第40話 そーゆーことかぁ
緊張だ。
緊張で吐きそうだ。
だってカナくんもいない。
長永さんもいない。
1人で面接。
今日は1人。
目の前の2人ゴツイし。
外国人だよね?
サングラスかけてるし。
無言だし。
怖い!
怖いよカナくん!
☆
「本当に申し訳ありません、栞さん。事前に連絡を入れたつもりだったのですが…」
「…怖かった…すごく怖かった…」
「2人にはあとでよく注意しておきますので…」
マイケルとオリバーだった、らしい。
ゴツイ外国人たち。
わからなかった。
サングラスだし。
ユニ姿しかみたことない。
メディカルさんこなかったら。
ぶっ倒れてたかもしれない。
ていうか、
「…なんで、面接に?」
「オーナーからの提案、というのもありますが、純粋に手伝いたいそうです。ボスへの恩義がある、と言って聞かないもので。ただ、そちらもその…困りますよね?急に来られても…」
「困ります、けど…あの、お手伝いって、アルバイトって意味ですか?この2人を?」
だって。
お兄ちゃんより大きくてゴツイ。
威圧感が…いるだけで、すごい。
ボディガードとかならわかるけど。
アルバイト?
ぜんぜん想像つかない…
「いえ、扱いはボランティアで良いそうです。いずれ、通訳が必要になるだろうからと。その代わり、空いた時間で温泉に入りたいと言っています。どうでしょうか?」
「つうやく…?うちで…?」
「はい、経緯を説明するとですね。この2人は代表招集でイギリスへ渡った際、触れ回ったそうなんです…その、ボスの献立のことを」
「はぁ…それは知ってます、けど」
カナくんからも聞いてる。
たしか、あっちでも人気だって。
「ボスは気軽に公開してとおっしゃいましたが、オーナーの許可が下りませんでした。当然です、それぐらいボスの成果は素晴らしいもので…もはや、クラブの財産と言っても過言ではありません。オーナーもそう認識しています」
「は、はぁ…」
なんか熱い、熱量がすごい。
メディカルさん。
こんな人だっけ…?
「そうなると、ボスの献立を体験するには、来日する必要があります。しかし、食堂の使用許可も下りませんでした。さすがに、食事のためだけに来日では…クラブでも申請が通らないそうです」
「そうなん、ですね…?」
まだ…
まだ、話にはついていける。
いけてるけど。
いや、半分くらいはついてけてないけど。
これ大ごと?
なんか、大ごとになってきてない?
「そこで、こちらの旅館を使用してはどうか、という話しになりまして。こちらでもボスの献立が提供されると、オーナーからお聞きしています。名目は、リハビリと湯治で来日して…食事の提供を受けて1週間ほどの体験、といったプランです。いかがでしょうか?栞さん」
えー…
え?
そもそも。
そもそもだよ?
それって、わたしが決めるの?
いいか、悪いか。
…うそでしょ?
むりむりむり。
むりだって。
☆
「あー…えー…お待たせしました…」
「いえいえ、お疲れ様です。確認は取れましたでしょうか?」
カナくんに確認して。
オーナーに確認して。
待たせてたバイトの面接して。
ようやく戻ってきた。
わけだけど…
「えーと、カナくんはオッケー…だそうです。ただ、客室が…客室って、どれぐらい押さえとかないとダメですか?」
カナくんが気にしてた。
他のお客さんの迷惑にならないかどうか。
それはそうだ。
地元のみんなが使えなかったら困る。
「そちらをお答えする前に、栞さん。オーナーはなんとおっしゃってました?」
「え?オーナーは…なんかとんでもないことを…ってあれ…もしかして、メディカルさん、わかってる感じですか…?」
「ええ、おそらくは」
あー…
あーそーゆーことかぁ…
「グル、なんですね、お2人は。カナくんには内緒で、やっちゃおうって」
「その通りです。ボスの性格から、断られるかも知れないと踏んで…栞さんの許可を得てやってしまおう、という話しになってまして」
「んー…たしかにカナくんなら…断りそう、だけど」
「はい、ですが我々としても恩には報いたい。それに、実際に必要とされているわけですから…なら実行に移してしまっても問題はないでしょう、ということで」
「…ちがうクラファンを?」
「ええ、詳細を話させて頂きます」
☆
「はぁー…」
ほうじ茶を入れて一息つく。
頭はまだ混乱してるけど。
心は少し、落ち着いた気がする。
ただこれ…
大ごととか、そーゆーレベルじゃなくない?
「栞さんは実行するだけですし、クラファンですから失敗しても大丈夫です。そう気にされなくても…平気ではないですか?」
ホットウォーターに苦戦する2人と違って。
メディカルさんは涼しい顔だ。
なんかズルイ。
ほうじ茶おいしい…
「そーなんですけど、平気ではないですね…」
たしかにわたしは実行するだけ。
スゴイのはカナくんで。
わたしは関係ない。
でも。
でもだよ。
この実行ボタンひとつで。
いちおく、だよ?
わたしに責任はないって言うけど。
押せる?これ。
ふつう押せるの?
それもカナくんにはヒミツで…
難しいんじゃないかなー。
バレちゃうと思うけどなー。
でも、将来を考えたらぜったいプラスだし。
オーナーもメディカルさんもやれっていうし。
やるべきなのかな?
やるべき、だよね。
きっと。
「栞さんも見てみたくないですか?ボスの、本当のバリューを」
ばりゅー、価値、それはそうだ。
わたしも正直…見てみたい。
カナくんの、本当のすごさを。
見てみたい。
見てみたいに決まってる。
よし。
よし!
「わかりました、やります。押します、ボタン」
栞の旅館再生計画 neco @neco272
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