第52話

「無理よ下がって! そいつは貴方がどうにかできる相手じゃないわ!!」


「そうです、私達にまかせて……」


「うるせぇよ、まんまと一杯食わされてんじゃないか」


『ぐうの音も出ないな』


「ちょっと敵に集中して、来るよ!」


 尾形を止めようとする瞳と双羽に反論する尾形聡。


 納得するアオマ、それどころではないと蒼馬。


 蒼馬の言うとおり女立ち上がりアオマに狙いを定める。


「マスターに狙いを定めた?!」


 紅音の顔色が変わる。


 女に明確な敵意を示し、攻撃を仕掛けようとする紅音。


 しかしそれより早く、聡が女に殴りかかる。


「無茶です?!」


 と、紅音。


 聡の右ストレートを女は紙一重でかわし、お返しとばかりに右膝で彼の腹部を狙う。


 瞳と双羽、そして紅音が慌てるがアオマは冷静だった。


 聡は女の右膝を自分の左肘で受けたのだ。


 あの魔傀儡相手では、並の管理局員レベルでも殴り合いは危険だ。


 ましてやつい最近呪因を知ったばかりの聡が攻撃を受け止めるなどありえない事だった。


『なるほどな、邪気を呪力の代わりに纏い、巡らせて身体を強化しているのか』


 よく見れば聡の目は邪気に取り憑かれたときのように、白目の部分が黒く濁っていた。


「そんなのリスクが大きすぎるわ!」


「止めさせないと!」


 瞳が呪因で、双羽は錫杖を手に向かっていく。


 紅音もすでに走り出していたが、


『小僧、邪気に明確なイメージを与えろ。事象でも器物でも動物でも良い、お前が強いと思う物、馴染みのあるもの、好きな物をイメージしろ』


 アオマが聡にアドバイスを送る。


 突然、そんなことを言われても頭が回らない聡は、最初こそ互角にやり合っていたが、次第に劣勢になっていく。


 その中で、かつて父に連れて行ってもらった動物園を思い出す。


 象やライオン、珍しい鳥などを見て回ったが一番よく覚えていたのが狼だった。


 当時、犬を飼いたがっていた聡は狼に『強そう』『格好良い』以外に『飼いたい』『可愛い』という感情を持っていた。


「貴女の相手は私です!」


 そう言って女に掴みかかる紅音。


 引き離された瞬間を狙ってアオマのアドバイスに従い、狼をイメージする。


 聡が纏った邪気が狼を形造ると、再び女に向かっていく。


「もぅ、アオマさんが余計なこと言うから」


 錫杖を構えた双羽が愚痴る。


「アオマさん……」


『蒼馬、よく見ておけ。過去に決着をつけようとしているという意味ではあの小僧、いや聡はお前と一緒だ。そして今のお前が、かつてお前を止めようとした龍瞳の中娘の立ち位置だ。俺は決してお前の戦いを否定しているわけじゃないぞ。ただ、自分がどう見られ、何を背負っているのかは理解しておけ』


 自分と一緒と言われ口をつぐむ蒼馬。


 一方、聡は盛り返しかけたがまだ力が足りない。


「もう、」


 瞳は床を力強く踏むと、石製の腕が女の足元から伸びてその手足を掴む。


 動きを制限された女の顔面に聡の右ストレートが、腹部に紅音の左ストレートが同時に炸裂する。


 瞳の呪因で拘束されて倒れることができない魔傀儡の女。


「今の感覚……」


 聡は何かを掴みかけていた。


 もう一度紅音と繰り出した同時攻撃で瞳の拘束ごと女をぶっ飛ばす。


「これだ!」


 聡は邪気で複数の狼を形造り、自身の体内と体外を走らせて擬似的な纏と巡りとしていたのだ。


 これは呪力による巡りと纏に限りなく近い状態だった。


 立ち上がる女に向かっていく聡。


 彼に向かって女は爪を発射しそれを咄嗟に腕でガードしたところ、女は反対側の爪を伸ばして斬りかかる。


 しかしそこへ紅音の回し蹴りが炸裂し、女の首がふっ飛ぶ。


 棒立ちになった魔傀儡の女の腹部に聡の渾身の一撃が入る。




「やはり……。これは翡翠ではありません」


 魔傀儡の女の残骸を見て、紅音の中の鈴音が言う。


『どういう事だ?』


 怪訝な表情で鈴音に問うアオマ。


 敵の魔傀儡の首すげ替えトリックにハマったとき、鈴音が言った『違う』という言葉はその首すげ替えの事だとアオマは考えていた。


 しかし、鈴音の意図は違った。


「この魔傀儡は私が造った物ではありません。この魔傀儡にコアが1つしかないんです」


 コアとは魔傀儡の本体と言ってもいい器官で、脳と心臓のように2つに分ける分離型と1つにまとめる一体型がある。


 アオマの弟子だった鈴華は義手や義足といった義体技術の探求者で、魔傀儡も人体に近い分離型しか造ってこなかった。


 弟子である鈴音も同様で、一体型を造ったことは一度もなかった。


 当然、翡翠も分離型だ。


 そして脳と心臓に相当するコアはそれぞれ人間のそれに該当する部分にある。


 首をはずすなどできないという事だ。


「ただ、それ以外は良くできています。もしかしてオリジナルを参考にしているのかもしれません」


『これを造ったやつの元に本物の翡翠があるって事か?』


 アオマの質問に静かにうなずく鈴音。




 聡は邪気を無理な使い方をした反動で朦朧とした状態で横たわっていた。


「ただでさえ粗悪と言われる呪因なのにこんな使い方して……。この程度ですんだのはむしろ幸運よ?」


「本当に、無茶に無茶を重ねて」


「うるせぇよ……。深崎、俺のズボンの右ポケットにスマホがある。それを取ってくれ」


 言われて聡のポケットからスマホを取り出す。


「ロック解除の番号は……、メモアプリを開いてみろ。そこに書かれているのが御堂に隠れ家や土地を提供している連中の名前でその大元が『多上』って言う和可部市わかべしの大地主だ。アイツを追うなら何かの足しぐらいにはなるだろ」




 気を失った聡を紅音が背負い、外に出たとき一同は違和感を感じる。


『御堂のヤツ、はじめやがったか!』


 アオマが吐き捨てるように言う。


「さっきのスマホ、ちょっと貸して」


 瞳はそう言って蒼馬からスマホを奪い取ると何やら操作する。


「班長と各支部、本部に送っておいたわ」


 そう言って蒼馬の手にスマホをもどす。

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蒼き呪因と真紅の傀儡姫 @suzukichi444

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