悪役令嬢はただ孤独に生きたくなかった

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 前世はお金持ちの家の女の子だった。


「ごめんね。お金持ちの子とあそぶと面倒だからって、ママとパパが」


「友達でしょ? だったらお金くらいかしてよ」


「お金持ちなんだから、ちょっとくらい分けてくれもいいじゃない。どうせたくさんもって、贅沢してるくせに」


 こんな人生いやだ。


 別の人生がいい。


 そう願ったからか、その女の子は新しい人生を与えられた。


ーー普通の子のように生きて、普通に友達を作って、普通に恋をしたい。


ーー町でみかけるあのゲームみたいに。


 けれどそれは女の子を苦しめるできごとでしかなかった。





 その悪役令嬢は戦いたいと思っている。


 世の中に蔓延する、理不尽な暴力と。


 抗えぬ権力と。


 悪役令嬢は、名家の娘に生まれた。


 しかし、誰よりも権力というものを嫌っていた。


 それは、幼い頃にあった出来事が原因だった。






 悪役令嬢には、友人がいた。


 平民の友人が。


 しかし、友人はある日忽然と姿を消してしまった。


 貴族と関わることがふさわしくない。


 そう考えた者達の手によって。


 だから、悪役令嬢は抗うことにした。


 今の世の中、権力は絶対の力だった。


 だからそれに抗おうと。






 悪役令嬢はやがて、強大な力を持つ者と、手を組む。


 そして、裏の世界で暗躍し、権力が効かない世界を作り出そうとしていた。


 それは、悪役令嬢が当初描いていた、血の流れぬ穏やかな計画ではなかった。


 しかし、悪役令嬢はどうしても、理想の世界を作りたかった。


 そのため、当初の計画からかけ離れていったとしても、止まることはできなかった。


 あいかわらず、権力が絶対の力であり続け、弱者が虐げられる世界だったからだ。






 そんな悪役令嬢だが、ある日気の良い友人たちに出会う。


「私達と、友達になりませんか?」


 その者達は生涯の友と言ってもいい相手となった。


 やさしく、おだやかで、思いやりがある人々。


 彼等は、穏やかな方法で世界を平等にしたいと考え、悪役令嬢も一時はそれに同意していた。


 しかし、道は交わらなかった。


 問題は、悪役令嬢の心が揺れていた時期に起こった。


 悪役令嬢は、恋に狂った、


 そしてそれは、人間関係を壊してしまった。


 その果てに、悪役令嬢はもっとも忌み嫌っていた力を、権力の力を、よりによって自身が使ってしまった。


 悪役令嬢は、歪んだ世界に染まってしまった自信の手を見て、絶望した。


 その事が影響して人が寄り付かなくなり、いっそう孤独となった悪役令嬢は、穏やかな方法で世界を平等にする事を諦める。


 かねてからの協力者と共に、権力の効かない世界を作るため、再び行動を始めた。


 最終的に、悪役令嬢は倒れ、かつて恋をした男性にとどめをさされる事になった。


 悪役令嬢は自分の目的を隠すため、嫉妬ゆえの犯行だったと告げる。


 自分の想いが、新しい世界を作ろうとする彼等の足手まといにならないように。


 恋した男から、落胆と憐みの視線を受けながら悪役令嬢はこの世を去った。





 死のうふちで悪役令嬢は気付く。


 すべての始まりの想いを。


 世界のためなどではなく、ただ自分が孤独になりたくなかったからだと。


「どうして友達と一緒にいちゃいけないの?」

「それはお前が貴族で、相手が平民だからだ」

「ただ一緒にいるだけでもだめなの?」

「一緒にいるのもだめだ。ふさわしくないからだ」


 彼らとともに穏やかな方法で世界を変えていけたのなら、その願いはその時点でもう叶っていたという事に。


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悪役令嬢はただ孤独に生きたくなかった 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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