第54話 エピローグ
「そんな技術があれば苦労はないな」
金属板の印字を読み東雲はため息をついた。実際には肺がないのだからそういう音を出しただけだ。金属板は、英語が読めない彼のような者ために西条寺が何日もかけて翻訳した物のコピーだ。
「PZという単語は彼の言うグロスマン医師が考案した物だったんですね。みんな当たり前のように使っているけれど」
「破滅から数年しか経ってない大昔の記録だ。どれだけあそこに沈んでたのやら」
「グロスマン親子、艦長とこの名無しの彼はどこに行ってしまったんでしょう」
「原子炉が冷温停止していた。光が無くなったら眠るタイプもいるが、彼らは外に出ていく方だったんだろうな」
「この時の名無しくん、もしも今の状況を見たら無駄ではなかったと思ってくれるかな」
「独力で自我を保つ方法に辿り着いたのは賞賛されるべき偉業だが、なぜ知ってるなら教えてくれなかったんだと泣いてしまうんじゃないか」
「出て行った彼が教えを広めた可能性は」
「ベーリング海にいたのにアフリカからか。無いだろうな」
「南無」
金属を膠着した手を合わせる。
もしも、名無しの記録者が伝道する方法を思いついていれば、2人以外にも日本列島に仲間がいたかもしれない。
「ところでフロル・セイジンってなんですか」
「なんでこの名無しは知ってたのかすごい不思議だが、そのうち概要とイラストを彫っておくよ。口がとんがってる」
穏やかな絶滅 中埜長治 @borisbadenov85
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