第24話 ディックとカネロス

 宴たけなわになった頃、ほろ酔い加減のジョン・F・ボキャナンがラッキースター7世のところへやって来た。

「ジミー、例のことだけど、半分も取れなかったってのは言い過ぎだったと思ってんだ。そろそろノーサイドにしないか」

 ハミルトンが切り出した。


 40数年前、IBリーグの最終戦でジミー・ラッキースターが奪三振記録を達成した試合の後、捕手だったハミルトンは、スポーツ誌のインタビューに答えて、自分のリードが無かったら半分も奪えてなかった旨のコメントをしたのだ。それを聞いたジミーは怒り、あいつが捕手じゃなかったら、もっと三振を取れていたはずだ、と切り返した。それ以来、二人は会ってもほとんど口をきくことはなかった。

「ジョン、謝るのは俺の方だ。俺が怒ったのは、本当の事を言われたからだよ。実際、お前のリード通りに投げた試合は三振の山だったもんな。人間、本当の事言われたらしゃくさわるもんだよ」

「いや、違う。お前の球威、変化球のキレ、コントロール、お前ほどリードしやすいピッチャーはいなかったぜ」

 二人は、40数年ぶりに打ち解けた。

「こういうの、め殺しって言うんだよな、日本じゃ。いや、正確には褒め殺し合いってか。どっちか死ぬまでやれ」

 側で聞いていたディックが、ぼそっと呟いた。


 数日後、細かな詰めを経て正式な契約が行われた。常温核融合発電システムの特許権をラッキースターグルーブが獲得した事がメディアに発表された。同時に、ローズアダルトグループの特許使用権の獲得も発表された。世界は揺れた。だが、この世界経済を支配する二つの財閥グループが関与したことが周知され、ほとんど経済指数に影響が出ることはなかった。当初の目論見は成功した。

 そして、ジュリーとラッキースター7世、ローズアダルト13世が握手をし、前大統領ジョン・F・ボキャナンが拍手をしている画像が世界に配信された。渡辺は、大男のラッキースター7世とローズアダルト13世の陰に隠れてしまい、かろうじて右手だけが写っていた。


 やがて、世界の通信社が、こぞって事の経過を調査し報道し始めた。日本の世論は沸騰した。仮に、この特許を日本が抑えていたとすれば、日本にどれだけの富をもたらしたか分からない。資源のない国、日本にとって、ラストチャンスだったのだ。汚い手を使って特許を我が物にしようとした東大あずまひろしに非難の矛先ほこさきが向かった。

 電力会社の株は連日のストップ安、5000円から100円にまで下がった。こうなると、倒産は免れにくい。だが、ディック・スモーラー・ジュニアは、5000円で空売りをしていた。ディックの懐には、10兆円が入っている。反対に、3000円で買った相場の世界一のカネロスは10兆円で損切りしている。


 ジュリーと渡辺に出ていた逮捕状は取り消され、代わりに、東大あずまひろし原小力はらこりき関伝四郎かんでんしろうに逮捕状が執行された。警視総監の飯成いいなりは辞表を提出したが、東大が逮捕されて白状すれば収監は確実だろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る