第4話 子どもサバイバー



 さて、ハカセ、リリイ、そして俺の三人が浜辺のキャンプ地へと戻ってくると……そこにはもうアンリとゲンジの姿があるじゃないか。時刻はすでに夕暮れ近い。どうやら水筒を作って、熊と戯れている間に一日が終わりかけていたようだ。

 ここには時計すらないからなぁ。

 帰還した俺たちを目にするや否や、アンリが口を尖らせて叫ぶ。



「もぉ~遅いよ、オーシン! 遅すぎ星人」

「悪い悪い、こっちも色々あってさ」

「聞いてよ、ゲンジったらね、こんな状況なのにふざけた悪戯をするの」



 聞けば、砂浜の漂着物を探していると、沖合から突如として巨大なサメがむかってきたという。大きな口を開き、ノコギリのような牙を光らせながら。

 当然、そんな化け物がホイホイ現れるはずもなく、ゲンジが術で作り出したマボロシにすぎなかったそうだが。(熊は突然あらわれた? 知らんな)

 男の信頼が裏切られた形なので、これを問い詰めないわけにはいかない。



「ゲンジくぅ~ん? ちょっと何してくれてんの……?」

「いや、軽はずみな真似をしたという自覚はあるんだ。けれど『その機会』が訪れたというのに芸を披露しないのは、幻影奇術師イリュージョネストとして吾輩の血が許さない」

「あのねぇ」

「まぁ、聞け。悪戯というのはすなわち生き物なのだ。やる機会を逃せば、披露する好機を一度でも逸してしまえば、その生き物は一生出番を失ってしまう。それはつまり死んだも同然。吾輩はネタの『産みの親』として、そうならないよう最大限の努力をせねばならない。どうか判ってほしい」

「まず、俺たちが生き延びられるように最大限の努力をしてくれ」

「もちろん、任せられた仕事は完遂したぞ」


「私が! でしょう! もうゲンジったら、嫌い!」



 我慢しきれず、アンリが叫ぶ。

 なんだかホッとしたような気がするのはどうしてなのだろう?

 アンリにアカンベェをされてもゲンジは笑いながら流していたけれど。


 とりあえずアンリ達は必要な物資を見つけてくれたわけで。ケース入りの包丁や、鉄鍋、船の帆、海草、果物が入ったタルなどが役立ちそうだ。タルの果物もそこまで傷んではなさそうだな。……というか。

 これって俺たちが乗っていた定期船の積み荷か? もしかして。

 更にアンリは水を固める精霊まほーで磯の潮溜まりを固め、金魚鉢のように小魚を生け捕りにしてきれくれたのだから言うことなしだ。


 これで今晩の夕飯はどうにかなりそう。

 焚火は消えてしまったので再度つけなおしてっと。

 二度目だし、ホクチとなる枯草の在り処は把握しているので前よりは楽だったけれど。やはり手の皮が剥けそうになるのは辛い。せめて火打ち石が欲しいよ。

 さぁ、アンリ。料理の腕をみせてくれないか。

 熊の肉を一部きりとって運んできたから。

 不便な環境で悪いけど何とかならない?



「そうねぇ……調味料が何にもないのは厳しいけれど。何とかしてみましょう」

「あっ、アンリさん。これ酢葉スイバです。葉や茎を煮詰めると酢っぱい汁が作れるんですよ。お酢がわりに使って下さい」

「気が利くわね~、流石ハカセ! リリイも熊を倒すなんて凄いじゃない。大人顔負けの武勇伝よ」

「おだてたって、私からは電流しか出ないの。それにオーシンと二人がかりよ、タイマンの模擬戦なら返り討ちって所ね」

「おぉー! オーシンも頑張ったんだ! えらい、えらいね~。よっ、名リーダー」



 たはは、アンリには誰も敵わないな、まったく。

 ムードメーカーという言葉はきっと彼女の為にあるのだろう。

 とはいえ、確かに初日はそう悪くなかったように思える。

 ハカセが作った竹筒製の「ろ過装置」で沼の水を綺麗にして、それを沸騰させる。そこに包丁でさばいた小魚や熊の肉(ダシがとれるか?)酸葉や海草、すり潰したリンゴ、森のコケモモなどをくわえていき……。


 じっくり煮込んで即席ジビエ鍋の完成だ!


