第12話 俺は奴を祓う

「それでは、妖人と姫華の退院を祝して! 乾杯!」


「「乾杯!」」


「乾杯」


 妖人、川石姫華(かわいしひめか)、片桐仁(かたぎりじん)、世煌優(せきらゆう)の4人はとある山の旅館で昼間から妖人と姫華の退院祝いをしていた。


「いやー妖人と姫華の怪我治って良かった、これも恵奈のおかげだな!」


「恵奈さんも来れば良かったのにな〜」


「辻の名医だから、本部を離れられないんだろうね」


 そのように皆で談笑しながらご飯を食べていると誰よりも多く食べ、誰よりも早くご飯を食べ終えた仁が手を合わせてから突然立ち上がった。


「優さん、俺はこれで」


「ああ、おう」


 仁は食事部屋を出て行った。


「え? 仁はどこに行ったんですか?」


「墓参りだな」


「墓参り?」


「うーん、本人から了承を得たし、妖人に話すとしよう。仁の過去を」


「仁の過去……」


 妖人は優のいつもとは違う真剣な雰囲気に息を飲んだ。


「仁は元々この山にあった村で生まれ育ったんだ。荒土村って言って荒土流の陰陽師の育成に力を入れていて、辻もそれに協力していた。そんな中、10年前、村に1人の妖怪が入り込んだ。本来なら妖怪は簡単には入れないように結界を張ってあるんだが、その結界が強力な力でこじ開けられたんだ。そして、その妖怪は村の全てを火の海にしたんだ」


「そんな……1人の妖怪でそこまで出来るんですか?」


「まあ、村の結界を壊せる実力を持ってるやつだからな、ありえない話では無い、その時、仁は村にあった辻と繋がる扉を使って本部まで避難してきたんだ。それを俺が偶然見つけて、本部に居た人達で村の外まで火が燃え移るのを止めたんだ」


「村の人たちはどうなったんですか?」


「残念ながら、仁以外の村民たちは助からなかった。その時から、仁は妖怪を恨み、村を襲った妖怪を見つけ出して敵(かたき)を討とうとしている」


「仁にそんなことが……」


「一応、伝えておこうと思ってな」


 優は体を伸ばし、椅子の背もたれに寄りかかる


「仁はお墓参りに行ってるんですよね」


「ああ、そうだが」


「じゃあ、行ってきます!」


 妖人は席から立ち上がり部屋の襖の前に立った。


「ちょっと待て妖人!」


「はい……」


 妖人は仁が困っているかもしれないとすぐに会いに行こうとしたが流石に優に止められるだろうと思っていた。


「…………はぁ、仁のいる所のマップ送っといてやるから」


「……! ありがとうございます!」


 妖人は優に送られたマップアプリの指示に従いながら山道を走った。


 妖人が目的地へ着くと荒土村と書かれた看板が地面に転がっていることに気づいた。

 おそらくここが荒土村なのだろう。村の地面は抉られ、とても歩きづらそうだった。

 妖人は村に入り、仁を探そうと思った。しかしその必要は無かった。少し進んだ先に膝をついて座っている仁の姿が見えた。

 妖人は仁のいる位置まで足を速めた。


 妖人が仁の元へ駆け寄ると仁はその気配に気づいたのか背中を向けながら話しかけた。


「鳥野郎か」


「……優さんから話は聞いたよ」


「そうか……」


「仁、大丈夫?」


「何がだ」


 仁は立ち上がりその場から去ろうとした。


「逃げないでよ!」


「……っ! 俺は逃げようとしてない!!」


「仁……」 


「ここでみんな死んだ! 父さんも母さんも村のみんな、俺が逃げたから! だから俺がみんなのかたきを討つんだよ!」


 仁の叫びに対して妖人は何も返せなかった。前に辻の病室で仁に言われた時のようだった。


「そうか……お前はこの村の住人だったのか」


 突然、妖人と仁の前に1人の男が現れた。

 男はボロボロになったコートを着て異様なアルコールの匂いを漂わせていた。


 妖人と仁はその不気味な人物を警戒した。


「なんだ、おめぇ」


「『耕子』酒呑童子の禍酒(かしゅ)、この村を燃やした、お前の敵(かたき)だよ」


 その男は無気力にニヤニヤと笑っていた。


「……っ! おめぇが……」


「耕子!? 早く優さんに連絡しないと!」


 妖人は急いでスマホで優にメッセージを送る


「ずっと待ってたぜ……おめぇを!」


 仁は錫杖を持って地面の石を浮かし、弾丸のような速さで禍酒へ撃ち込んだ。


 しかし禍酒は避けることなく棒立ちのまま立っていたにも関わらず仁の飛ばした石が禍酒をすり抜けた。


「すり抜けた!?」

 

「な、なんでだ!」


「俺は酒を呑み過ぎたみてぇでな、酒で燃えた火みてぇな体に変えられんだよ」


「酒呑童子にそんな能力ねぇはずだ!」


「まあ、俺の特殊能力ってわけだ」


「……くっそ!」


 仁は錫杖の先端に石を固め禍酒へ下から振り上げた。

 しかしその攻撃も禍酒を簡単にすり抜け禍酒による炎の拳が仁の腹に当たり、そのまま吹き飛ばされてしまった。


「ぐはっ……」


「仁!」


 妖人は青い羽を取り出した。羽から青い炎が燃え上がり刀の形に変化させ、一瞬で禍酒に近づいた。


「……無駄だ! こいつに攻撃は効かない!」


 禍酒は避ける素振りも見せずに妖人の攻撃をすり抜けようとしたが妖人の斬撃が禍酒に当たった。


「……何?」


「なんで……」


「良し!」


「ちっ、めんどくせぇ」


 禍酒は炎の拳を妖人に打ち込み、妖人は吹き飛ばされた。


「ぐああああ!!!!」


「荒土流の陰陽師、お前には俺の復讐のために死んでもらう」


「んだと……まさか……やっぱりお前が……荒土流の陰陽師を襲ってる……犯人か……」


 禍酒が倒れている仁の首を掴み持ち上げた。

 仁にはもう反撃する力が残っていなかった。


「おめぇは……絶対に……俺が祓う……!」


「そうか、それは残念だったな」

 

 禍酒の握りこんだ拳が紅く光っている。


「仁!」


 禍酒の拳が仁に当たりそうになった時、突然雷が禍酒に上に落ち、それに当たった禍酒はすぐに仁を離し距離をとった。


「ぐっ……な、何だ!?」


「悪い遅くなった!」


「妖人、仁、大丈夫!?」


 村の入口の方から優と姫華が走ってきた。


「優さん! 姫華!」


「お前らは、あの時の辻か」


「よお、あの時の耕子」


 優と姫華は猪笹王のいた山で禍酒と会っていた。

 

「はぁ……めんどくせぇ奴らが多いな、俺は帰らせてもらうぜ」


 禍酒は妖人達に背中を向けて歩き始めた。

 そして数歩歩いた所で立ち止まり振り返った。


「荒土の陰陽師、今度会った時は、確実に殺してやるからな、覚悟しとけ」


 そう言って禍酒はユラユラと炎の様に薄くなり、やがて消えた。


「どうやら、見逃してくれたみたいだな」


「くっそ……」


 仁は地面に倒れながら拳を強く握った。

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妖怪の青い羽 凍月氷菓 @ituki_hyoka

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