エピローグ
翌日の木曜日。山本は髪を切ってきた。
長いウルフカットをやめて爽やかな短髪にシフトチェンジしたらしい。
私は驚きのあまり口をパクパクさせた。
その変わりように女子だけでなく男子も驚いていた。
山本はいつもの如く女子に囲まれていたが「ごめんね。俺好きな子できたから」と言って女子たちを絶叫させた。
男子からは取っ付きやすくなったようで、休み時間も男子と笑っているところを何度か見かけた。
「はい、これが課題です」
私は山本と一緒に宮本先生に課題を提出した。
宮本先生は「はい、ごくろーさん」と課題を受け取ったが「なんでこんなに紙がヨレヨレなんだ?」と首を傾げた。
「あーまあ、それは色々あったんで…」
雨で濡れたことは言わないでおこう。
宮本先生は課題に目を通しながら「どうだ?仲は深まったか?」と聞いてきた。
私たちは顔を見合わせる。
「全然」
「はい」
同時に違うことを言う私たちに「仲がいいなあ」と宮本先生は笑った。
いや全然良くないんですけど。
無事に課題を提出し掃除の時間が始まる。
私は例によりゴミ箱を抱えてゴミ捨て場まで運ぶ。
なぜか山本がくっついてきた。
「それにしても思い切ったね」
「なにが?」
「髪の毛」
「ああ」
山本は短くなった髪をいじりながら「似合う?」と聞いてきた。
「いいんじゃない。女子は悲鳴あげてたけど」
私はそこで女子たちの絶叫顔を思い浮かべてニヤついた。
「男子からは結構評判いいんだ。親しみやすくなったって」
「まあ女子に囲まれてる時はいけ好かなかったもん。やっぱ男子にも嫉妬ってあるのね〜」
ゴミ捨て場にたどり着くとゴミ箱から袋を剥がす。
上手くゴミ袋が抜けなくて苦戦していると山本が「俺がやるよ」と交代してくれた。
「でもさあ、本当の話なの…」
「なにが?」
山本は首を傾げる。
「好きな子できたって」
「ああそれ」
山本はいじわるそうに笑った。
「気になる?」
「まあ」
気にならない、といえば嘘になる。本心を言えばどうでもいいけど、まあ一応聞いてあげるのがコミュニケーションというやつだ。そう、他意はない。
「ふうん?」
山本はにやついたかと思うとゴミ箱を持った。
「じゃあ先に教室に戻れたら教えてあげるよ。よーい、どん!」
「っはぁ!?」
いきなりの号令に私がもたついている間に山本は全力疾走で裏庭を走っていく。
「ちょ、ちょっと待って!卑怯じゃん!ずる!ばか!」
私はそう叫びながら慌てて山本の背中を追いかける。
遠くの方でウグイスが鳴いている。
季節はもう夏を迎えようとしていた。
My Buddy![とりあえず完結] 麓出 奈士 @Rokudenashi_073
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