第6話 偶然の出会い

 金曜日。昼休みに藍子はロッカールームで作業用のエプロンを外した。今朝は少し寝坊をしたので弁当が作れなかった。

 この前内山さんが言っていた外濠の向こう側のカフェ、下見に行こうかしら。


 藍子は秋晴れの心地よい気候の中を散歩がてら歩きだした。橋の下を中央線が総武線を追い越していく。その隣の深緑の池の上に、赤や黄色、茶色の落ち葉が沢山浮かんでいる。これから行く外濠の向こう側にも大学やオフィス、店などが立ち並んでいる。都会と共に生息する自然を感じられて、藍子はこの景色が気に入っていた。


 内山が言ったカフェは、昔からあるチェーン店でパンの他にパスタなども食べられ、夜にはお酒なども飲めるちょっと洒落たカフェレストランだ。店内は正午前なこともありまだ空いていた。

  窓側の席に上着を置いて、注文をしにレジへ向かう。

「いらっしゃいませ」

 ショーケースの中のサンドイッチやバーガーから目を離し店員を見て、藍子は驚いた。


 あの子だ。


 レジには、あのベンチの青年がいた。青年は藍子の表情には気づかず、

「お決まりでしたら、お伺いします」

 とゆっくりと言った。その発音や話し方から日本人ではないであろうことが推測された。藍子は動揺を隠しながら、アイスコーヒーとエビアボガドのバケットサンドを注文して、その用意をする青年をじっと見た。


 この仕事を始めたばかりなのだろうか、手際は良いとは言えないが、ひとつひとつ丁寧に確認するように品物を揃えていく。最後にレジでお釣りを返しながら、

「ありがとうございました」

 と優しく微笑んだ。

 やっぱり目がとても綺麗。微笑むと温かい目になるんだ。


 藍子は窓際のカウンター席で食べながら、この偶然の出会いに驚いていた。

 留学生かしら。でも日本人に見えたから中国か韓国かそれとも台湾からかしら。そうか、ここで働き始めたから、ベンチで見かけなくなったのか。そんなことをあれこれと考えながら、窓の外の景色を眺めていた。

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