無様な灰被り(上) 24

「では、仕立て屋はやはり王族なんですか?」


 僕は灰被りにそう尋ねた。


 僕は馬車の中に入れられていた。傍には世話を任された副長が座っている。


 灰被り曰く「子供の相手は苦手」だそうだ。


「少なくとも、王の血は引いているな」


 灰被りの方は馬車の傍で馬を歩かせながら、僕の質問に答えていた。


 その周囲を他の兵たちが進む。ある者は馬車に乗って、またある者は馬に乗って。


「養父母が仕立て屋で、実父母は王様におきさきさま。ああ、厳密には『古い方のお妃さま』かな?」

「それが何故『仕立て屋』を?」

「色々複雑でね。あいつは元々王の一人娘だった。でも母親の妃が死んで、その後まもなく継母ままははがやって来た。で、そっちに男の子が生まれた。私達が殺したけど、その時の身分は王太子」


 灰被りはこともなげに「殺した」と口にした。


 僕が動揺を表したからか、副長が少しだけ非難がましい目で灰被りを見たけど、結局何も言わなかった。


 僕は平静をよそおって話を続けた。


「『王太子』ということは、仕立て屋ではなく、その男の子が王位を継ぐ予定だったということですか? それは男だから?」


 僕の推測を、灰被りは首を振って否定した。


「いや。本来は男女関係なく、上の子供が王位を継ぐ決まりだった……らしい。無学な私も最近になって知った事だけど。

 それでこっちも最近になって分かった話。『上の子が王位を継ぐ』って決まりのせいで、あいつは継母に殺されかけた。だから王は出入りの仕立て屋に姫を預けて、王宮の外に放りだした。表向きは死んだことにして」


 灰被りがそう言うと、周りにいた数人の兵士が可笑おかしそうに続けた。


 退屈を持て余しているらしく、先程から僕を見に近づいて来たり、話しかけたそうにしていた。


「王宮の外に出た後のあいつ、すっかり『仕立て屋の娘さん』になりおおせてたらしい」

実際じっさい裁縫さいほうの腕も良かったんだって」

「お前の見た派手な服もあいつの自作で、本物の王太子のって訳じゃなさそうだ」


 口々に喋る兵士たちを、灰被りは小うるさげに見やる。


 けれど「王冠と剣は?」と僕が尋ねたので、彼女はおしゃべりな部下たちをひとまず無視して、


「あれか。私達が王族を殺した時、事情通じじょうつう忠臣殿ちゅうしんどのが命がけで届けた。

 要らん世話を焼いたものだ。そんなことしなけりゃ、こっちだってあいつの生存も居場所も知らなかっただろうに。こんな辺境で鬼ごっこをすることも無かった」


 だるげな口調から察するに、それは灰被りの本心であるように思われた。

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