―お父さんへ
私は彼に手紙を渡すため意を決して彼に電話をした。
―プルルル……
呼び出し音がいつまでも続く。
やっぱりだめかと諦めかけたとき、
「はい」
勝彦さんが電話に出た。
「……もしもし、勝彦さん。今から少し会えないかしら?渡したいものがあるの。」
「……わかった。そっちに行く。」
電話に出てくれても、会ってくれないのではないかと思っていたので、私は一安心した。
―数分後。
―ピンポーン。勝彦さんが来た。私はドアを開け、勝彦さんを家に入れた。
「突然ごめんなさい。美咲の遺品を整理していたら、これが出てきたの。」
そう言って、私は手紙を渡した。
「……手紙?」
勝彦さんは封筒から手紙を出し、読み始めた。
―お父さんへ
お元気ですか?ごめんなさい。私は白血病で一足先に死んでいるでしょう。
私が白血病になるまでお母さんに内緒でたまに会いに来てくれてありがとう。白血病になってから黙っていなくなって、ずっと会えなくてごめんね。お父さんに心配かけてくなかったんだ。約束通り最期までお母さんに秘密にしてたよ。
私のわがままに応えてくれて、映画に連れて行ってくれたよね。初めての映画、すごく面白かったです。――
『……あっ!お父さんこっちこっち!』
と元気な声で美咲が俺を呼ぶ。
『ごめん。待ったか?』
『ううん。そんなに待ってないよ。それより、早く行こう?映画始まっちゃう!』
『そうだな』
と俺たちは映画館へ歩き始めた。
ー10分後、俺たちは映画館に着いた。
『えっと、美咲はどの映画が見たいんだっけ?』
『これ!』
と美咲は映画のポスターを指差した。
『これだな?よし、行こうか』
そう言い、俺は入場料を払い、ポップコーンを買った。
『美咲、ポップコーン一緒に食べよう』
『いいの?ありがとう!』
俺たちはポップコーンを片手に席に座った。
『まだかな?』
とわくわくしている美咲。
『もうそろそろだよ。……あっ、ほら』
映画が始まった。
『わぁ……』
美咲は喜んでいる様子で、俺はそんな美咲を見てなんだか嬉しくなった。
気づいたら映画が終わり、無意識に映画に夢中になっていた。
『面白かったね!』
『ああ、そうだな』
時刻は12時を回っている。
『……昼食食べて帰るか?』
『うん!』
俺たちは映画館を出た。
――まだまだお父さんと一緒に遊んだり、おしゃべりしたりして楽しい思い出をたくさん作りたかったな。お父さんとお母さんが離婚しちゃってから、お父さんに会える日がずっと私の楽しみなことでした。
本当は私が生きているときに2人に仲直りしてほしかったけど無理そうだから、私からの最期のお願いです。お母さんと仲直りしてほしい。私が大好きな2人が喧嘩しているのは悲しいです。だから、仲直りしてください。
最期までわがまま言ってごめんなさい。でも、どんなわがままでも叶えてくれるお父さんが大好きでした。
美咲より
「……なぁ、香奈美。その、すまなかった」
と勝彦さんは手紙を読み終えたかと思うと急に謝ってきた。
「何?突然」
「本当は離婚したときからずっと謝りたかったんだ。でも香奈美は俺に会いたくないんじゃないかって、許してくれるはずがないって怖くてずっと謝りに行けなかった。でも、この手紙に書いてある美咲からの最期のお願いでやっと謝る勇気が出た。こんなの卑怯だけど、あのときは本当にすまなかった」
「……もう終わったことだからもういいの」
私は重い口を開いた。
「……そうか」
「でも、私もあのときは言いすぎたわ。ごめんなさい」
それからしばらく沈黙が続いた。
「……俺、そろそろ帰るよ。見送りはいらないから」
「わかった。じゃあ、気をつけてね」
「お邪魔しました」
と勝彦さんは帰っていった。そんな彼の目には涙がうすく光っていた。
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