第6話 かつて

「『愛の束縛』。俺様の精液は対象の体質を変化させるほどの魔力が込められているのは、お前も知っての通りだ。」


「ああ、そうだな。こいつが...」


ハナクソ狼は先程俺から奪った精液入りの袋を揺らし、


「多くの魔獣や家畜を、かつて類を見ないほどに凶暴化させ、王宮シキとその周辺を混沌に落としいれた」


それから、俺様を睨む。だが、それはひとまず無視して話を続ける。


「だがある時、事件が起きる。ヴァルドボルグ12世。つまり親父の代に、ある魔族解析にかけられたことによってこの事実が判明してしまった。それからは、不正に精液を手に入れようとする奴が魔族の間でうじゃうじゃ湧いてきた。親父はそれを危惧した」


「なるほど。だんだん話が見えてきたな」


うるせえなこいつ。黙って聴け。


「...そこで使われたのが、『愛の束縛』だった。この魔法は、生殖器に及ぶ。...心の底から愛されている相手にでなければ、精液を出せないという制約がかかった」


「不正な入手を防ぐためか。しかし、今のお前にはその制約が掛かっていない。まさか、お前...」


「人の話は最後まで聞くもんだこの野郎。そうだ。突破されたんだよ、この魔法は。...返す返すも屈辱的な思い出だ。俺はもう二度と...」


「なんだ?」


...。


「もう寝る」


「おい、今一番いいところなんだ。寝ないでくれ。未知の魔法が、未知の方法で突破された。失礼ながら興味が尽きないね」


「...喋りたいくないんだよ。察しろ」


俺様がそう言うと、意外な事にやつは目を丸くして、それから、しゅんとしてしまった。


「すまない。その手の気遣いが出来ないと昔からよく言われるんだ。その...すまない」


「ふん。素直でよろしい」


「それ言われるとめちゃくちゃ腹立つな」


わかりゃいいんだよ、わかりゃ。


「ヴァルドボルグ12世。君の父親が全盛期、突如失踪したのとも何か関係があるのか?」


おいおい、こいつ全くわかってねえな。気遣いゼロか。


「それも後で話させろ。今はいやだ」


「そうか。ほい」


「うぎゃ!!!」


なっ、スーパーデフォルメの魔法!!何故今なんだ!?


「ベッドは一つ。お前から精液貰うっていう目的も果たしたことだし、お前は俺の甲冑の中ででも寝てろ」


「嫌だよ、そんな臭えところ」


「臭くはない。洗浄済みだ」


「それはそれ、これはこれだろうが。誰が人の甲冑の中なんか...」


「じゃあ、俺とベッドで寝るか?」


「誰が!!お前が俺様にベッドを寄越せ!」


「それができると思うのか?良い落とし所ってのは、ある。いつでもな。そうだなぁ、続きの話は、そのうちしてくれ。それと、お金稼ぎにクエストを一つやるから、それも大人しく手伝うこと」


「はいはい。わかったよ畜生。今日のところは甲冑で寝てやる」


もぞもぞと、甲冑の中へ。そこに、ボロ切れを何枚か重ね、簡易的な布団にする。暗い、狭い、鉄と汗の混じった匂いがする。地獄のような睡眠環境だ。やっぱり、ベッドで...


「いやいや。誰がそんなこと」


「なんだ、やっぱりここで寝るか?」


うげ。聞いてやがったのか?性格悪いなあいつ。


「断る。今夜はここで寝る」


「そうか。それじゃ、お休み」


そう言うと奴はひらひらと手を振って睡眠に入る。


「クソが」


股間を撫で、小さくなったブツから汁を垂らしながら、甲冑の腕を通す部分から顔を出し、すぅ、と静かな寝息を立てる奴の足の裏を睨む。


「いつか、お前も狂わせてやる」


ふっ、と眠くなる。ああ、一発派手に出した分、反動が来たんだな。


「寝るか。...おやすみ」


そうして、一つ夜があけていく。翌朝、俺様たちはクエストをこなすため、街へ出て行くことになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る