 海岸で拾った大きな貝殻や、葉っぱを舟形に織り込んだものが食器がわり。リリイは相も変わらず不衛生だと嫌な顔をしたけれど。食べないと生きていけないからね?

 特に精霊まほーを使った後は体力消費が激しいんだから。


 あっ、そうか。精霊まほーの説明がまだだったね?

 まほーには色んな種類があってさ。神様から力を借りる神霊まほー、魔界デーモンから力を借りる黒魔術。そして、主に大自然から力を借りるのが精霊まほーだ。先生が言うには、大自然の森羅バンショーにはすべて精霊や妖精が宿っていて、人間の心がけ次第では彼らの力を借りることが出来るそうなんだ。そんでもって、それぞれの術師には適正というものがあって。

 火属性の術師は炎の精霊、水属性の術師は泉の精霊といったように相性の良い精霊と契約を結びやすいんだ。

 真の術師なら、精霊を実体化させて自然現象を操ったりできるんだって!

 有能な精霊まほー使いは社会で引っ張りだこ。だから俺たちは、将来そうなれるように学園で日々勉強しているってワケ。


 スゲーよなぁ。

 俺たちはまだ見習いの学生だから、嵐を起こして海賊船を沈めたりは出来ないけどさ。それでもソコソコ便利でサバイバル生活に役立つのは変わらないってコト!


 さて、それじゃ説明も済んだし、俺もジビエ鍋を頂こうかな?



「ほらほら、オーシンも食べて食べて! せっかくアタシが作ったんだから」

「ほーい、ありがたく頂きます。……おっ、こりゃウマい!」

「良かった。本当?」

「ああ、クマ肉の濃厚な脂肪と甘酸っぱいスープの組み合わせが良いな。熊だけではクドい味になるかと思ったら、白身魚やコケモモが良い箸休めになってる。体中温まるし、疲れも吹き飛ぶよ」

「ジビエ料理ってちょっと偏見あったんですけど。熊肉を嚙み締めた時の肉汁がたまりませんね。家畜の肉より固めで引き締まっている感じがします」

「ああ、実に見事だ。きっとよい奥方になるだろう。吾輩が保証する」


「……うぅ」

「どうしたの、リリイ? 皆の毒見が済んだんだから安心して食べなさい。アンタの胃腸だけガラス細工ってわけじゃないでしょう? それともアンタの皿にだけ毒でも入れたとか心配してる? 安心しなさい、アタシは口喧嘩なんかまったく根に持たないタイプだから」

「そ、そんなこと……別に思ってない。食べる、食べるわよ。私が狩った熊なんだから、当然じゃない!」

「どう? マズイ? お腹壊しそう? 熱いからフーフーして欲しい?」

「……いや、とっても美味ね。荒々しくて洗練されているわけじゃないけど、これはこれで野生の息吹と生命力を口にしているよう。癒されるわ、とっても」

「それは良かった! そうそう。アンタにはオーシンを救ってくれたお礼として、熊のレバーらしき部位を入れておいたから。肝臓には魔力回復の効果があるらしいから、もっとたーんとおあがりなさいな」

「ぶぶっ! あの、本当に、根には持っていないんだよね?」

「モチロン! 友達じゃないの! アタシたち」

「あわわ……」



 良かった! リリイとアンリも仲直りできたみたいだな!

