第19話 アクト管理人、退院おめでとう!

 どうして、こんなところにリリアさんが?



「だ、誰ですか?」


「私はラプラス様もとで働いているメイドのリリアです。アクト様、ラプラス様がお話ししたいとのことですので、お時間をいただけませんでしょうか?」


「ま、ラプラス様が!?」



 ルエが今まで見せたことのない驚きの表情を浮かべた。


 それもそうだろう。なにせ、ラプラス王はこの国の王様だ。つまり、この国で一番偉く、敬愛され崇拝される存在。だから、ルエの反応が普通だ。



「げっ」



 だが、俺はラプラス王がマーリンであることを知っているがために、ひきつった表情が表に出る。


 マーリンが病室に?あいつ、自分の立場が分かってるのかよ。



「ちょっと、アクト管理人!?いったい何をしたんですか!!」


「何もしてない!っていたぁ!?」


「あ、ごめんなさい」



 肩をつかまれ揺らされる俺の体はズキズキとした痛みに襲われた。


 一応、怪我人なんだけど。



「と、とりあえず、ルエ。席を外してくれ」


「わ、わかりました」


「ありがとうございます」



 ルエが病室を出た数分後、ガラガラっと扉が開き「よっ!」と、マーリンが姿を見せた。



「元気じゃったか?」


「何が元気じゃったかだよ」


「いや、心配になっちゃっての。お見舞いに来たのじゃ、わし親友思いじゃろ?」



 っと親指を立てて、右目ウインク。


 その年寄りに似合わない動きに背筋が凍った。



「お、お前…………童貞をこじらせすぎだろ」


「おいおい、せっかく心配してきてやったのに、お礼の一つも言えんのか。それと、童貞は関係ないじゃろ!」


「中々鋭いツッコミだな」


「相変わらずじゃの。しかし、元気そうでよかった、よかったぁ!」


「それで何しに来たんだよ。わざわざラプラス王の名まで出して」


「ふん、もちろんお見舞いに来ただけ…………じゃないがの」



 やっぱりか。


 マーリンは横にある椅子に座り、魔法でまん丸の赤いリンゴを3っとナイフを取り出した。



「ふん、とりあえず、リンゴを買ってきたから、剝いてやろう」



 年寄とは思えないナイフさばきでリンゴの皮を切り、ウサギリンゴにして皿の上に盛り付けた。



「さてと、本題じゃアクト。エゴウェポンを使ったじゃろ?」


「んっ!?」


「やっぱりな」



 どうして、エゴウェポンを使ったことがばれたんだ?やっぱり、光の魔法を使ったからか?


 光魔法は勇者であることとエゴウェポンを持っているという二つの条件が組み合わさって初めて扱える魔法だ。


 マーリンはこう見えても魔法使い、魔力波長で魔法の判別はできる。



「使ったから、なんなんだ?」


「わしはなぁ、心配しておるじゃよ。アクトの体をな」


「からだ?」


「まえ会ったときは会えて言及しなかったのだが、そろそろ言おう。もうエゴウェポンは使うな。もしあと一回でも使えば、確実に死ぬぞ」



 真剣な表情を言い切ったマーリン。どうやら、マーリンも俺の体の異常に気付いていたらしい。


 まぁそれもそうだろう。相手は魔法使いで長い時間旅をした仲間でもある。



「……………………いや、知ってる」


「はぇ?」


「いや、だから、知ってるってそんなことぐらい」



 自分の体のことは自分がよく知っている。だから、別にわざわざ言わなくてもいいのだ。


 そう冷たく言うと、マーリンの顔が真っ赤になり、顔をそらした。



「…………ああ、恥ずかしいぞ!リリア!」


「知りません」



 顔を真っ赤にしながらうずくまる年寄りってちょっと笑える。


 だけど、こいつなり心配してくれていたってことだよな。



「自分の体のことは自分がよく知っているからな」


「そ、そうか、なら余計な心配じゃったな」


「ん?」


「…………わしはなぁ、できれば普通に楽しい、幸せな人生をアクトに送ってほしいのじゃ。でもお主は絶対に戦わない選択を取らぬ。そうじゃろ?」


「まぁ、否定はしない」



 もし、大切なものが失われようとしたら、俺は絶対にためらわずに使うだろう。


 それが柊アクトであり、勇者アクトなんだ。



「マーリンがそこまで気にする必要はないんだが、まぁ心配してくれてありがとな」


「アクト…………お主も昔と違ってお礼が言えるようになったのじゃな」


「おい、それはどういうことだよ」


「そのままの意味じゃ」



 マーリンはニヤと、しながらそういった。


 こいつ、絶対に俺のことを馬鹿にしている。


 だが、ひと月になることがある。マーリンがわざわざ俺の安否を心配してここまで来るだろうか?まだ、何かあるような気がした。



「…………………それで、本当は何しに来たんだ?ただ、俺の安否確認だけじゃないんだろう。わざわざ、メイドまで連れてきたんだし」



 すると、マーリンの表情を真剣になった。



「勘が鋭いの。実はな、アクトにこの情報を共有しておこと思ったのじゃ」


「情報ってなんだよ」



 その情報を聞いた俺は、頭を悩ますことになった。


□■□


 しばらくして、ラプラス王とメイドのリリアは病室を後にした。


 そのすれ違いに入ってくるルエはおどおどしながら。



「す、すごいメンツだったね…………うん?どうしました、アクト管理人?顔色が」


「あ、いや、大丈夫だ。ちょっと褒められただけだ」


「ラプラス王に褒められた!?」


「あ、ああ、今回の活躍を大きく評価してくれたみたいでな」


「さすが、アクト管理人に、わざわざ健康診断書を偽装させるよう頼んだかいがありました!これからもすねをかじらせてください」


「元気な奴だな。それに、俺が退院するまで忙しいのはルエだろ」


「あ、そうだったぁああああ!はやく、退院してくださいよ」


「あ、はははははははは」



 乾いた笑い声を漏らすアクトだった。


□■□


 1週間後、無事に退院した俺は、再びミルウェポンを支給され無事に我が家に帰ってきた。



「久しぶりな気がするな」



 家の前で足を止めているアクト。その理由は扉の前でシィーアとベアちゃんが喧嘩をしていたからだ。



「あ、アクト」


「アクトさん」


「何やってんだよ」


「どちらが先にゴールするか競ってた」


「それで?」


「そしたら、ベアが」


「違う!こいつ、ルールを無視して魔法を使うから!」


「魔法も実力の一部、使って問題ないはず」


「そもそも競う前にルールをお互い確認したのかよ」



 その言葉に二人は互いに顔を見合わせ、再びこちらを見た。


 どうやら、確認していないらしい。



「とにかく、家の中に入ろう」



 っと玄関の扉を開けると、パンっ!とクラッカー音が鳴り、玄関の前にティナとルエがニコニコしながら待っていた。



「退院おめでとうございます、アクト管理人!」


「退院おめでとう、アクト」


「ふん、なるほど、つまりお前らは時間稼ぎか」



 っと二人の顔色を覗くと視線を逸らせれた。



「ありがとう、みんな。でも、別にそういうのいいから」



 俺はそのまま自分の部屋に戻った。


 久しぶりの自分の部屋、視界には書類の山が積みあがっている机が映り、ため息が漏れる。



「これで、1週間分」



 これでもきっとルエが減らしてくれたんだろうな。


 ゆっくりと腰をおろし、椅子に座るアクトは天井を見上げながら病室でマーリンの言葉を思い出す。

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