第10話 ヘアドネーション

小さなイジメもなくなり、いつも通りの学校生活になった。

ボクと銀次くんとタケルくんとの関係は、始めは少しギクシャクしたけど、普通に話せるようになった。


そして夏休みに入って、いよいよボクはかみの毛を切ることにした。

ヘアドネーションは切ってくれる専門の美容院が少ない。でも、たまたまお母さんがいつも行ってる美容院でやってくれていた。

ボクは腰まで長く伸ばしたかみの毛を見て、

「このかみの毛が誰かの役に立つんですよね?」

と美容師さんに聞いた。

「そうよ。人毛のカツラはなかなかないし、ここまで長くして切ってくれる人も少ないの。だから病気の人たちはきっと喜ぶわよ」

と、ニコニコしながら言った。

美容師さんはボクの長いかみの毛を五つにわけて、あごの下辺りでそれぞれゴムで止めた。

「自分で切ってみる?」

「え?いいんですか?」

「最初だけね。記念だから」

「はい。ボク切ってみたいです」

美容師さんはハサミをボクに持たせてくれて、ボクはかがみを見ながら一たばのゴムの上のほんの少しを切ってみた。

ジョリ、ジョリ、ジョリ。

ボクは嬉しさでいっぱいになった。だってようやく待ちに待ったこの日が来たから…。そしてそのかみの毛を自分で切れるなんて思ってもみなかった。

ボクの胸が熱くなった。

「じゃあここからは、お姉さんがちゃんと切ってあげるわね。」

そう美容師さんが言うとゴムの上を手ぎわ良くジョリ、ジョリと順番に切ってくれた。

「じゃあこのかみの毛はちゃんとこちらから、NPO法人の団体に送らせてもらうからね。良くここまで頑張って伸ばしたわね。ありがとう」

ボクはもっと胸が熱くなった。


さようなら。ボクの長いかみの毛。

今までありがとう。

シャンプーする時もなかなかうまく洗えない時もあった。

かみの毛をドライヤーで乾かすのにも三十分かかった。お母さんにも手伝ってもらった。

夏は暑くて、何度もざせつしそうになった。

街を歩くと他の人にジロジロ見られて嫌な思いをした。

それでもボクは誰かの役に立つのならって思って、頑張ってかみの毛を長く伸ばした。

来年からはもう中学生だから、かみの毛は伸ばせなくなる。でもまたいつか大きくなったら、もう一度かみの毛を伸ばそう。

ボクは力強くそう思った。




おわり




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ヘアドネーション ~ボクの長いかみの毛~ @sekai_18

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