 それじゃあ、今度は木と木の間にロープと帆の残骸を張り巡らせることでテントを作らないとなぁ。男性用のものと、女性用。それからトイレも。計三つ。

 固定金具もないし、そこまでコチラに都合良く生えている枝もないだろうから。

倒木を削って支柱も何本かは作らないとね。


 ウチの母さんは彫刻家をやっているし、俺もこれまで見様見真似で色々と作ってきたからな。たとえアダ名が「マシラ」であろうとも、取り柄は木登りだけじゃないのさ。手先は器用なほうだと自負しているんだ。


 アンリが料理している間に男衆がテントの支柱は完成させていたので、腹ごしらえが済んだら後は組むだけだ。ちょっとやそっと風が吹いたぐらいじゃ壊れないような頑丈な家を作らないと。秘密基地みたいでちょっとワクワクするよな。

 家というのは家族と生活を守る大切なウツワ。断じて軽んじるものではない。

 いや、いつも通り父さんの受け売りなんだけど。

 アンリや仲間たちを守る砦を作っているのだと思えば、ロープを結ぶ手にも力が入ろうというものさ。


 暗くなってからも女性陣が持つタイマツの明かりを頼りに(リリイは電撃の火花を散らして「早くしないとお尻を焦がすぞ」と急かしてくる)俺たちの作業は続く。

 どうにかそれらしい住居が完成した時は、もうお月様が空高く昇っていたよ。

 くたびれた事はくたびれたけれど……学校に通ってタダ帰宅する生活をしている頃には得られなかった独特な満足感が俺たちの心に満ちていた。自分の力で生きているという充実感って奴かな。

 願わくは、それが単なる俺の独り善がりではありませんように。


 さて、テントも完成したし、葉っぱを敷き詰めた簡易的なものではあるがベッドも出来た。それで、今夜はもう寝ようという話になって。

 クマも出るような島で、見張りもなしに就寝するのはマズいと誰かが言い出したのさ。それで今は、その見張りの一番手として俺が焚火を絶やさないようにしているというワケだ。


 ファァ~、眠い。

 ずっと気が張り詰めっぱなしだったから、一人になった途端に疲れがドッと出た感じだ。これ明日はちゃんと起きられるかな? 筋肉痛で動けないんじゃないかな? 

 そんな事を不安に思っていると、予想外の人物が焚火の向こうから顔をのぞかせたではないか。



「ゴメン、ちょっといいかな?」



 アンリだ。まほー学園の生徒たちは自分の属性が一目でわかるよう色分けされたロングコートを着ているのだけど、彼女だけは白シャツと青のオーバーオールなんだよね。下がハーフパンツになっている奴。そんで、胸には魚のワッペンをつけているのが愛らしい。どうも脱いだロングコートは船ごと沈んだらしい。

 ゆったりと丸みを帯びたシルエットは見ただけですぐ彼女と判別可能。

 頭には暗闇で光るサンゴのヘアバンドをしているので、赤毛のお下げもくっきり。何より長年連れ添ったその愛らしい声。うん、間違えようがないな。



「どうしたアンリ? 眠れないのか」

「うん、まーね。オーシンだけに見張りをさせるのも悪いし」

「不安なのは判るけど、寝ておかないと疲れがとれないぞ?」

「ちょっとだけ。となり座るね、よっと!」



 流木に並んで腰かけると、アンリは体を預けてくる。

 おいおい、俺の肩にアンリの頭がのってるぞ~!?

 甘い吐息が首にかかって、うなじがゾワゾワする。

 どういうシチュエーションだよ。


 うるんだ瞳でこちらを見つめながら、アンリはつぶやく。



「色々と無理させちゃってゴメンね、オーシン」

「どうしたよ? 突然」

「この状況でリーダーを押し付けるなんて。本当は自分でもかなり無理を言ってると判ってた。船が沈んで遭難したのだから、そりゃー誰でも取り乱すよ。大人でも落ち着いてなんかいられない」

「だからこそ、ヘッチャラなフリをしないとな。恐怖と不安はすぐ伝染するし」

「ゴメン。でも、すっごく助かった。アタシ怖かった。本当に怖かったの。このままココでみんな死んでしまうのかなって。何でも良いから『いつもの日常』が、すがれる平穏が恋しかった」

