第18話 新種のタクト

 目が覚めるとベットの上で横になっていた。



「うぅ…………」



 体をゆっくりと起こすと。



「うぎゃあ!?」



 全身に痛みが走り、そのままベットにバタっ!と倒れ込んだ。


 筋肉痛レベルで体が痛い。


 特に体がマヒしているところはない。ただ少し体を起こすだけで激痛が走り、涙が出そうになる。


 これが、エゴウェポンを使った代償なのだろう。



「あら、やっと起きたのね」



 真横から魔性を帯びた女性らしい声が聞こえてきた。


 ゆっくりと顔だけを向けると、そこには金髪のエルフが足を組みながら白衣の姿で隣に座っていた。



「え…………えっと、誰?」


「ふん、まぁ超優秀な医者いしってところかな、アクト教官」



□■□


 診察及び、看病をしてくれたのは戦士兵を何人も見てきたエリート医者いしのマリーさん。その人から俺が気絶した後のことを詳しく教えてもらった。


 街中にタクトが現れ、俺とティナで倒した後、すぐに援軍が駆け付け、そこで俺とティナが保護された。


 すぐに医療室に運ばれた俺たちはそれぞれ治療を受け、ティナは現在元気にしているらしい。だが問題は俺の容態のほうだとマリーさんは言った。



「正直に言うとね、どうして今、生きているのかわからないぐらい、アクト教官の体はボロボロというか、ほぼ死んでいるに等しいわ」


「はぁ、はい」


「…………驚かないのね」


「あ、それは」


「もしかして、知っていたの?」


「ギク…………」



 自分の体のことは自分がよく知っている。なんて言うが実をいうとその通り、だって健康診断の際にルエに頼んで偽装をしてもらったぐらいに俺の体はひどい状態だと知っていた。


 前の健康診断では体中の機能が機能しておらず、魔力回路なんて原形すらとどめていなかった。それでも、俺は生きていた。


 そして、さっきの戦いでその状態はさらに悪化した。でも、まだ俺は生きている。


 まさしく、奇跡が奇跡を重なって、俺は今、生きているのだ。



「はぁ…………とにかく、今の医療技術じゃまず、直せないわ。せいぜい、臓器の機能を直すのが限界、魔力回路は諦めることね、あと…………もう二度とミルウェポンは使わないように。こうして生きていることさえ奇跡なのに、もしまたミルウェポンを使えば今度こそ、



 マリーさんははっきりと言い切った。


 でも、正直、自分でもそう思っている。


 内側に存在する魔力回路は直結で心臓とつながっている。その魔力回路が機能していないということはミルウェポンを使ったとき、心臓に多大な負荷をかけることになる。それはエゴウェポンでも同じことだ。


 一回は耐えられたが、もしまた同じことをすれば、心臓が耐えられる潰れるだろう。



「わかっています」


「そう、ならいいわ」


「あの、一つ質問いいですか?」


「なに?」


「俺はこれからどうなるんですか?」


「それは今後の自分の容態なのか、それとも今の立場のことを言っているのかしら?」


「後者のほうです」


「…………上からは引き続き管理人として勤めてほしいと言われているわ」


「そうですか…………よかった」



 これだけひどい状態だと、仕事をやめさせられるかもしれないからな。


 でも、どうして辞めさせないんだろう?普通はやめさせると思うんだが。



「不思議そうな表情ね」


「え…………あ」


「私が偽の健康診断書を提出したからよ」


「え」


「ルエちゃんに頼まれてね。仕方なくね」



 ルエのやつ、そんな手回しを。



「正直、あなたたちの関係が不思議だけど、深追いするのはご法度だからね。これからも頑張りなさい」


「マリーさんって意外と優しいだな」


「ただの気まぐれよ。それじゃあ、今後についてだけど、1週間ほど入院だから、大人しく療養すること。何かあったら、そこにあるボタンを押せば、駆け付けるから」


「わかりました」



 そのままマリーさんは病室から去っていった。



「はぁ…………よかった」



 ティナはちゃんと生きているみたいだ。


 よかった、本当に良かった。


 心からの安堵、そのことが知れただけで命を懸けた価値がある。



「とはいえ、これからどうするか」



 前の俺なら多少の無理ならできたけど、もうその多少の無理すらできない状態まで容態が悪化してしまった。



「もう少し、訓練を厳しめにしないとな。それに…………」



 タクトに似たなにか、新種もしくは進化した個体なのか。とにかく、これから先、戦士兵の体制が変わるはずだ。



「うぅ…………」



 突然、頭が痛くなり視界がかすんだ。


 まだ疲れが取れていないのか?



「…………寝ようかな」



 俺は瞼を閉じて、再び眠りについた。



□■□



「アクト、口を開けて」


「あ!」


「はい、あ~~ん」


「パクリ…………うん、うまい」



 病院の病室に、ティナとルエがお見舞いに来てくれた。と言ってもティナは2日前に退院したばかりで、現在は療養中だ。



「よかったぁ」


「元気そうで良かったよ、アクト管理人」


「俺は強いからな、治るのも早いんだ!っていた!?」



 ティナが横から箸で横腹をつつくと、全身から痛みが走った。



「なに強がっているんですか、少しつついただけ悲鳴上げちゃって」


「うぅ…………ティナのあたりが強い」


「病人はしっかり食べて寝る!」


「ティナも2日前まで病室で…………」


「これも食べて!」


「はぐぅ!?」



 久しぶりの美味しいティナの弁当を堪能した後、後ろでニヤニヤしながら眺めていたルエが口を開く。



「いや、二人がいつも通りで何より…………さてと、ティナちゃん、ちょっと二人で話したいから、そろそろ」


「わかってます。それじゃあ、アクト、またね」


「ああ…………」



 ティナが病室を出たあと、ルエが俺の隣の椅子に座った。



「いや~~~まさか、アクト管理人が病室で寝込む羽目になるなんて、人生何が起こるからわからないね」


「うるせぇ、それより報告を聞こうか」


「はい!まずティナ戦士兵とアクト管理人が倒したタクトですが、新種であることが判明したほか、同時刻にほかの場所でも新種のタクトが街中に侵入していました」


「ほかの街でも?」


「はい」



 つまり、新種のタクトは同タイミングで姿を現したってことか。



「なるほど、だから、援軍が来るのが遅かったのか」


「うん、それに運悪くもその時、大勢の戦士兵の死亡報告もあって対処に遅れたって感じだね」


「なるほどな、他は?」


「…………聞いて驚かないでよ、これはまだ観測しただけで見たわけじゃないけど街中で、新種のタクトが一斉に現れた時、上空に人の形をした生命反応を確認したって報告があったんだ。しかも、種族はヒューマン族、容姿とかまでは観測するまで逃げられちゃったみたいだけどね」


「上空にか…………まぁ聞いた感じだと明らかに意図的だし、となるとそいつが今回の騒動を起こした原因?」


「そう考えられるかもね。でもまだ上はそう判断してない」



 新種のタクトを操り、街中に侵入させた犯人。いったい何が目的で、いや、そもそもどうやって操っているんだ?


 すると、病室の扉がバンっと突然、開く。



「な、なに?」


「お久しぶりです、アクト様」



 病室に訪れたのはマーリンの下で働くメイド、リリアだった。


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