無様な灰被り(上) 5

「どうかしたのか?」


 彼の僚友りょうゆうは尋ねた。


「あまり住民を怖がらせるなよ。隊長に怒られるぞ?」

「別に怖がらせたつもりはない」


 そう抗議して、彼は当惑とうわくした様子で続けた。


「ただ、子供が吊るした死体から服を盗ってた」

「賊の死体から盗みか? 手癖てくせが悪いな」


 そうつぶやく僚友に、彼は首を横に振って、


「いや、自分で着てた。元は裸だったみたいだ」


 彼の言葉に、僚友は首を傾げた。


「……服さえ持たんような浮浪児ふろうじが? そんなに貧しいのか? この辺りは」

「そんな風には見えなかったけどな……村の連中と交渉したのは誰だっけ? ちょっと訊いてみよう」

「隊長への報告も忘れるなよ。副長でも良いけど」

「わかってるよ。こんな報告でも、道中の暇つぶし位にはなるだろうし」

「ゆっくり進んでるからな。馬どももさぞ楽だろう」

「なあ、やっぱり隊長は――」


 言いかける彼を、僚友は押し止めた。


「止めとけよ。多分そうだとは思うけど、誰も直接訊いてないだろう? そっちの方が利巧りこうってことだ。腹に一物いちもつ――ってのは隊長だって嫌いだろうけど、『議会』のことを考えるとどうしても……」

「わかったよ。……あいつも苦労するよな」

「全くだ」


 そう言って、二人は馬車の方へと戻って行った。

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