「へへへ、こんな俺でも ご希望に添えられたかな?」

「バッチリよ。頼りがいのあるリーダーさん」

「まったく、アンリは大袈裟だなぁ。こんなの、ちょっとした長期休暇さ。大丈夫、きっと明日にでも助けは来てくれるさ」

「オーシンは初めて会った時から変わらないね。いつもアタシの不安を打ち砕いて自信を与えてくれる」

「お互い様さ。俺一人だったら、ここまで頑張れなかった」

「アナタを見ていると力が湧いてくる。これからもずっと一緒に居てね」

「ああ、ずっと友達だ」



 友達? ただの?

 抱き締めてキスの一つでもすべきなのでは?

 ほら、誓いのセップンとか。

 これって多分そういう流れなのでは? 


 そんな疑問が不意に頭をかすめたけれど、結局オレはいつもの金縛りだ。

 俺みたいなガキがそんな真似、十年早いと笑われるだけでは?

 それに今はそんな事をしている場合じゃない。

 頼りがいのある優れたリーダーなら、特定の誰か一人をエコヒイキなんてしないものだ。リリイにもそう言ったではないか?



「それよりさぁ! ハカセに聞いた? 俺たち宝の地図を見つけたんだぜ」

「そ、それより? ちょ、ちょ、ちょっと」



 あっ、これはまたヤラカシましたね。

 アンリはちょっと不機嫌そうに口角をひくつかせている。

 それでもすぐに頭を切り替え、ヨタ話に付き合ってくれるのは流石だよ。

 いつも甘えてスイマセン。



「宝の地図って、この島の~? へぇ~、凄いじゃないの、オーシン」

「だろ? だろ? 見てくれよコレ。暗号入りだぜ」


 

 栄光を求める者へ。鷲の庭にある川の下を調べよ。

 そこに世界の真理は封印されている。

 イニシエから知られた「我が師の掟」に従うべし。



 ふーむ、どこの事だろうな? この地図を見つけた後で、付近をよく調べてみたら水場のそばに動物の彫像が幾つかあったんだよね、そこかな?

 ライオンとか、ウマとか、蛇とか、ウサギの象が苔むした台座にのっていたな。海賊の残した物だと皆でテンション上がったねぇ。でも、ワシの石像はなかった気がするけど……うーん、ワシの庭ねぇ? 我が師って誰よ?

 俺ときたら夢中になりすぎて、アンリの表情が微妙に変わった事まで気が回らない。空気を読まずに俺は口を滑らせてしまう。



「これぞ浪漫だねぇ、明日にでも探しに行きたいよな? なぁ?」

「……それはどうかなぁ」

「どうして?」

「だって、島を脱出する手段もないのに、財宝を見つけたって仕方ないもの。今は生きる為に全力を尽くさないと。ね? リーダーさん」



 ぐぎがぁあああ ―――! これだから女子は!!


 でも、言われてみれば、ごもっとも。

 何だか目先の宝につられて、千載一遇のチャンスを……貴重な大魚を釣り逃したような気すらする。


 俺たちの行く末を見守るのは、ただビー玉をぶちまけたかのような満点の星空ばかり。いや、もしかしたらリリイあたりが寝たふりをしながら見ているのかもしれないけれど。これはもう潮時だな。



「……さあ、もう寝ないと」

「そうだね。アタシ、明日から海水を蒸発させて塩を作ってみる。塩は味付けの基本だし、食べ物の長期保存にも役立つから」

「ちょ、長期ほぞん?」

「念の為だよ。たぶんすぐに助けが来て、要らないとは思うけど」

「あ、ああ……」



 そんな事態、まったく想像もしてなかったんだけど。

 それって本当に起こり得ることなのか? 


 ミステラ諸島には沢山の小島があって、救助隊も探すのは大変だろうけど。

 まさか、そんな……もしそうなったら?

 俺たちはいったい……何日耐えられる?

