報告会

「遅くなってしまい、申し訳ございません。」

「そんなに通信状況が安定しないのかね?」

 スクリーンに映し出されている老人や年配、若手研究員からのあざけりを受け流し、何事も無いように進行させる。

「それでは時間を押してしまいましたので、迅速に研究報告会を行わせていただきます。」

 参加者は全員で9名といったところか………。

 その中には目を付けている研究員がいる、がそれは後に回そう。

「私の研究目的ですが、人類の脅威である【ホワイトカラー】の生態系を研究することで、人類の地上進出を推し進めることです。そのために今日まで試行してきました。今回はその件で―——。」

 そこで、遮るように一部の人から制止がかかった。

「目的や方法などはいい。結果のみ提示せよ。先ほど私たちの貴重な時間を取ったのだ。それは何にも勝る損失。故に結果のみにとどめ時間を返してもらうおうか。」

 そこで、小さな笑いが起きる。

 短気で、うるさい人たちだ。

「では結果のみ、はなさせていただきます。【ホワイトカラー】の生態についてですが、彼ら同士は。そのため、既存の生態系とは異なります。」

「………それは間違えていないか? それなら今、存在する個体はどこから生まれている? 何もない空気中から突然現れたとでもいうのかね?」

 失笑が飛び交うが、予想の内だ。

「正確には、全員なんですよ。なので、オスが。」

「だから、ありえないと―——。」


「彼らは、なんですよ。」


 その言葉に一同がざわめき立つ。

「彼らは自分よりも良質な魔力と人間の体に刻印されている回路を摂取することでより強い個体を生み出し子孫繁栄をしています。」

「馬鹿な! だとすれば、地上はすでに【ホワイトカラー】だらけになっているはずだ!」

「ええ、不思議に思いました。ですが、彼らは自分で妊娠期を操作しています。また個体数は、集団管理しているようです。個体数が減ると、新たな個体が増えるように………。個体数が一定になると、妊娠準備期間に入り出産を抑制しています。」

「それこそ馬鹿な話だ! 生態系を維持するうえで個体の増殖は不可欠なはずだ! それを自分達で管理しているのはおかしな話だ!」

「私もおかしく思いました。ですが、人間を捕食して増えていることを鑑みるに、を学習しているのかもしれません。」

「何!?」

「過去、人類は生態系から外れた存在として、叡智を求め無秩序な増殖を繰り返しました。その結果、幾度も自分たちで殺し合い、また自滅していきました。【生命の実】による世界混乱や【楽園(エデン)計画】がいい例です。彼らはそれを学び、集団統率を作りあげ、をしていると考えられます。」

 つまり、人間の模倣を行いながら自分たちの生態系を管理しているのだ。

「そんなことがあるものか! 大体、なぜそんなことがわかるのだ!? 方法がわからなければそれが真実なのかわからないではないか!?」

「先ほど結果のみ語れと言ったのはあなた方ではありませんか?」

「やかましい! これだけバカげたことならだれでも言えるわ!」

 何とも理不尽な言い分だ。

 別にいいけど。

「では、ご覧のスクリーンで今から観測ムービーを流しながらお話します。」

「一体………。」

 スクリーンがムービーに切り替わってから続きを話始める。

 ムービーの内容は———


 ———【ホワイトカラー】にだ。


「これはギュスターブを使用した観測記録です。これは私の研究施設で撮影されたものです。こちらの施設では、ギュスターブが暴れても壊れないように防護陣を何重にも設置しているので外に出ることはまずないでしょう。」

