令嬢はお友だちともご一緒したい


「そろそろ全体像は把握したのではないかな?この辺で一区切り入れていいと私は思うよ」



 確かにこれからお付き合いしてもいいなというお家の方々は把握したわ。

 でも実際にお付き合いするかどうかは別よ。


 貴族には派閥という厄介なものがありますからね。


 機会があればお付き合い出来そうね、という方々を知ったところなの。



「今後付き合っていくにしても、それは公爵家としての話になるだろう?それなら今から二人で応対しても問題はないはずだよ。私たちにとっては、いい練習の機会にもなる」



 そうね。

 将来を考えたら、その方が実践的だわ。


 でもそれなら。



「お友だちとの時間も取りたいですわ」



 せっかく共に学園に通っているのですもの。

 卒業するまでには学園内の食堂やテラスでもご一緒してみたいと思っていたの。



「そう来るよね。うん、それでこそリリーだ」



 うんうんと頷いたカース様は「お昼くらいは譲るけれど」と不思議なことを言ってから、明るく笑いました。



「明日から同じクラスに変えて貰ったんだ。リリーとは講義の時間も一緒だからね」



 まぁ、クラスを変えてしまわれたの?



「うふふ。カース様はまた驚くことをなさいますわね」



「近い将来夫妻になるのに離れて講義を聞く理由はないと思ってね。ほら、王太子殿下と婚約者殿もご一緒しているだろう?」



「それは警備上の理由からだとお聞きしましたわ」



「わざわざこちらを引き離してそれはないよね。しかもお二人は年齢差もあるから、本来ならば学年も違うはずだよ?本当に意味が分からない」



「アイリーン様が大変優秀だからだとお聞きしましてよ」



 王太子殿下の婚約者であるアイリーン様は、殿下より二歳年下ですが、すでに王太子妃教育を終えられて、現在は王族の方が行う執務まで任されているのだそう。


 大変優秀で所作も含めてすべてが美しい方だから、わたくしたち令嬢にとって憧れの御方よ。



「うん、でもね。そもそもがおかしい話なんだ。お二人が学園で学ぶ必要はどこにもないんだよ」



「うふふ。一学園生として過ごしてみたかったそうですわよ」



「そういう気持ちは分かる気もするが。第二王子殿下まで同学年で学んでいることは解せない」



 わたくしもね、王太子殿下、第二王子殿下が揃って学園に通っていらっしゃるとお聞きしたときには、大丈夫なのかしら?と考えたものだわ。

 王族の皆様はとてもお忙しいと聞くもの。


 でもそれだけ学園の時間が魅力的なものなのね、とわたくしは同時に期待をしたわ。

 そういう計略が殿下方にはあったのかもしれないわね。



「学園に通おうと、それは好きにしてくれて構わないんだよ。ただね、一学園生である私に何かと指示を出すことだけはやめていただきたい」



「うふふ。カース様がそれだけ信頼されているということですわね」



「そうだといいのだけれど。長年溜め込んだ恨み辛みから来る嫌がらせだからね……」



「まぁ、ご冗談を」



 わたくしは声を出してくすくすと笑い続けてしまいました。

 カース様とご一緒していると、令嬢らしさを忘れますわね。



 あら。お待ちになって。

 カース様と講義までご一緒するということは、今のように笑うことがないよう、わたくし自身を厳しく律しなければならないのではないかしら?

 

 不安になりますわね。



「心配ないよ。リリーは私がフォローする。逆に私の気が抜けているときは教えてくれるね?」 



 もちろんですわ。

 確かにこれは夫婦となる前のいい練習の機会になりそう。



「早く夫婦になりたいね、リリー。試験を受けて合格すれば卒業としてくれる制度でも立案する?」



 まぁ、それは勿体ないですわ。

 貴重な学園でのお時間でしてよ。


 家の名を背負ってはおりますけれど。

 それでもまだ当主や当主夫人となる前の自由の利く身。


 卒業したら成人してしまいますもの。

 お互いに未成年として学園を楽しみましょう。


 わたくしは、カース様がゆっくりと頷いたので安心しましたわ。

 そうしたらカース様が仰ったの。


「ところで、リリー。最近は恋の物語を気に入っているんだって?」








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