 ませた子ども達だけで、大人の助けもなく。


 そして、アンリの悪い予感は厄介なことに的中してしまう。

 悪い予感ほどよく当たるって、本当なのかな?





 二日、三日と過ぎても救助船はいっこうにやって来ない。

 いっ、いったいどうなっているんだ? 俺たちは見捨てられたのか?


 大量の熊肉と水を固めて魚を簡単に捕まえられるアンリのまほーがあれば、そうそう食料には困らないが……。森の中には狩猟用の罠も仕掛けて、ウサギや小鳥なんかも捕まえられるようになったし。そうやって肉の心配がなくなると、今度は逆に野菜が恋しくなってくる。大根やカブを噛み締めた時の食感や、レタスの香り、挙句の果てにはピーマンの苦みすら頭を離れなくなるんだから大概だぜ? ううっ、生まれてこの方、ピーマンを美味いと思った事なんてなかったのに(個人の感想です)


 それに日がたつにつれて、今度は洗濯や風呂が問題になってくる。

 特に女性陣にとっては深刻な悩みの種だ。

 二日目の探索で島内に小川を見つけた為、そこで洗濯や水浴びをすれば良いのだが……。


 なぁ、服が乾くまでの着替えはどうする?



「だからリリイも脱ぎなさいよ。アタシが水を固めて水着を作ってあげるから。洗濯した服が乾くまで、それを着ていたらよいじゃない?」

「嫌ッ! それってアンリが気を抜いたら魔法が解けて裸になる奴じゃない!」

「気なんて抜かないって。その証拠にアタシがこうして着ているじゃない?」

「居眠りやクシャミをしない保証があるの? それにね、アンリ。かなーり言い辛いんだけど……その水着、近くで目を凝らすと透けて見えるからね」

「嘘? マジ? 水に色をつけて見え辛くしたのに? どうしよう、服は……もう洗濯しちゃった」

「腹をくくることね。何ならオーシンが作ってくれた『こしみの』でも着るとか」

「絶対! 絶対! 嫌だから! それだけは!」



 アンリ!? 聞こえてますよ? 

 君たち「洗濯&水浴びをしたいから、動物や野郎どもが近づかないよう見張ってくれ」と俺に頼んだの忘れてないよな? 

 ちょっと傷つくぜ、苦労して作ったのになぁ。

 ハカセとゲンジはちゃんと「こしみの」を気に入ってくれたのに。アイツら洗濯した服が乾いた後も、こしみのを着たまま焚火を囲んで踊っていたんだぜ?

 んー? どこがいけなかったのだろう?

 やっぱり女の子が着るにはオシャレさが足りなかったのかな?

 次はもっと鳥の羽とか材料に使ってみよう。


 鷲の庭に流れる川……諦めきれない俺は、こっそり川の近くを調べてみる。

 モチロン、そんな「行き当たりばったり」が成果をあげるはずもなく。

 ただ、顔に緑のドロドロを付けた鹿が遠くから俺たちを見張っていたな。

 嫌だな。あの病気、島で流行っているのか? 俺が気付くと、すぐに木立の向こうへ消えてしまったのがせめてもの幸いだ。



 その後、結局リリイは洗濯をしたあと水着もこしみのも着なかった。

 ではどうしたのかと言えば、ロングコートの前を閉めてゴマカした様子。

 アンリが乾いた服を届けるまで、テントに閉じこもって出てこなかったんだよな。


 マズイね。こんな生活が続いたらデリケートな彼女はもたないぞ。

 しかし、救いを待つ以外に俺たちが出来ることなんて……。


 ただ、自分の無力さを噛み締める期間が延々続くかと思われたその矢先、思いがけない「渡りに船」は、三日目の晩、波間の向こうより到来するのだった。

 もっとも、その船は俺たちを探しに来たというワケではなかったのだけれど。

 別の目的があって、島を訪れたのさ。

 身勝手でワガママな、とってもゴーマンな理由から。


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