第11話 屈辱
「確かに、俺様はヴァルドボルグ13世だ。お前ら、俺様達竜魔族とは異なる、猪魔族だな。何が目的だ」
「小耳に挟んだんだよォ。ヴァルドボルグ13世...つまりお前が、城を抜け出してどこかに隠れているとな」
ほう。まあ、あれだけのことをすればバレるか。目の前の、破れた古布を肩からかけたり猪魔族のチンピラは、首もとの人間用のネックレスをチャラチャラと鳴らしながら、低い声でこちらを威圧する。
「だから、それを見つけて魔王城の連中にチクりさえすれば、たくさん金がもらえる!...っていう計画だった。"最初"はな」
「何だと?」
すると、もう一人。チンピラのような格好をした半裸の猪魔族がケラケラと笑いながら俺様のことを指さす。その指には、人間用のまばらなサイズの宝飾品が粗雑に着用されている。
「お前が派手にやっているところを見つからないように、必死に追いかけてたら。なんとびっくりお前は、その辺の狼に捕まった挙げ句魔力も物理攻撃力も制限されてると来たもんだ!」
ちっ。そこまでバレてやがったのか!全く、暇な奴らだ。
「お前を追いかけて追いかけて、途中人間に始末されそうになったりしながらもつけてたのに。あの、化け物じみた強さの狼野郎がずっとお前の側にいるせいでまともに接触すらできなくて困ってたんだよォ!」
「なら、城にチクリでもなんでもすれば良いだろう。お前らに付き合ってる暇はない」
「だーかーらー、言ったろ?それは最初の計画だって!」
「...どういうことだ」
すると、低い声の方の奴が拳を構える。
「こういうことだよ、ヴァルドボルグ」
「ぐおっ...」
ちっ!!!こいつ、殴りやがった!
「お前の持っている至高の力。それを頂く。さあ、出せ」
「アホか、貴様ら!そんなことをしたら、お前は俺様の精液の魔力量に耐えられず死ぬ。そんなことはするだけ無駄だ」
「そいつはどうかなぁ!お前の精液を持って帰れなきゃあ...」
半裸の方は、棍棒を構えている。畜生、なんて間の悪い!
「今まで張り付いてた時間が無駄になっちまうからよぉ」
「ぐあっっ...」
重い!こいつら、結構腕のたつ奴らだ!だが...この程度、本気を出せばなんてことない。だが...
「お前の魔力を制限している張本人は、今頃街でショッピングだろうなぁ!!」
「ぐえっ。があっ!!」
クソッ、この付き合ってられるか...こんなの。
仕方ない。ここは撤退しかあり得ない。奴を何とかここに呼び戻して、制限を解除してもらわなくては。
「待て、おい!飛ぶのはずるいだろ!」
「へぇ。竜の特権というヤツか」
「アニキ、余裕ぶってる場合じゃないぜ!?」
魔法磁石。こいつを使えば!
「残りカスの魔力、全部使ってやる。届け!」
全力で魔力を込めると、魔法磁石から共有者に向かって赤い光の糸が伸び、同時にハナクソ狼の周辺の景色が写る。
「ちっ...まだ買い物中か。それにしたって街に着くの早すぎだろうが!」
「アニキ、全然届かない!」
「まああせるな。この日のために、一夜漬けした魔法がある。喰らえ、『瞬時束縛(クイックバインダイア)』」
「がっ!」
くそ、束縛魔法か!この程度の束縛なら、俺様に...
「俺様に魔力があれば解除できるのに。か?」
こちらの思考回路に先回りして、アニキと呼ばれたヤツが答える。
「貴様、いちいち腹立たせよって...」
「何を?力なき魔王など赤子同然。俺みたいな魔力の修練を積んでいない者に良いようにされ、さぞ悔しかろう?力なきヴァルドボルグなんて、従うに値しないからな」
「やっちゃってくだせぇ、アニキ!」
クソッ。下手くそ魔法だからコントロールが効いていなさそうだが、このままでは地上に落とされるのも時間の問題だ。なんとか。アイツが帰ってくるまで時間稼ぎをしなくては...
「ほざけ、三下以下のくせに。この俺様、ヴァルドボルグが有事の対策もせず、おめおめと捕まっているとでも思ったのか?」
「何ィ...」
おっと、どうやら気持ちが揺らいだぞ。このまま、続けてみるか。
「切り札ってのは最後の最後まで明かさず取っておくものだ。確実に、あのハナクソ狼の首を取るために」
「じゃあ、なんで俺達やアニキを殺さないんだぁ?ハッタリもいい加減にしろよ!」
「一度でも手の内をバラしたら、その後対策されるだろう?お前らごときの雑魚に使うのは悔しいが、いざとなったらそれを使ってお前らを殺してやる。ヴァルドボルグに伝わる秘奥義で」
「ほざけ!ハッタリに決まっている」
「でっ、でも、ヴァルドボルグの血筋っすよ?もしかして、本当なんじゃ...」
「狼狽えるな!ここまできたら、引き下がる訳にはいかん。ここで奴の精液をふんだくって、俺達が最強になる」
「そいつはどうかな?おい、そこの弟分。お前のアニキは、引き時も見極められないみたいだぜ」
弟分のほうはチラッと"アニキ"の方を見る。よしよし。良い感じに軋轢が生まれているな?
