第23話 食料と燃料

 パティー・ラッキースター夫人の誕生パーティーは豪勢で華やかだ。ジュリー、カレン、渡辺に後から来た四人も飛び入り参加をした。

 合衆国のみならず世界各国からやって来た500組の超セレブ招待客が注目したのは、ローズアダルト13世と前大統領ジョン・F・ボキャナンが会場に来ているという事だった。二人は共和党の中核人物であるのは周知の事実だし、ラッキースター家が建国以来の民主党支持者であることも周知の事実だ。それに、ローズアダルト財閥とラッキースター財閥の仲の悪さも知らぬ者はいない。加えて、ラッキースター7世とボキャナンが些細なことでいがみ合っているのも知る人ぞ知る事実だ。


 「世紀の和解か?」


 誰もが思った。三人が親しく話している姿が携帯に取り込まれ、映像となってすでに世界に発信されていた。皆が、このスリーショットを色々な角度から撮っている。

 関心がないのは、ジュリー、渡辺、カレンの三人だけだ。初めて見る豪華な料理の数々を前に、我を忘れて食い倒している。どんどん新しい料理がテーブルに運び込まれ、ほとんど箸の付けられていない料理が下げられて行く。ジュリーは、食い倒す一方で、何処から調達したのか特大のタッパーに下げられる料理を必死で詰め込んでいる。日本に何年かいるうちに、日本のおばちゃん達の習性が沁み付いてしまったらしい。三人は、その遍路姿も相まって、全世界からやって来た超セレブ達の中で完全に浮いた存在になっていた。ただ、白い目で見られているのに本人たちが全然気が付いていないのが、せめてもの救いである。


「ラッキースターさん、今までの事、すみませんでした。反省しています。こんなに心の広い方だとは思いませんでした。私はまだまだ未熟者です」

 ローズアダルト13世は、素直に今までの事を謝った。様々なメディアを通じて、ラッキースター7世の事を誹謗、中傷してきたのだ。

「いいんだぜ、気にすんな若いの。心が広いのはジュリーだぜ。俺じゃねえよ。確かピーターって言ったな。これからピーターって呼んでいいかい。俺のことはジミーって呼んでくれ」

 ラッキースター7世は、ハンフリー・ボガード張りの台詞を吐いて気分は最高だ。

「ピーター、この技術は公開しないといけない。だが、いっぺんに公開してはいけない。化石燃料、原子力を前提に成立している世界経済が大混乱になって収拾不可能になる。しかし、速やかにやらないと地球温暖化を止めることはできない。要するに、ソフトランディングさせないといけないんだ。それができるのは、俺とあんたが手を組んで初めて可能になるんじゃないかな」

 ラッキースター7世の言葉に、ローズアダルト13世は頷いた。

「ピーター、戦争ってのは何で起きるのか知ってるか」

「国の利害が対立したからじゃないですか」

「違うな。ピーター、よく覚えとけ。食料と燃料だよ。太古の昔から、人間は食料と燃料をめぐって戦争をしてきたんだ。俺たちは、その一つを葬り去ろうとしているんだぜ。財閥が陰で戦争を仕組んでる、なんて昔からまことしやかに言いふらす連中がいるだろう。これは俺たちにとってチャンスでもあるんだ。頑張って行こうじゃないか」

 ジミー・ラッキースター、絶好調だ。  


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