第40話 そーゆーことかぁ

緊張だ。

緊張で吐きそうだ。

だってカナくんもいない。

長永さんもいない。


1人で面接。

今日は1人。

目の前の2人ゴツイし。

外国人だよね?

サングラスかけてるし。

無言だし。


怖い!

怖いよカナくん!



「本当に申し訳ありません、栞さん。事前に連絡を入れたつもりだったのですが…」


「…怖かった…すごく怖かった…」


「2人にはあとでよく注意しておきますので…」


マイケルとオリバーだった、らしい。

ゴツイ外国人たち。

わからなかった。

サングラスだし。

ユニ姿しかみたことない。


メディカルさんこなかったら。

ぶっ倒れてたかもしれない。

ていうか、


「…なんで、面接に?」


「オーナーからの提案、というのもありますが、純粋に手伝いたいそうです。ボスへの恩義がある、と言って聞かないもので。ただ、そちらもその…困りますよね?急に来られても…」


「困ります、けど…あの、お手伝いって、アルバイトって意味ですか?この2人を?」


だって。

お兄ちゃんより大きくてゴツイ。

威圧感が…いるだけで、すごい。


ボディガードとかならわかるけど。

アルバイト?

ぜんぜん想像つかない…


「いえ、扱いはボランティアで良いそうです。いずれ、通訳が必要になるだろうからと。その代わり、空いた時間で温泉に入りたいと言っています。どうでしょうか?」


「つうやく…?うちで…?」


「はい、経緯を説明するとですね。この2人は代表招集でイギリスへ渡った際、触れ回ったそうなんです…その、ボスの献立のことを」


「はぁ…それは知ってます、けど」


カナくんからも聞いてる。

たしか、あっちでも人気だって。


「ボスは気軽に公開してとおっしゃいましたが、オーナーの許可が下りませんでした。当然です、それぐらいボスの成果は素晴らしいもので…もはや、クラブの財産と言っても過言ではありません。オーナーもそう認識しています」


「は、はぁ…」


なんか熱い、熱量がすごい。

メディカルさん。

こんな人だっけ…?


「そうなると、ボスの献立を体験するには、来日する必要があります。しかし、食堂の使用許可も下りませんでした。さすがに、食事のためだけに来日では…クラブでも申請が通らないそうです」


「そうなん、ですね…?」


まだ…

まだ、話にはついていける。

いけてるけど。

いや、半分くらいはついてけてないけど。


これ大ごと?

なんか、大ごとになってきてない?


「そこで、こちらの旅館を使用してはどうか、という話しになりまして。こちらでもボスの献立が提供されると、オーナーからお聞きしています。名目は、リハビリと湯治で来日して…食事の提供を受けて1週間ほどの体験、といったプランです。いかがでしょうか?栞さん」


えー…

え?

そもそも。

そもそもだよ?


それって、わたしが決めるの?

いいか、悪いか。


…うそでしょ?

むりむりむり。

むりだって。



「あー…えー…お待たせしました…」


「いえいえ、お疲れ様です。確認は取れましたでしょうか?」


カナくんに確認して。

オーナーに確認して。

待たせてたバイトの面接して。

ようやく戻ってきた。

わけだけど…


「えーと、カナくんはオッケー…だそうです。ただ、客室が…客室って、どれぐらい押さえとかないとダメですか?」


カナくんが気にしてた。

他のお客さんの迷惑にならないかどうか。

それはそうだ。

地元のみんなが使えなかったら困る。


「そちらをお答えする前に、栞さん。オーナーはなんとおっしゃってました?」


「え?オーナーは…なんかとんでもないことを…ってあれ…もしかして、メディカルさん、わかってる感じですか…?」


「ええ、おそらくは」


あー…

あーそーゆーことかぁ…


「グル、なんですね、お2人は。カナくんには内緒で、やっちゃおうって」


「その通りです。ボスの性格から、断られるかも知れないと踏んで…栞さんの許可を得てやってしまおう、という話しになってまして」


「んー…たしかにカナくんなら…断りそう、だけど」


「はい、ですが我々としても恩には報いたい。それに、実際に必要とされているわけですから…なら実行に移してしまっても問題はないでしょう、ということで」


「…ちがうクラファンを?」


「ええ、詳細を話させて頂きます」



「はぁー…」


ほうじ茶を入れて一息つく。

頭はまだ混乱してるけど。

心は少し、落ち着いた気がする。


ただこれ…

大ごととか、そーゆーレベルじゃなくない?


「栞さんは実行するだけですし、クラファンですから失敗しても大丈夫です。そう気にされなくても…平気ではないですか?」


ホットウォーターに苦戦する2人と違って。

メディカルさんは涼しい顔だ。

なんかズルイ。

ほうじ茶おいしい…


「そーなんですけど、平気ではないですね…」


たしかにわたしは実行するだけ。

スゴイのはカナくんで。

わたしは関係ない。

でも。

でもだよ。

この実行ボタンひとつで。

いちおく、だよ?

わたしに責任はないって言うけど。


押せる?これ。

ふつう押せるの?

それもカナくんにはヒミツで…

難しいんじゃないかなー。

バレちゃうと思うけどなー。


でも、将来を考えたらぜったいプラスだし。

オーナーもメディカルさんもやれっていうし。

やるべきなのかな?

やるべき、だよね。

きっと。


「栞さんも見てみたくないですか?ボスの、本当のバリューを」


ばりゅー、価値、それはそうだ。

わたしも正直…見てみたい。

カナくんの、本当のすごさを。

見てみたい。

見てみたいに決まってる。


よし。

よし!


「わかりました、やります。押します、ボタン」

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栞の旅館再生計画 neco @neco272

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