令嬢は恋のお勉強を続ける

 カース様から話題を振ってくださったものだから。

 この後のわたくしは語り過ぎて反省することになりましたわ。


「悲恋は小説で経験すべし、か。パーシャル教授はいい先生だね」



 話題は学園で古文学を教えてくださるパーシャル先生にも及んだわ。

 そうなのよ、とても素晴らしい先生なの。

 わたくしが相談すると、いつも快くご助言をくださるのよ。お忙しい方でしょうに。



「本当に君は……少しも目が離せないね。学園でこうだから、結婚したら領地に籠るか?」



 パーシャル先生と、先生にすすめていただいた小説の素晴らしさを語っておりましたらね。

 カース様が小さなお声で何か仰ったの。


 いけませんわ、わたくし反省したばかりでしたのに。

 カース様に甘えて一方的に話し過ぎてしまいましたの。


 けれどもカース様はわたくしを見て微笑みましたわ。



「リリーはもっと勉強したいのだよね?」



 えぇ、そうなの。

 まだわたくしは恋について知らないことばかりだと分かったところよ。

 これから学んでいけば、理解を深められるはずだわ。

 それに理解すれば実体験も出来るのではなくて?



「リリーのことだからそうだと思って。今日はいい教材になりそうな小説をいくつか持ってきてみたんだ。良かったら読んでみない?」



 まぁ、さすがカース様ですわ!

 今回もわたくしが学んでいることの、ずっと先のお勉強を済ませていらっしゃるのね!



「リリーは恋を経験したいのだよね?それも私が協力するよ」



 有難いことですわ!

 あら?ということは……。



「カース様は恋をご経験済みでしたのね!どなたに恋をしているのかしら?それは盲目的なものですの?」



 しん……と周囲が静まったように感じたの。

 空気が落ちてきたという感覚よ。


 わたくしたちがここでお茶をしている間に音を立てる方なんているわけがないでしょう?

 だからとても不思議な感覚だったの。


 でも気のせいみたい。


 だってカース様が変わらず紅茶をお飲みでしたもの。

 わたくし、興奮し過ぎて身体の感覚がおかしくなってしまったかしら。



「もちろん君には仔細語ろうと思っているよ。だけど、その前に。悲恋以外の選択肢があることを学ぶとしよう?その方がより話は弾むからね」



 ふふ。カース様は思った通りの、いいえそれ以上の素敵な方ね。


 将来公爵となるためのお勉強もされていて、すでに一部のお仕事を引き継いでいらっしゃるお忙しい方ですのに。

 学園もあって、一体いつお勉強されているのかしら?


 わたくしももっと頑張らなくてはいけないわね。



「リリーもそろそろ覚悟してね?」



 まぁ、何かしら?

 ひゅっと流れた風でカース様のお声がよく聞こえませんでしたわ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完結】婚約者は浮気中?噂を聞いた令嬢は自分も「恋は盲目」を経験したいと言ってみた 春風由実 @harukazeyumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