第2話 人生で出会う

中学二年生の頃から家を出ていない。


部屋着以外に着替えるのはなんだか新鮮だな。


久しぶりに見た財布。

久しぶりに持ったカバン。

久しぶりに履いた靴。


外に出るのも悪い気分ではないな。


ドアノブをひねり、ドアを開く


「さむっ!」


思わず声が出てしまった。これまた久しぶりに出す声だ。


次に感じたのは、とても眩しい光だった。


そこに見えるのは太陽の光を乱反射する白い雪。


薄暗い自分の部屋とは対象的に目が眩むほどの明るさだ。


どうやら外は冬のようだ。


日付はよく見ていたつもりだったが季節感覚は皆無だったようだ。




外に出てみないとわからないことは多いんだな




視野が一気に広くなった気がする。


だんだん寒さにも慣れてきた。


と、思ったが足を踏み出す勇気が出ない。




怖い。




勇気が出せない。




これは言い訳に過ぎないのかもしれないが、実際足が全く動かなかった。


そんなことを考えていたら、女子高生に見つかってしまった。


真冬の中、半袖半ズボンの同級生を登校中に見かけたら誰であろうと流石に引くだろう。


更にやる気が失せた。


でも、




せっかくここまで来たのにまた、振り出しに戻ってしまうのか。




このままでは駄目なのではなかったのか。




「やっぱり外は嫌いだ。」




そんな言葉で終わらせていいのだろうか。マイナス思考を貫いて、一人の空間に籠もっていて




それでもいいのだろうか。




父は昔から「男に二言はない」という言葉をよく言っていた。


そんななんでもポジティブに考えることができる父に憧れていた。


父と同じ道に行くためには、ここから一歩踏み出さなければなない。




さぁ、服を着替えて再出発するか。




簡単に物事を忘れる事ができる人は、幸せものだ。


「思い過去を持っている人間こそ強くなれる。」なんてのは全くの大嘘だ。


忘れられない過去があるこそ人間は弱い。これが正しいと思っている。


あぁ、また下向きな考えになってしまった。父を見習わなければならないな。




長くなってしまったが、もうすぐネカフェに到着だ。


近場のネカフェは昔、友だちから聞いた所しか知らない。


どうやらそこのネカフェはボロボロで今にも崩壊しそうな建物だそうな。




これだろうか。




薄い文字で「ネットカフェ」と書いてある看板を見つけた。


「いらっしゃいませ」


とても美人な店員だな。


明るい笑顔を浮かべて言葉を発する彼女はとても綺麗に見えた。


しかし、高校生ぐらいだろうか。


午前中なのにこんなところで働いている。


彼女も色んな事情があるんだろうか。




....




「も」ね....




この5年間一度も部屋を出なかった人間がどの目線から語ってるんだか。


彼女はしっかりと働いているじゃないか。


一緒にしてはいけない。


なんだか涙ができた。


カウンターで突っ立って涙を浮かべる人は流石に気持ち悪いよな。


早く部屋を決めてこの場を去ろう。




外見もなかなかだが、中身もなかなかのボロボロ具合だ。


漫画は古いものが多いし、肝心のパソコンもホコリを被っていて、動きそうにもない。


しかし、せっかく部屋まで決めたのだから少しは我慢して見るとするか。




あぁ、あんな広告押さなければよかった。




自分のせい。




全部自分のせい。

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