第25話 箱バンの行方

 数週間後、姿をくらまし逃げ回っていた東大は、鬼六こと、長谷川平六に追い詰められ、原発の建屋の屋根裏に作った隠し部屋に潜んでいるところを逮捕された。現金1000万円を握りしめ、側にはメロンの食べ残しが転がっていたという。

 逮捕の際、鬼六に伝家の宝刀、粟田口国綱の刃先を突き付けられ、


「てめえの様な悪党の血で、この粟田口国綱を汚してしまうのは御先祖様に申し訳が立たねぇが………」


 と凄まれた時、思わず漏らしてしまった。連行される時、顔は隠されていが、

ズボンがびっしょり濡れているのがアップになって中継された。

 原小力と菅伝四郎もほぼ同時に逮捕された。とりあえずの容疑は、三人ともに偽計業務妨害罪だったが、叩けばほこりの出る身体、他にもぞろぞろ出てくるだろう。逮捕以来、桜田門の鬼六の取調室からは悲鳴と絶叫が絶え間なく聞こえてくる。東大は逆さ吊りにされて鞭で叩かれ、原小力は水責め、関伝四郎は石を抱かされていた。三人は、とうにすべてを白状しているのだが、責めは終わりそうもない。ここからが鬼六の世界なのだ。だが、今、本当にビビッているのは、この三人に飼われていた多くの政治家たちだった。

 

 それからふた月ほど過ぎた。帰国の際の成田での大フィーバー、テレビ出演のはしご、インタビューの嵐もようやく収まって、平穏な日々に戻っている。時折入るテレビ出演やインタビューも今は断っている。大学でのカリキュラムが大幅に遅れてしまって、二人ともに学長の丹下に大目玉をくらったのだ。


「君たちは、タレントではない。研究者だ。そして、なによりも教育者なのだ。そのことを忘れてはいけない」


 ごもっともである。


「車、返してくれるんだろうな?」

 渡辺が独り言を言った。

 帰国は飛行機だった。ワープで帰ろうとしたが、止められた。ワープシステムの存在を隠すためのアメリカ政府の意向だった。世界最大の航空会社、ローズアダルトエアラインのファーストクラスが用意された。ニューヨーク~成田、100万円のシートである。もちろん三人はファーストクラスは初めてだ。CAもハリウッドから抜け出て来たような美人ばかり。渡辺は、行き交う美人CAに緊張のあまり一睡もできなかった。豪華なディナーにも驚いた。だが、ここでもジュリーはタッバーを要求し、きっちり断られている。


「スバルサンバーね。もう戻らないかもよ」

「何でだ?」

「あれ、要するに国境を超えて不法侵入した車よ。没収されても文句は言えないわ」

「ディックは返すって言ってくれたぜ」

「ディックは、元CIA副長官とはいっても、今はただのエージェントよ。決定権はないわ」

「そんな………」

 あの箱バンをいじくるのが唯一の生きがいになっているこの男にとって、箱バンを取り上げられるのは、すべてを取り上げられるのに等しい。

「そんなことより、外を見てごらんなさいよ。いい季節になって来たわ」

 外は、もう春の気配だ。桜のつぼみが膨らみかけて先っぽが淡いピンクに染まっている。ジュリーがカレンを連れてこの大学を訪れて丸四年が過ぎようとしていた。  

「そんな気になれねえよ」

 渡辺はふてくされている。

「もう一台造ったらいいじゃない」

「仕方ないか、そうするしかないか。しかし、先立つもんがな」

「お金なら貸してあげるわよ。利息は頂くけど」

「利息安くしといてくれよ」

 渡辺が言った時、

「渡辺、造らなくてもよさそうよ」

 ジュリーが窓の外を見ながら笑っている。ジュリーの目には、研究室の前に現れた緑のプラズマが映っていた。

 姿を現した箱バンのドアが開けられ、中からポール・ラッキースターが出て来た。

 

                                つづく  

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ワープ 03 ~常温核融合装置~ かわごえともぞう @kwagoe

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