「何を言うかと思えば!魔力も力も無い貴様にできることなど...」
「おやぁ?ずいぶんと、束縛魔法のコントロールがおざなりじゃないか。"魔力も力もない"俺様に、負ける気分はどうだ?」
「う、うるさぁい!」
おっと。くそぉ、悪手だったか?だいぶ、地上に引き寄せられちまった。この調子じゃ、奴が魔力切れを起こす前に、十中八九地面についちまう。
(頼む。気づいてくれ、ハナクソ狼...!)
今、奴は何をしている?魔力がないから、確かめる術も、もうない。
(ハッ。魔竜の王たるこの俺様が、神に祈る日が来るとはな。神様は信じないたちたが、なんでも都合よく利用するのが俺様だ)
頼む。何とかなってくれ!!
一方その頃、ルーハ中央区の出店。
「あった。竜種族用の服」
ヴァルドボルグのもとを離れ、すっかり対慣れてない人用のスカシ顔になっているロウはまだ街にいた。外の屋台を回り目的のものを探していたが以外と見つからず少し焦っていたところ、中古の雑貨店に、それは雑然と放ってあった。
ロウの視線に気がついたのか、髭を蓄えた小太りの、だが筋肉のついた店番の男が白い歯を見せてにかっと笑う。
「よう兄ちゃん、見てく?色々あるぜ。箔つきの伝説の職人が造り上げた精密な金時計から、毒魔獣から身を守ってくれる魔除けの品まで、なんでも取り揃えてぇござい!」
「勧めてもらえてありがたいですが、今日は目的のものが決まっていて。その竜種族用の服が欲しいんです」
「おお、兄ちゃん通だね。こいつぁ、討伐された魔竜から剥ぎ取った服。裁断して使えば良い布になるぜ?それを考えりゃあ格安だ。他にも、竜種族への贈答用にしたいなら、他の古服もおすすめだ」
「いいね。これとこれとこれで...いくら?」
「聞いて驚きな?銅貨15枚だ」
「よし買った。この袋に頼む」
かつて竜の入っていた買い物かごに買ったものを詰め、空を見上げる。
「良い買い物でした」
「おう。また来いよぉ」
ロウは、頭のなかで計算した。ここから徒歩で関所に。それから、検査を受けて、草原を抜けてヴァルの居るところへ。
「順当にいけば...一時間くらいで着けそう」
そう言って、魔法磁石を握りしめる。
「...ん?」
今。
わずかに石が光ったような。
「まさか。何かあったのか?ヴァルに。...まさかな」
-----
所かわって、ヴァルドボルグ。
クソッ、捕まった!だが、まだハッタリは効く筈だ...
「おいおい、言ったろ?俺様をコケにしてると、死ぬぜ。上手くいったとて、お前らは力に耐えうる器じゃない」
「言ってろ。一発、派手に出せ、ヴァルドボルグ。力を寄越しな!」
そう言うと奴等は、無理やり何かの薬を飲ませる。この味は、まさか。
「...媚薬か、せせこましい真似を」
『愛の呪縛』の攻略のため、過去に飲まされたことがある。クソ、よりによってこんな時に!
「さすがは城の魔王さま。なんでもお知りになっている」
そう言うと、アニキの方はいたずらっぽくひざまづいて、わざとらしく手を広げて忠義のポーズを取って見せる。
「あ、アニキ。本気で...飲むのぉ?」
「何もできないから逃げているだけだろう。俺は止まらん」
「はっ。やってみろ。どのみち...お前...は」
効くのが早い。滅茶苦茶な調合だ、下手すりゃ副作用で生き物が死ぬレベルだぞ?全く、品位の無い連中だ!
「おお。勃ってきたか。流石、体が小さいだけ効きが早い」
果たして本当にそれだけか?この...味は...おさまらねぇ。頭がっ、クラクラする...
「早速、頂くぜ。魔王さまよぉ!!」
「ぐっ...うぅっ...」
クソッ。クソッ...俺に下心から求愛してきた気色の悪い奴等ですら、こんな汚ならしい咥えかたはしなかった。なんの遠慮もない、ただ汚ならしいだけのしゃぶり。
「俺様は...その程度の下品な行為では...堕ちんぞ」
そうだ。俺様は誇り高きヴァルドボルグの、13番目だ。どんな姿であろうとも、こんな...錢民になど...
「俺様...は...」
(お前は、騙されたんだ。最初から、愛の束縛を解除するために私が仕組んだ事だったんだよ)
(そんな。お前だけは。お前のことだけは信じられると、思っていたのに!)
なんだ。何故今なんだ!これは...間違いない。忘れもしないあのときの記憶...
(お前から力を貰えさえすれば、貴様の存在などどうでもよかったのだ)
やめろ。俺様は。俺様は......初めて...信頼していた誰かの手のなかで...
「あっ、アニキィ!こいつ、泣いてる!」
「やはり。あれは、意味の無い、ハッタリだったのか。強がり、おって。ようやく、自分の置かれた、立場を、理解、したか!」
俺様は......やめろ...俺様は愛玩具でも......権力闘争の道具でもない。
肉体を弄ばれるために俺様は産まれた訳じゃない。世界を......この手に...
ああ
出てしまう
「助けて......誰か」
誰か
誰かとは誰だ?
「俺様は...」
腹の底が暑くなる。
唾液で濡れた陰茎の最下部が、今にも破裂しそうだ。
もう、ダメかもしれない
「俺様...は...」
「なんだ。自分の名前も見失ったか?」
誰かとは
誰だ
「お前は誇り高き魔族史上最高の王。ヴァルドボルグ12世が息子、ヴァルドボルグ13世。そうだろ」
その
声......
「ロウ。助け...」
助けて
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます