第85話
瑛美里にベンチに座るように言ったあと、わたしは話を始めた。
「今朝起きてリビングに行ったら、親がいたんだ。
お父さんは仕事が忙しくてあまりうちにいない。単身赴任だと思って気にしないようにしてきた。
お母さんは看護婦なんだよね。わたしが中学生になったくらいから、夜勤をいれるようになった。家事できるようになりなさいって。お母さんがいないときは、家のことはわたしがしていたんだ。それは当たり前だと思ってて」
そこまで話したら、喉が異様に渇いてきた。呼吸しづらい。
「お父さんが帰らなくなって、お兄ちゃんがお母さんを怒鳴っていても、本を読んでやり過ごしてね。
お兄ちゃんはどんなに見た目が変わっても、悪いことばかりしていても、わたしには優しくて。お兄ちゃんの友達も一緒にゲームしてくれたり。
だから居心地が悪いとは思ったことないんだよ。親が家にいないほうが、安心できたような気がする」
何をどう話せば、今の気持ちを伝えたことになるのか、わからなくなっていた。
「言いたいことを言わないまま、ずっとそれが当たり前って思ってきた? 紗月は、辛かったんじゃないかな。しんどいって誰かに言ったことある?」
瑛美里が、わたしの手を取る。
「真面目にしてきたのは、そうしていたら何も言われなかったから」
「それが紗月の武装だったんだね……」
武装……。
そうだったのかもしれない。
「弱音、吐いていいんだよ。あたしや及川くん、お兄さんに甘えたらいい」
弱音を吐く。甘える。
慣れないことを少しずつ。
「昼ご飯、あたしン
瑛美里が、わたしの話で泣いている。わたしはそれを見て、瑛美里に抱きついて泣いた。
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