!?」
「ごめんなさい、私、この当たりの場所の土地勘が無くて……!!」
「アンタかなり勇気があるんだな、この樹海で水浴びなん……か……」
私は湖から出て、彼の方へと歩いていく。
するととろんとした顔を浮かべる男性に、私は疑問を抱いた。
「? どうしました?」
「――――いい、匂い」
「? 匂い?」
「う、うぅ、がぁあああっ!!」
「え!? ――うわっ!!」
私が湖から出ると彼は大声を上げると思うと急に私を押し倒してきた。
まるで理性を無くした野獣のように、私に乱暴しようとするので必死に抵抗する。
「が、がぁああああっ!!」
「な、何を……やめて、くださいっ!!」
ただ声をかけられたから来ただけなのに、急に豹変した。
よだれがだらだらとたらし、自分の体にかかる。
「がぁああああ!!」
「っ―――!!」
ビリビリ、と服が裂ける音が響く。
タンクトップを乱暴に引き裂かれ、私の体が露になる。
は、はやく逃げないとこの人に、犯される――――!!
「――――何をしてる」
一瞬、誰かの声が聞こえた気がして私は叫んだ。
「た、助けてください!!」
「動くなよ」
風が一瞬吹くのを感じると、男性は湖の方へと突風に飛ばせた。
「がぁあああああ!!」
ばっちゃーん、と男性が湖に落ちるのを見て、安堵感に胸が包まれる。
「……た、助かった」
「大丈夫か?」
男の人の声が聞こえたがさっきまで歩き続けていた疲労と、さっきの湖のことや男性に襲われたのが一気に全身の疲れを覚えさせる。
――あ、これ、ダメな奴だ。
ぼやける意識の中、緑色の髪と茶色の瞳が一瞬見えた気がしたが、すぐに視界は暗闇へと誘われた。
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