―心春へ

「こんにちは。美咲の母です。心春さんはいらっしゃいますか?」

 夕方、私は美咲の親友の心春ちゃん宅を訪ねた。

「どうぞお入りください」

「お邪魔します」

「今、心春を呼んできますね」

 しばらく待つと心春ちゃんがやってきた。先程まで泣いていたのか目が赤く腫れ、暗い顔をしている。

「美咲ママ、こんにちは」

「心春ちゃん、こんにちは。急にごめんね」

 心春は静かに首を横にふる。

「実は、これが出てきて」

 と私は心春ちゃんに手紙を渡した。

「……手紙。美咲からですか?」

「ええ。」

「手紙なんか遺して……」

 と心春ちゃんがつぶやいた。しかし、私は聞こえていないフリをした。

「読んでもいいですか?」

「あなたのものなんだから私の許可はいらないわ」

「では……」

 と心春ちゃんは手紙を読み始めた。


 ―心春へ

 ハルを置いて先に死んじゃってごめんね。手紙なんて遺して怒ってる?まぁそんなに怒らないでよ。お見舞いたくさん来てくれてありがとう。小さい頃から仲良くしてくれてありがとう。今までたくさん迷惑をかけてごめんね。いつも助けてくれてありがとう。――


『うわ!こいつ、ハゲてる!』

『返してよ!』

 授業が終わり、私はトイレに行って帰ってくると、帽子を被っていない美咲が泣いていた。美咲の目の前には美咲の帽子を持って立っているクラスの男子。この状況を見て何が起こったのか瞬時に理解する。そして、すぐに美咲の元へ走る。

『美咲!大丈夫?……あんた何してんの!』

『いや、帽子を脱がせてやろうと……』

 迂闊だった。トイレに行って帰ってくるだけだからと美咲を1人にしてしまった。このたった数分でこんなことになるなんて……。

『美咲は理由があってずっと帽子を被ってたの!先生も言ってたでしょ!はやく返して、美咲に謝って!』

『相川、ごめんな』

 とクラスの男子は帽子を返しながら謝った。

『もうこんなことしないでね』

『……おう』

『ハル、助けてくれてありがとう』


――よく相談に乗ってくれてありがとう。落ち込んでいたとき、辛かったとき、そばにいてくれてありがとう。どんな私も受け入れてくれてありがとう。いつもたくさん「ありがとう」を言っててハルはうんざりしてるかもしれないけど、私はまだまだ「ありがとう」が言い足りないってくらいだよ(笑)

 私にとってハルは間違いなく一番の親友でした。今まで私がハルを振り回してきた分、これからはハルのしたいことをたくさんして、いっぱい楽しんでね。私に遠慮しちゃだめだよ!

 大好き。

                                 美咲より

「美咲……」

 と手紙を読み終えた美咲ちゃんは涙を流しながら手紙を愛おしそうに抱きしめた。

「美咲ママ、手紙ありがとうございます。大切にします。」

「ええ。大切にしてあげて。美咲も喜ぶわ。」

 私は腕時計で時間を確認した。午後7時を回っている。

「夜遅くまでごめんね。そろそろお暇するわ」

「お見送りします」

「ありがとう」

 そうして私たちは玄関へと移動した。

「お邪魔しました」

「ありがとうございました。お気をつけてお帰りください」

「美咲ちゃん、元気でね」

「はい」

と美咲ちゃんは微笑んだ。最初よりも顔色は戻り、どこかすっきりとした表情になっていた。

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拝啓、私が愛した人たちへ一 宮北莉奈 @rina24miyakita18

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