「待ちたまえ! 戦場で取られたものではないのかね!?」

 何を馬鹿のことを言っているのだろうか、この老人は………。

 戦場だと、管理できないじゃないか。

 無視無視。

「この空間には4体のギュスターブがいます。そこに、を投入します。」

 スクリーンに人間が投下される。

『ヤダヤダ!』『死にたくない!』『助けてくれるんじゃなかったのか!?』

 その中でもわめくように悲鳴を上げている人間に狙いを定めたのか追いかけ回す。

 人間は逃げ回るものの、無残にも食い散らかされた。

 あとの人たちも同じことだ。

 私はな死は好まない。

 な死になってくれて感謝してるよ。

 わざわざにサインしてくれるんだから………。

「待っ―——。」

「そこで一体のギュスターブを殺します。」

 ギュスターブ一体が苦しみだし、跳ね回りそして倒れ死に至った。

 それと同時に、先ほどの人間を食べた個体が苦しみだし、地面にのたうちまわる。

 そして、お腹が裂け小さなギュスターブが生まれた。

「御覧の通り、集団統率が見て取れます。これを何回も繰り返しましたが結果は同じものでした。」

「これを何回も………。」

「さらに面白いことを発見しました。彼らに人間の臓器を移植してみました。【ホワイトカラー】の中身は空なのに食べた人間はどのように消化し、なぜ個体が生まれているのかわからなかったからです。」

 だれも、返答がないのでそのまま続ける。

「こちらも面白い結果でした。普通の臓器を入れても何も起きませんでしたが、純度の高い魔力にさらされ続けた臓器、反物質化しかけた臓器を移植した結果、移植臓器が脈動し始めました。つまり、彼らの血液は魔力であると過程できます。そして臓器移植した【ホワイトカラー】は色素が付き人間のような肌色、体毛も白から黒、茶色、金髪など様々なものに変態しました。これについては更なる研究のため今後の課題として―——。」

 それまで、沈黙していた老人が私の言葉を遮り怒号を上げた。

「君は異端だ!」

 それに追従するように他の研究員たちも口々に声を上げていった。

「そうだ!」

「人間を弄ぶな!」

 ———意外な結果だ。

 そんな意見が出てくるとは。

「ネイト=ダンタリアン。君を今後この研究発表会から追放する! 反論はあるまいな!?」

 何を言っているのだろうか。

「ありますよ?」

 何を当然のように語っているのか。

「コロニー3を襲った人形爆弾、そしてコロニー78で使用された爆弾どちらも以前この研究学会で発表されたものが流用された物でした。つまりこの中に内通者がいるのは確定なんですよ。この中にテロリストの教授(プロフェッサー)がいるのは………。」

「だから何だというのかね!? 君のやっていることは覆らんぞ!?」

「覆る? おかしなことを言いますね?」

 自分のことを棚に上げることが得意のようだ。

「私は博愛主義ですが、あなた方は殺戮主義のようだ。」

「我らを冒涜するか!?」


「あなた方は、が、私はにすぎません。」


「何を―——。」

「私は、博愛主義なので人類がこれからまた地上で過ごせるように脅威の排除および分析をしているにすぎません。そのために彼らにしてもらっているだけですよ? それに比べて、あなた方は地球の歴史に汚名を残さないように速やかな人類の終焉を迎えようとしているに過ぎない。例えていうなら、汚泥を汚水で洗おうとしているだけなんですよ?」

 そうしていると、私の方に無線ノイズが走った。

「おっと、時間のようですね。」

「?」

「これより、コロニー襲撃犯及び、加担した異端を始末しなければいけないので。」

 この言葉に場が騒然となる。

 だって、ね。


 対象は画面向こうにいるだから。


「それとコロニー8の方々、覚悟しておいた方がいいですよ? そちらには【死神】が行きます。そしてコロニー6の方々。さらに厄介な【災害】がそちらに行っています。せめてあなた方の言うで懺悔を済ませておいてくださいね。私も向かわなければいけないところがありますので。」

「な、なにをでたらめなことを言っている! 貴様のコロニー78とここまでどれほどの距離があると………。」

「私がいつ、コロニー78にいると言いましたか?」

「!?」

 今、気が付いたのだろうか?

 通信の調子がおかしかったのも、時間を稼ぐようにひきつけたのも———。

「わたしは、今、から中継しているにすぎません。」

 ヘリポートにのって移動しながら会議をしていた。

 おかげで、通信の安定性から疑問を持たれないか不安だったが杞憂に終わった。

 頭の回らない人たちでよかった。

 そして画面越しにだが、全ての通信者たちからすさまじいアラート音が聞こえ始めた。

「さあ、討論会を始めましょう。どちらの主義・主張が通るのか。」

 口元が吊り上がる。

「お互いの命でもって正しさを証明しましょう。」


                              信仰と犠牲編 完

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スミレの花 明上 廻 @Akegami1999

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