第20話 動く影

『すでに報告を受けておるかもしれんが、アクトたちが対処した新種のタクトが各地で出現したとき、上空で生命反応を確認したのじゃ』


『ああ、さっき聞いたな。たしか、ヒューマン族ってところまでは分かったんだっけか?』


『…………実はすでにその正体がわかっておるのじゃ』


『なぁ!?それは、ほんとなのか!!』


『本当じゃ』


 マーリンのやつもうそこまでわかっているのか。なら、なぜ、わざわざ情報を規制したんだ?


『正直、この真実を話そうか迷ったのじゃが、これはアクトに伝えべきだと思ったのじゃ。わしですら、目を疑うのほどの真実、上空にいたヒューマン族の正体をな』


『…………そのヒューマン族の正体は誰だ?』


 マーリンは一息ついた後、ゆっくりと口を開いた。


『その正体は…………じゃ』


『…………はぁ?』


 思わず、声が出た。


『それは本当なのか、マーリン?』


『本当じゃ』


『ありえない。ありえるわけがない。だってティアは、あの時、死んだはずだ。俺たちはそれをこの目で見たはずだ!しかも、あれから』


『500年は経っておるな。だから、わしも目を疑ったのじゃ。だが、あれはティアじゃった。しかも、エゴウェポン【フィーレ】を持ってな』


『なんだよそれ…………』


 エゴウェポン【フィーレ】を使えるのは俺かもしくはティアだけだ。それだけの情報だけでもティアである可能性が高い。


『てことは、あれか、今回の騒動は』


『ティアが起こした可能性が高いじゃろう』


 何がなんだが、頭が混乱した。


 ティアは死んだ。それが俺の頭の中にある真実なのに、生きている?本当に?どうして、生きているんだ?


