無様な灰被り(上) 11

「一応言って置くけど、ああいう貴族は皆無じゃないよ? 下々しもじもの者を迫害するのに生き甲斐を見出みいだしてる様なの。勿論少数派だったけどね。大抵は下々の者の苦しみには無関心だった」


「だった」と、仕立て屋が過去形で言うのが、僕には気になった。


 けれど、そのことにいて僕が尋ねる前に仕立て屋は、


「それにしてもあんな言葉がすらすら出て来るなんて、仮令たとえ君の実家が代々だいだいの従者でも、相当な家に違いないだろうね。ここじゃ空振からぶりだったけど、時間をかけて情報を集めればきっと君の身元みもとは分かる。いずれ家族にも会えるよ」


 仕立て屋は自信に満ちた様子でそう言ったけど、「家族」という言葉を口にした時、少しだけ表情がかげった気がした。


 そして僕は僕で、仕立て屋の言葉に完全に安心することも出来なくて、


「……うん、だと良いけど」

「っと、先のことを考えないように言ったのは私だったね。ごめん。とりあえず、今はここでゆっくりできてることを喜ぼう」


 そう言って、仕立て屋は納屋の壁に寄り掛かった。


 そうして、ちょっと話題を変えた。


「それにしても、思い出せる一番初めの記憶が裸で街道にいたことで、その後すぐに死体を見つけた、なんて、君も災難だったね?」


 村への道中で、僕はごく簡単に、服を盗んで逃げだすまでの事情を話していた。


「うん。でも何で僕、裸だったんだろう?」

「多分襲われて身ぐるみがされたってとこじゃないかな? もしかして、それがあまりにも怖くて記憶がなくなっちゃった、とか?」


 僕はしばらくその説を検討して見て、


「野盗……っていうのかな? そういう人達は、盗るものを盗ったら、大人しく帰すのが普通?」


 仕立て屋も、自分で言っていて奇妙には思っていたらしく、


「まあ、確かに変ではあるよ。聞いた話だけど、ああいう手合いは荒っぽいから、さっさと――あー、始末をしたり。それでなくともどこかに売っぱらったり、それから君みたいな良い家の子みたいなのなら、身代金みのしろきんを要求するって手もある。傷一つつけずに放り出すなんてことはない、かな?」

「捕まってたけど必死で逃げた?」

「でも君の足、その時はまだ綺麗なままだったんでしょう?」


「確かに」と、僕は言った。


 そうして考え込んでいたけど、その段階で「別の世界から渡って来た」なんて答えに辿り着ける訳がなかった。

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