俺達のライブ後は静けさが過ぎる。

 俺達の初ライブが終わった。


 俺達は天野あまの菜生なお先生の車に載せている楽器と機材を全て部室に片付けるために、上毛中央高校へとバスで向かった。


 バスの中で、荒川あらかわ紗里奈さりな黒瀬くろせ美月みづき先輩とは何も話をしなかった。話したい気分になれなかった。


 今日の初ライブ。その出来は、とてもじゃないが良いものとは言えない。練習ではできていたはずの箇所がまるでできなかった。いくら立て直そうとしても駄目だった。


 ライブ直後にも、Novelendのキーボードボーカルの小見野おみのエレナさんからダメ出しを言われた。


「『叩き潰す』なんて言ってたから、どんなものかと思って聞いてたけど、期待外れもいいところね。ハイトーンはまるで出てない。ギターはミスばっかり。ドラムはリズムすらまともに刻めない。ベースも基礎はできているみたいだけど、所詮はその程度。こんな演奏で良く私たちに喧嘩を売ったわね」


 一方的に言われ続けた。何も反論できなかった。エレナさんの指摘が全て的を得ていたからだ。


 ただ純粋に、悔しい気持ちで胸が一杯だった。


 やりきれない気持ちのまま、上毛中央高校に到着し片付けをする。一通り、片付けを終えた所で部室に3人で集まった。


「今日は2人とも良く頑張ったな。今日は家でゆっくり休んで、来週の放課後からまた練習だ」


 美月先輩が連絡事項を淡々と告げる。すると、紗里奈が弱々しく声を出した。


「……ごめんなさい。私が雰囲気に流されて、リズム崩しちゃって、2人に迷惑かけて」


 紗里奈は目に涙を浮かべていた。ぎゅっとスカートの裾を掴んで声を震わせている。


「いや、紗里奈のせいじゃないって。俺もミスばっかりしてたし、歌詞も飛んだし」


「でも、私がリズム崩さなかったらミスもしなかった」


「だから、あれは俺のミスだから気にしなくても」


「でも……」


「2人とも何を言ってるんだ?」


「え?」


 真剣なトーンで美月先輩が不思議がっている。まさか、今の状況が理解できないとでも言うのだろうか。


「さっきも言っただろう。2人とも良く頑張ったと」


「美月先輩……。お世辞はいいんです。せっかく美月先輩が格好良く宣戦布告したのに。それなのに私が、美月先輩の顔に泥を塗るようなことをして」


「泥を塗る? 紗里奈は何か勘違いしてないか?」


 どうにも、紗里奈と美月先輩との話が噛み合わない。


「え? 勘違い?」


「あぁ。今日の宣戦布告はあくまでだぞ」


「挨拶?」


 そう言われて思い出した。美月先輩がエレナさんに近づいて行った時、確かに「挨拶」と言っていた。


 美月先輩は腕を組んで堂々と仁王立ちした。


「安心しろ。何も今日のライブで叩き潰そうと思っていた訳じゃない。それに、今日のライブで相手の実力を知ることができた。さぁ、これからの練習はさらにハードになるぞ」


 そう言って、余裕の笑みを浮かべている。そのやる気に満ち溢れた表情を見て、俺と紗里奈は思わず笑った。


「美月先輩っ!」


 紗里奈が涙を拭って、美月先輩に抱きついた。


「私、これからもっと頑張ります!」


「あぁ。一緒に頑張ろうじゃないか。『打倒 Novelend』だ。純太もな」


 美月先輩は紗里奈の背中をさすりながら俺に視線を送ってきた。


 俺の高校生活におけるモットーは「波風立てず、穏やかに」だ。それに対して「打倒 Novelend」なんて物騒な目標は、俺のモットーに相反する。だから、俺はNovelendを敵対視しようなんて考えてもみなかった。


 だが、俺は今日の初ライブで知ってしまった。実力差で負ける悔しさを。ダメ出しをされても、何も言い返せなかった現状を。


 波風を立てるのは嫌だ。どう足掻いても面倒事に巻き込まれるからだ。それでも、美月先輩と紗里奈が一緒のこのバンドでなら、少しぐらい波風を立ててみようと思えた。


 俺は困りながらも笑顔を返してみせる。


「まぁ、頑張ってみますか」


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俺の青春はROCKが過ぎる。 ロム @HIRO3141592

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