第11話 僕は君を止める
病室にはベッドが全部で4つある。しかし、その中で使われていたのは妖人のベットだけだった。
妖人は病室のベットで仁に言われたことを考えていた。
「人間は目の前で消える命を見てることしかできない……」
妖人にも全員の人が助けられるわけではないことはわかっていた。
「でも……助けたかった……」
ポロポロと涙を流しながら手元にあったシーツを強く握りしめる。
すると突然、病室のドアがコンコンとノックされた。
妖人はそれに気づくと流していた涙をすぐに拭って訪問者のノックに答えた。
「はい、どうぞ」
病室のスライド式のドアが横に開かれると辻での仲間である川石姫華(かわいしひめか)が不安そうな顔を出した。
「今、大丈夫? 妖人」
「姫華! 姫華こそ大丈夫なの?」
「う、うん全然大丈夫……」
全く大丈夫そうではない。
妖人と同じ病衣を着た姫華が病室に入り先程まで仁が使っていた丸椅子に座った。
響生とのことがあった時、姫華は気を失っていた。そのことを知っていた妖人は自分の身に起きたことをどうやって説明しようかと考えていた。
すると姫華の方から話し始めた。
「優さんから色々聞いた。新園くんのこととか、まゆちゃんのこととか……」
「そう……だったんだ……」
妖人は少し安心した。またあの時の説明をすれば自分は耐えられなくなると思っていたからだ。
「妖人は悪くないよ! 悪いのは新園くん、響生なんだし!」
「うん、だけどもう…………辻は……辞めるよ……」
「え!? なんで!?」
妖人の突然の報告に姫華は驚いた。
「僕は強くない、だから続けても意味が無いんだ」
妖人は安心していた自分の中では不向きなことはするべきではないと思っているから、いや、実際は……
「……バカ……」
「え?」
「妖人のバカ!」
普段は聞かない姫華の大声と悪口を聞いて妖人は圧倒されてしまった。
「なんでそうやって逃げようとするの! 弱いなら強くなれば良いじゃん! それで今度は助けられるようになれば良いんだよ!」
言い終わったかと思いきや息を大きく吸って妖人への残りの不満をぶつけた。
「簡単に逃げようとしないでよ! 妖人は困ってる人がいたら助けるんでしょ! だったらまだ諦めちゃダメだよ!」
「姫華……」
妖人は気づいた。自分は己の弱さから逃げようとしていたことを、そしてそのまま諦めてはダメだということを
すると突然妖人の体から青い炎が現れ、目の前で固まり1羽の鳥に変化した。
「グワッ!」
「青鷺火」
「グワッグワッ!」
「……わかったよ。ありがとう姫華」
「はぁ、疲れた〜 どういたしまして」
姫華は普段出さない大声を出して疲れきっていた。するといきなり遠くからドンッという爆発音が聞こえた。
「あっちは確か、資料室の方…… そういえばさっき、優さんが資料室に行ってくるって……」
「嫌な予感がする……ちょっと行ってくる!」
妖人は青鷺火を肩に乗せてベッドから出て病室のドアの前まで来た。
「なら私も! いっ……」
「無理しないで、まだあんまり動けないでしょ」
「バレてた……?」
「当たり前でしょ」
「じゃあ……行ってらっしゃい!」
「うん、行ってきます!」
妖人は病室から出て爆発音がした方へ向かった。
――
「もう終わり? 岩のお兄ちゃん」
「クソがっ……」
仁が床に膝をつきながら息が上がった状態で呟く。破火との戦いで体力を消耗しきっていた。
「それじゃあ終わりに――」
破火が火の玉を仁に投げようとした時
「待って破火!」
「っとと、どうしたの? 響生お兄ちゃん」
「この気配、面白い奴が来たよ」
「やっと来たか」
「鳥野郎……」
響生が振り返った瞬間、目の前に見覚えのある青い炎が左斜め上から迫り来る。しかし響生はいとも簡単に避けた。
「来たんだね、妖人」
「響生、君を止める」
響生が拳に紫の炎を纏せ妖人に殴りかかった。妖人は避けつつ炎の刀で攻撃を入れようとすると、響生が素手で刀身を掴んだ。妖人は炎の刀を消して横腹へ炎を当てた。
「ぐっ……少しは偏ってきたってことかな妖人」
響生は痛みに耐えつつ微笑んでいた。
「……では改めて自己紹介をするとしよう。俺は『耕子』の響生」
「やっぱりお前、耕子か」
そう言って床に倒れていた優が起き上がった。
「1つ聞きたいことがあるんだが、真守まゆは死んでない、だよな?」
「え? 真守さんが生きてる……?」
妖人は困惑していた。真守まゆはもう既に死んでしまったと思っていたからだ。
「はぁ、それバレるんだ、そうだよ俺が消した人達は俺の中で生きてる。でも、俺を祓ったら死んじゃうかもね」
響生は自分の胸を指さしながら軽い口調で言った。
「響生、お前……」
「人を守れない中途半端な君が、俺を止められるのかい?」
「たとえ今止められなくても、僕は諦めない」
2人は睨み合っていた。
「……帰るよ破火」
「え〜倒してない!」
「まーた今度の楽しみに取っておきな」
響生は妖人から離れて破火の近くまで来た。
「それでは辻の皆さん、さようなら」
破火の肩に手を乗せるとショーの終わりかのように大袈裟にお辞儀をした。すると紫の炎が現れ2人の体を包み込み2人の姿は消えた。
「逃げたか……」
優は体を伸ばすと近くで膝をついていた仁に肩を貸して妖人と共に姫華のいる病室まで戻って行った。
――
病室の前まで来るとドアの前に1人の人物が立っていた。
それは世煌優の妹で辻の医療班である世煌恵奈(せきらえな)だった。
妖人達は恵奈からの圧を感じていた。
「病人がベッドから離れて何をしてるのかしら?」
「えっと……それは……その……」
「お兄ちゃんも仁もそんなボロボロになって」
「いやー今回のは手強かったなー」
「絶対思ってないっすよね」
「まぁ良いわ、状況は何となく他のスタッフから聞いてるし、状態が酷いから仁から診療室に来なさい」
「うっす」
仁が診療室に入っていくと病室のドアが開き姫華が出てきた。
「妖人! 優さんも! 大丈夫だった?」
「うん、なんとか」
「こら! 姫華は寝てる!」
「はーい……」
妖人と優は恵奈から呼ばれるまで姫華とさっきまであったことを話しながら待つことにした。
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