 疑問が疑問を呼ぶ。


『とにかくじゃあ、頭の片隅に覚えておいてほしいのじゃ。もしかすると、ティアと戦う羽目になるかもしれぬということをな』


□■□


 正直、本当にティアなのか、まだ俺は疑っている。まぁ、マーリンが言うんだからほぼ確実だろうけど、それでもその現実を否定したい自分がいる。


「近いうちに、また大きな戦いが来るかもな」


 マーリンの言いようからするに、ティアに戦いを仕掛けるだろう。


 不穏分子は早めに処理する。マーリンのよくやる手口だ。


 もしそうなればきっと戦士兵がたくさん駆り出すはずだ。その時はきっとティナたちも収集される。


「早く本調子に戻さないとな…………はぁ」


 少し書類を整理し、作業した後、リビングに向かった。


 ガチャっ扉を開けると、リビングの椅子に座った暗い顔を浮かべているティナとルエ、そして普通にご飯を食べているシィーアとベアがいた。


「二人とも、どうしたんだ?」


「アクトさんが冷たくするから」


「私でもわかる!アクトが悪い!!」


「な、何のことだ?」


「アクトに嫌われた」


「せっかく夜遅くまで作戦会議して、退院祝いをしようと思ったのに」


「こういうことです、アクトさん」


「わかったか!!」


「べ、別に冷たくしたつもりはないんだが」


 そうか、なるほど、あれは退院した俺をねぎらっての行動だったのか。


 そんな行動に対して俺は「ありがとう、みんな。でも、別にそういうのいいから」と、言ってしまったわけだ。


 完全に空気を読めない奴じゃないか。


 だがしかし、しょうがないのだ。頭の中はティアのことでいっぱいだし、まだ情報の整理すらできていない。


 こうして、平然を装っているがもしここに誰もいなければ叫ぶぐらいには今、混乱している。


 いや、ただ現実に向き合う時間が欲しいだけか。


「悪かったな、二人とも。別に冷たくしたくてしたわけじゃないんだ…………だから、そのごめんな」


 その言葉に二人の表情を見る見るうちに明るくになり、席を立ちあがった。


「それなら良かったです!というわけで、みんな今日はアクト退院祝いだよ!ルエさん、料理の準備を!」


「わかりました!!」


「きゅ、急に元気になったな」


「さっきのアクトさんの「そのごめんな」、すごくかっこよかった。ねぇ、ベア」


「わ、私は別に…………」


「アクト、はい!」


 っとティナの手の先にはたくさんの料理が並ばれていた。


「これ、全部用意したのか?」


「みんなで用意したんだ」


「みんなって、お前らが?」


 すると、みんなが深くうなずいた。


 別に俺なんかのためにここまでする必要はないんだけどな。それに、退院祝いってティナも言うとて入院してたけど。


「たかが1週間の入院で」


「みんな、アクトには感謝しているんです。ここまでこれたのも、全て。だからこれは退院祝いでもあるけど、日ごろのお礼でもあるんです」


「そうそう…………感謝は素直に受け取っておいたほうがいい。じゃないと、私の隠された牙が」


「私の手作り料理だ!しっかり食べろよ!残しは許さん!」


「僕は作ってませんけど、仕事はだいぶ減らしたほうなので、それでいいですよね?」


 わちゃわちゃと一斉に詰め寄ってしゃべる姿を見て、俺は視線をそらした。


 まさか、ここまで感謝されるとは、ちょっと泣きそう。


「みんな、アクト管理人が泣きそうになってますよ!」


「え、アクトが!?」


「気になる気になる」


「アクトも泣くんだな」


「おい、離れろ!お前ら!!」


 こうして、リビングでアクト退院祝い兼日頃の感謝祝いが開かれた。


 つい1週間ほど前にタクトとの戦いがあったとは思えないほど盛り上がり、気が付けば外は真っ黒になっていた。


「なんか、悩んでいたのかがバカみたいだな」


 外の空気を吸いながら、別に何も解決していないのに、心なしか軽くなった気分になる。


 たしかに、ティアのことは俺にとって大きいことだが、それを引きづってもしょうがない。それより今はあいつらの訓練に集中しよう。


 どうせ、いずれ、向き合わないといけないんだから。


「どうしたの、アクト?」


「うん?」


 声がするほうへ顔を向けるとティナが俺の横で顔を覗いていた。


「ああ、空がきれいだなって」


「たしかに、綺麗です」


「そういえば、体調は大丈夫か?ミルウェポンの完全武装を使ったんだし、まだ万全じゃないだろ?」


「万全じゃないのは確かですけど、もう戦えるぐらいには治りました!」


「そうか、それはよかった」


「むしろ、心配なのはアクトです。相当無理していたことはまじかで見た私だからわかります。大丈夫ですか?」


「ほとんど完治したよ。ただミルウェポンの使用は禁止されたけどな」


「…………できれば、もう無理はしないでほしいです。私にとってアクトは家族も当然で、もう家族を失うのは嫌なんです」


「心配するなって、俺はそう簡単には死ぬつもりはないし、そんなことを考えるなら、まず俺より強くなってから言うんだな」


 俺はティナの頭をやさしくなでた。


 まさか、俺のことを家族のように思ってくれるなんてな。なんだが、懐かしい気分になった。


「もう、子ども扱いはやめてください!私はもう15歳、立派な大人なんですよ!」


「自分で言う時点でまだ子供だな」


「もう…………アクトはいつも私を子ども扱いする」


「子供だと思ってるからな」


 一緒にきれいな夜空を眺めた。


 そういえれば、昔、ティアと一緒に星を見に行ったことがあったっけ。懐かしいな。


 そんなことを持っていると、ティナがこちらを向いて、「ねぇ、アクト」と、真剣な口調で俺の名前を呼んだ。


「なんだ?」


「私、もっともっと頑張って、みんなをアクトを守れる戦士兵になる。だからこれからもよろしくね」


「これはあれか、遠回しの告白ってやつか?」


「なぁ!?ち、違うよ!ただ、私の決意を聞いてほしかっただけというか、その訓練でビシバシお願いしますって意味!」


「それじゃあ、明日からビシバシやるから覚悟するんだな」


 そんな二人の姿を眺めるシィーア、ベア、ルエ。


「やっぱり、そういう気があるんですね、ティナちゃんは!」


「いつものこと」


「うぅ…………なんかもやもやする!!」


 こうして、1日が終わった。


□■□


 荒れ果てた大地、そこはかつて勇者と魔王が戦いを繰り広げた誰も立ち入れない場所。


「人類は滅びなくてはいけない」


 彼女は悲しそうに告げた。


「世界を食らう獣、人類の和解を求めた神の恩恵、そのすべてを無下にした人類は滅びなくてはいけない。この光の勇者、星宮ティアが神の代弁者として成そう。人類の殲滅、その足掛かりを」


 その声に呼応するように獣たちが叫んだ。


 そう、タクトたちが今までになく叫んだのだ。


「神よ、どうか見守りください…………人類が滅びるその時まで」


 エゴウェポン【フィーレ】を強く地面に突き立てて、異様な音が鳴り響く。ふと吹く風が銀色の長い髪をなびかせ、月光の光が光の勇者、星宮ティアをさす。


 その真紅に染まる光すら通さない瞳で獣たちを見下ろし、一粒の涙を流した。


「アクト、マーリン…………ごめんなさい」

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魔王との戦いで呪いをかけられ石となった勇者は――――500年後、教官になりました! 柊オレオン @Megumen

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